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蛮神の宮は東方に消える(3)

趣味で書き始めました。

「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。

読む前に、以下の注意に目を通してください。


【注意事項】


・ハーレムなし。

・デスゲームなし。

・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。

・キモイ主人公。

・読みづらい。

・残酷な描写や暴力表現あり。

・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。



 もはや言葉を発する者はいない。

ディエゴは扉に近づくと、取っ手に指を掛けた。

内側に向かって開いた向こう側は、最初の分かれ道よりも大きな部屋であった。

2人が身を滑り込ませ、ディエゴが手を離すと扉は音を立てて閉じた。


「圧縮術式、解凍。照明球」


 ヨアンは掌に出現させた球体に圧を加え、頭上に放った。

その瞬間、部屋は橙色の光が差す。

部屋は円形の石造りだった。中央に立つ洋風の東屋らしきものからは、方杖を思わせる部材が八本、天井を支えるように迫り出している。

東屋の中央、複雑な亀裂から油のようにねっとりとした気配が噴き出す。それはディエゴ達の眼前で明確な形を得た。


 深い紺色の体毛の隙間に芒果のような器官を6つ備えた、震える肉の塊。

肉塊の正面には、幼児のそれをデフォルメしたような顔がある。

怪物は抹香のような匂いを漂わせながら、甲高い悲鳴を上げた。


――悲鳴と同時に3人の足元が震え、頭上から轟音が響いた。


 本部が自爆しているのだ。

あらかじめ指定されたルートの一つをディエゴ達が歩いたことで、仕掛けられていた爆弾が起動したのだ。

地上、地下問わず鉄筋がへし折れ、コンクリートが通路を塞いでいく。


「フフフ…そう来たか!!」

「ダー・サ・キート」


 3人は広間から姿を消した。

彼らは刹那の後に、赤門東交差点に出現。

そのまま拠点のビルに逃走を図った時、爆音が夜空を衝いた。

振り返った3人の背後、黒々とした触肢が静寂を切り裂く。

直後、間欠泉のようにドロドロの肉が噴き出す。肉は空中で形を整えていき、その表面が見る見るうちに毛髪で覆われていく。


「ちょっと見ない間に、大きく育っちゃって~」

「逃げましょう!!留まって戦う必要はありません!」

「だったら先帰ってろ」


 素っ気ないディエゴの言に、フレデリクは思わず頭に血を昇らせた。

彼が拘束されたら、他の遭難者達にも類が及ぶ。


「ザ・イー・チ!」


 フレデリクが唱えると、3人はその場から姿を消した。

移動して間もなく、肉塊の叫びが中区全域に響き渡る。

肉塊は全長40m・幅25m近くほどにまで成長すると、体毛の間から突き出した触肢で手近な建物を叩き潰す。


 近隣で眠っていた住民は、本部が倒壊する音を聞こえると、弾かれるように起きた。

そして何が起こったか確認して、肉塊を視界に入れてしまう。

肉塊を見た一般人を耐え難い寒気が襲い、身体から活力が抜けていく。


「何やってるんだ!走れ、走れ!」

「あぁ、避難場所まで運ぶから、荷物!」


 異能者達は肉塊の討伐より先に、彼らの避難を優先した。

未だ記憶に新しい、7月の異変の再来である。


 一方、肉塊も逃げる市民に気づいた。

彼は触肢を伸ばし、人込み目がけて突き出す。

目に痛いピンク色が群衆に刺さる直前、女の顔を載せた獅子が住民と触肢の間に入り、鉄の爪を振るう。

爪の一閃は暴風を生み、触肢は風船のように弾けた。

暴風は触肢を根元まで切り裂く。裂傷はそのまま肉塊にまで達し、傷口からペンキの様な黄色い液体がまき散らされる。







 同じ頃、アルスラはビジネスバッグを手に、地下道内を掛けていた。

その後ろを15名のコート姿がついていく。フードを下ろしているため顔は窺えず、背にはデイパックを背負っている。

鞄の中に入っているのは組織の維持に必要な器物だ。帳簿ではない。そのあたりは全て本部に置いてきた。


「死んだでしょうか?あの異世界人共…」

「生きてるんじゃない?以前聞いた話が真実なら、あの程度の仕掛けで死ぬはずないもの」


 慄く会員達をなだめて、アルスラは走り続ける。

彼女は現在の状況がいつ来てもいいように、準備だけはしていた。

南雲竜二を12人の王に供えた時には、本部に踏み込まれる事が分かっていた。


 普通の街なら、静かに逃げおおせる事が出来たろう。

しかしここは異能者の集う名古屋。

然るべき人員を揃えれば、如何なる巧妙犯罪を暴くことができる。

この街で人ひとり消すのは、かなり危険だ。


―疑われるだけなら別にいい。


 人が消える要因など、この街には掃いて捨てるほどある。

それでも死体が出れば騒ぎになるから、処分には気を付けていた。

先にやってきた人材派遣ネットの二人にも、市外に越してもらった。


(あの父親も消すべきだったか?)


 あまり短期間に失踪が続けば、気づく者は気づく。

南雲父の引っ越しは、年が明けるまで待つつもりだったのだが。


(ここも短い付き合いだったな…)


 8年かけて掌握し、実際に利用したのは5か月。

作った地下空間は背後で崩れつつある。

現在地まで爆破がやってくるまでに脱出しなくてはならないが、惜しむ気持ちは拭えない。


「アルスラ様!前を!」

「何?」


 前方の闇に焦点を合わせる。

何かいる。知らない気配だ。

気配はこちらに近づいてきており、まず足音がアルスラの前に現れた


「こんばんは」

「……こんばんは」


 見覚えのない2人の女。

右に立っている者は縁のある眼鏡をかけており、小柄。

顔の造りがやや幼いが、それとは不似合いなくらい表情が乏しい。

左に立っている者は、眼鏡より背が高い。

長い髪を一つに結んでおり、こちらを値踏みするように見つめる。表情は硬いが、突き放すような印象は無い。


 会員達がゆっくりと前に出て、アルスラを背後に押しやる。

二人が武器を持っている為、警戒しているのだ。

背の高い女はショットガンを銃口を右手に向け、相方の一歩前に立っている。

眼鏡の女は鞘に納まった日本刀を左手に、腰の位置で浮かせていた。


「何か用?」

「貴方達に興味があってね。場所を移して話さない?魔術師のアルスラさん」


 闇の中、眼鏡の女――早苗が試すように笑った。

彼女は各コミュニティの情報を漁っている最中、彼女の秘密を知った。

垣間見えた部分に興味をひかれて今夜、接触を図ることにしたのだ。





 夜が明ける頃、肉塊は討伐された。

翌日から維持局は本部跡の発掘作業を始まった。

積みあがった瓦礫が撤去されると、地下道の入口が顔を出す。

通路は土で埋まっており、これを掘り進むのに多くの時間と人手が必要になった。


 維持局はBTD会員を40名以上拘束したが、いずれも組織にとっては末端でしかない。

捕まえた所で大した事は喋れない。正義を掲げる維持局は、手荒い真似はしないだろう。

だからアルスラは彼らを置いて行った。

調べた会員達は案の定、核心に触れる情報を一つも持っていない。

使える手を片っ端から打ってみたが、5日が限界だった。


 発掘作業が切り上げられるまでの2か月の間に出てきた死体は、白く硬化した南雲竜二の死体のみ。

アルスラを含む幹部達、コミュニティのトップの森ケセドらはこの夜以降、姿を消した。



ありがとうございました。

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