蛮神の宮は東方に消える(1)
趣味で書き始めました。
「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・キモイ主人公。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。
ディエゴ達が名古屋に来てから、2日が経った。
来訪者達の噂が各地で言い交わされ、彼らが近くを通りかかった際は一般市民も地下や建物から顔を出した。
この頃には言語翻訳の術が遭難者達にも施され、フレデリクはヘッドセットをしまうことができた。
時空間移動システム"漂流する銀扉"は未だに機能せず、3人の冒険者は情報収集の傍ら、コミュニティで依頼をこなして過ごしていた。
栄2丁目に建つホテル…の隣のビルが、現在避難者達の拠点として用いられている。
ホテルには数十人の市民が出入りしており、来訪者達と最も多くやり取りしているのが彼らだ。
帰還手段が見つかるか、新たな住居が見つかるまでの間、ディエゴ達はここで寝起きする事になった。
夏に街から脱出した異能者が、このホテルに敵除けの印を残していった。
魔物を寄せ付けない印の効果は建物の外にまで及び、この付近は一般人でも安心して出歩ける比較的安全な一帯である。
朝、ビルの一室。
遭難者が寝起きしている殺風景な部屋の一つ。
布団の上で座ったり、横たわったりしている群れの隅に、ディエゴ達3人は固まって今後の相談をしていた。
「なんか、名古屋にも慣れてきたよね…このままこっちで暮らすぅ?」
「本気ですか?」
「嘘だよ」
この2日間、ディエゴ達は市内の各所を歩き回った。
異なる空間を行き来する異能者の性質を聞き知った際は光明を得たように思えたが、見知らぬ世界と行き来できる者などいるはずがない。
材質不明の柱も調べてみたが、脱出への手掛かりは得られなかった。
「たしか俺らがこの街に来るのって、予言されてたんでしょ?」
「あぁ…そういえばそうだったな」
「予言と言うほどのモノではないでしょう。"異国の客人"なら外国の人間…最悪県外の人間なら、誰でも当てはまりますよ」
BTDが発行している予言は、如何にも意味ありげで曖昧だ。
蟲の王、甘い水、神の印…読み手次第で、どんな風にでも解釈できる。
例えば「獣の群れ」などは、"ならず者の集団"でも"怪物の群れ"でも予言者は話を進める事が可能だ。
(数字が明確化されているのが、気になりますが…)
予言の期限は明かされていないが、代わりに数字が登場する。
5つの前兆、9つの星、12人の王。
日時を限定していないのに、あえて数を出した意味は?
この段階で、フレデリクの思索は行き詰まっていた。
「行くだけ行ってみようぜ。ほかに当てもないだろ?」
「えぇ。あまり信用しないように、と言いたかっただけですから」
「じゃー、今日はそっちを調べるって事でいい?」
3人は簡単に支度を済ませてから、上前津に向かった。
前津通を目指して若宮大通を歩いていた時、異様な光景が目に入った。
コンクリートから白い物が生えている。それは地球人から見ると、カリフラワーの花蕾に似ている。
成人の頭くらい大きい花蕾の群れは何をするでもなく、静かに佇んでいた。
冒険者の性を刺激された3人は武器を取り出し、通りを進む。
歩いている3人の耳に、獣の雄叫びが飛び込んでくる。
進む度に破壊痕が、宙に溶けつつある怪物の死体が目に入った。
しばらく進んでいくと、怪物達と戦闘する7人の男が視界に現れる。
そのうちの一人がディエゴの元に駆け寄ってきた。
男はポケットを所狭しと取り付けたベストを身に着け、紺色の剣を持っている。
「あんた達ここで…ひょっとして、異世界の?」
「またそれか…」
男はこの先で、怪物の掃討が行われている事を説明した。
異変の中心は若宮大通公園であり、そこにダンジョンの入口があるのだろう、と男は話した。
ダンジョンの出入口付近では、何かしら怪奇現象が発生する。発見された10近いダンジョンを根拠にした推論だ。
「作戦が終了するまでは、此処から先に近づかないでほしい」
「俺達、BTDの本部ってトコに行きたいんだけど」
「申し訳ないが、通行止めだ。迂回して向かってくれ」
ディエゴはダンジョンを探索してみたい、と思った。
これまで数え切れない程の遺跡、迷宮を踏破してきた。
ダンジョンの内部は管理者の精神が反映され 物品は尽きる事が無いらしい。
冒険家の血が騒ぐ。飛び入りで作戦に参加できないだろうか?
(異能者ってヤツとも戦ってみたいしな…)
精神力を外化させた異能を振るう、超人達。
もし断られたら、"撫でて"やろう。
ディエゴが口を開きかけた瞬間、フレデリクが先行する。
「分かりました。行きましょう、2人とも」
2人の腕を引っ張って、フレデリクは引き返す。
付き合いの長い彼は、ディエゴの殺気が膨れ上がった事に気づき、トラブルになる前に立ち去る事にしたのだ。
肩を透かされたディエゴは何も言わず、眉を片方持ち上げた。
3人は裏門前町通を通過し、上前津のBTD本部に向かった。
大須通と大津通の交叉点に建つ、石貼りの白い建物を見上げる。
半円柱が装飾された外観がレトロな雰囲気を漂わせるが、ディエゴ達がそう思ったかどうかは分からない。
後から取り付けられたのだろう、不似合いな看板の下を潜って中に入る。
「今日はいかがされましたか?」
「お――」
「こちらで説いている教義について詳しく知りたいのですが。法話を行っている集会所はどこにあるのでしょうか?」
適当な窓口に座ったフレデリクが、遮るように話を切り出す。
「法話…?会員になりたい、という事ではないのですか?」
「違います。祭儀や礼拝に参加したいのですが。」
「あのー、そういった事は行っていません。ライブ後にメンバーの方々とお話しする時間がありますので、3番窓口でチケットをお求めください」
案内されるがままに窓口に向かい、チケットを入手。
3人が席を離れると、受付事務員は近くの会員と言葉を交わす。
ディエゴ達の容姿はこのコミュニティ内でも相当に目立っている。
「待ってー!待って…下さい」
ディエゴ達が本部から退出する寸前、女の叫ぶ声が掛けられた。
振り向いた先にいたのは、白い女だ。
輝くような銀髪に白い肌、華のある笑みを浮かべる顔の出来栄えは精巧無比。
名古屋よりもディエゴ達の世界に馴染むだろう、緑と金のまだら模様のローブを着た女が息を切らせて立っている。
「貴方達、白川公園に現れたっていう遭難者の人かしら?BTDに興味があると、聞いたのだけど?」
「そうだが、あんたは?」
「私はアルスラ。一応、ここの幹部という事になってるわ」
白い女は姿勢を正して名乗った。サングラスで隠され、目元は窺えない。
「私達はバンドグループの運営を主としているから、祭礼は行っていないの。けどせっかく足を運んでもらったことだし、良かったら私達の信仰と目的について、聞いていかない?」
「えぇと…是非。ですが何故?」
「私も噂の異世界人に、人並みに興味があるの。そちらにばかり話をさせるのも失礼じゃない?」
フレデリクは2人に目配せをして了承。アルスラは上機嫌な微笑を浮かべて答えた。
彼女の後ろについて応接間に入り、促されるままにソファに座る。
ややあって、人数分の緑茶が運ばれてきた。流石に菓子はついていない。
アルスラと向かい合った3人は、改めて彼女の顔を眺めた。
俗っぽさを感じさせない顔は、瑞々しい青春の気配と積み重ねた年月を兼ね備えている。
盛り場に1時間も座っていれば声が掛かるだろう、美しい女だ。
こうなると目元を覆うサングラスが、煩わしく感じられる。それが外された時、どれほどの輝きが目の前に顕れるのか?
「それじゃ、私から話そうかしら?」
「そうですね…お願いします」
「わかったわ」
アルスラが話した内容をまとめると、以下のようになる。
12人の王が地球にやってきた当時、この星は渇きが支配していた。
彼らは渇きを駆逐すると、地上を整えて何物でもない原始的なものを生み出した。
王達は原始の生物に魂を与え、その魂は生物に多様性と進化をもたらした。
時が経ち、王達の肉体は滅び、精神は地の底で眠りについた。星が死に瀕した時、復活することを約束して。
彼らが眠る間に人類は大地を枯らし、空を灰で染め、水を汚した。
5つの兆の後、12人の王は肉体を得て蘇る。復活した彼らが星の在り様を見た時、地上の覇権を人間達から取り上げるのは、もはや避けられない。
しかし、自らの愛し子である人類全てを憎んでいるわけではないのだ。恙なく覇権を譲るなら、彼らは慈悲と慈愛を施してくれる。
我々の使命は審判の時、裁かれる人類を一人でも多く減らす事にある。
――12人の王の名はユダ、スカバル、リザンド、イムバ、モオシャ、リン、パネルティス、エルハーム、ネストベーフ、ムンサン、テンヌ、ハリマルド。
「勉強になりました。僕が知っている宗教結社と違い、開かれた組織のようですね」
「託宣を行う事もあるけど、彼らはあくまで音楽グループ。歌手を志していたのに、宗教家として名が売れてしまった事は、不本意とすら思ってるみたい」
長い話を終えたアルスラは、声を抑えて笑った。
「よく教祖から降りないな、そいつ等」
「これだけの人々が集まっているもの。それに、彼らに備わった霊感は代えの利くものじゃないから」
「ふーん」
「さ、次は貴方達の話を聞かせて?都合の悪い部分は省いて構わないから」
アルスラは身を前に乗り出し、ディエゴ達を見つめる。
フレデリクが代表して、自分達の旅の経緯を話す。
勿論言われた通りに、仲間たちのプライベートなど明かすことが憚れる部分は省いた。
話している間、アルスラは口を挟むこと無く、興味深げに相槌を打っていた。
「異なる特徴を持った5つの人類が繁栄と滅亡を繰り返した世界…」
「そ、子供みたいに人の良い人類とか、ディエゴみたいに乱暴な奴らとか、いろいろ見たよ~」
ヨアンがディエゴに向かって顎をしゃくる。
「確か、こちらにも似たような伝承があったはずよ」
「そうなのか?」
「貴方達と関係は無いと思うけど…興味深いわ」
アルスラが考え込むような素振りを見せた時、ヨアンが声をあげた。
「あ!そうそう、俺達帰る手がかり探してるんだー。お姉さん、予言してたんでしょ?何か知らない?」
「予言?あれは森様が受け取った言葉を文書にしたものだから、貴方達の到来を予知したとは言い難いんじゃない?」
「真否を疑っているのですか?」
フレデリクに問われたアルスラは、静かに語る。
「私達がそれを判断することは無いわ。12人の王から告げられた言葉を、そのまま広めるだけ。勝手に解釈して、込められた意図を歪めてしまうわけにはいかないの」
「ふーん」
アルスラは腕時計にちらりと視線を滑らせる。時間は12時を回ろうとしている。
「もう12時を回るし、このあたりで切り上げようと思うのだけど、他に質問は無い?」
「はい。長々と時間を取って――」
「いえ、引き留めたのはこちらだから。それとお昼こっちで食べてく?御馳走するけど」
満足げなアルスラの勧めを、3人はありがたく頂戴した。
携行食糧かとディエゴが尋ねると、 彼女はダンジョンで手に入った食料を使用すると答えた。
「今日はありがとう。今度は彼らのライブも見に来てね」
「機会があれば、ぜひ」
応接間からロビーに向かう4人の耳に、怒号が飛び込んできた。
アルスラが足取りの間隔を早め、ディエゴ達も駆け足気味に追い縋る。
受付前に戻ると、草臥れた中年男性が会員の男達に両腕を抱えられている場面があった。
身を捩る男の両手から床に、紙束がこぼれ落ちる。
「アンタもしつこい人だね!」
「息子の話を聞かせてくれればそれでいいんだ!あれもこれも探ろうって気はない!」
アルスラが揉めている一団に近づくと、また怒号が大きくなった。
ペコペコと頭を下げる彼女に、中年男性が掴み掛かろうとする。
それを会員達が阻み、そのまま外に引き摺って行った。
「ねぇ――」
「静かに」
フレデリクは小声でヨアンを遮ると、散らばっている紙束の一枚を拾う。
それは失踪者の情報提供を募るためのビラだった。
年齢や身長体重など特徴が明記され、その上に大きめのフォントで名前が記されている。
捜索対象の名は、「南雲竜二」。
ありがとうございました。