旅人は東雲の下に流れ着いた(3)
趣味で書き始めました。
「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・キモイ主人公。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。
ディエゴはステップを踏んで近づき、懐から取り出した短剣を投げる。
この程度で目の前の蛇身の怪物に傷をつけられるとは思っていない。
「シャ・ダル・ク」
フレデリクが呟きを終えると、ディエゴの愛剣が妖しい光を帯びる。
地を蹴り、矢のように跳躍。左脇から、祝福が与えられた長剣を振り上げた。
城壁すら断つ豪速に呪力が加わり、彼の剣は今や余波だけで、地形を崩す。
アスファルトが砕け、硝子の雨が降り注ぐ。
〈痛ってェ!?〉
速度で大きく劣る蛇身は、持ち前の頑健さで耐え抜いた。
負傷は深く、その身体は骨まで裂けている。
転倒した蛇身にヨアンが銃撃を浴びせるが、怪物は下半身を動かし、3人から這うように逃れる。
ディエゴは追いすがり、蛇身の腹を薙ぐ。
続けて突き、縦斬り、袈裟懸けに振り上げ、と巨体を切り刻む。
蛇身も戦斧を振るうが、体格差もあって全く当たらない。
「どうしたどうしたァ!?斬られるだけなら死体と変わらねぇぞ!!」
フレデリクは恐怖喚起の呪文を唱えるが、蛇身は反応しない。
その肉体は雑多な怪物とは程度が違い、精神干渉への耐性を備える。
〈ぬぅぅ…〉
如何にも腹立たたしげな様子の蛇身は戦斧を構え、腰を落とす。
筋肉に緊張が浮かび上がり、そのまま静止。
それを見たフレデリクは、被害逸らしの呪文を唱える。
「ハス・ザ・ラ」
呪文が発動し、ヨアンの眼球が射撃準備を終える寸前――蛇身は上半身を撃ち出した。
下半身の勢いで戦斧をぶん回し、空間に数十の斬撃を起こす。
ここまで蛇身が見せてきた動きとは、機敏さがまるで違う。
「うおッ…へへ」
「ひゃっ!…ふぉぉお――」
ほぼ同時に出現した、複数の斬撃が3人を取り囲んだ。
フレデリクの傍を通り過ぎた斬撃が、彫刻刀のように路面を彫る。
ディエゴは防御態勢を取り、攻撃を凌いだ。
腕や背中、頭蓋を負傷したディエゴの身体が、一瞬グラリと揺れた。
しかし依然として意気は萎えておらず、その事は表情を見れば明らかだ。
ディエゴは負傷したまま強く踏み込み、長剣を暴力的に振り下ろす。
蛇身の身体が正面から背中まで裂け、路面が広範囲にわたって陥没する。
身体をくの字に折った蛇身は口腔を露にし、激しい炎を吐き出す。
火炎の勢いはディエゴの姿が視界から消える程激しく、それ故に彼の動きを捉えることができなかった。
ディエゴは敵が口を大きく開けた際に、危機を予感。弾かれるようにその場から離れた。
「不味い不味い不味い!洒落にならない!!」
騒ぐヨアンを見かねて、フレデリクは治癒の呪文を掛ける。
骨格を覆う人工筋肉が破け、電子配線から火花が散っている。
右足もだらりと動かなくなった。流せるなら、ヨアンは涙も流していただろう。
呟きが終わると損傷が塞がり、動くようになった右足の感覚をヨアンは確かめる。
(とりあえず動くけど…すり減りは直らないんだよな~。集積回路までどうにかなる前に帰らないと!)
「ディエゴさん、大技いきます!」
「ん!?おおし、行け!ヨアン来い!」
フレデリクが後退りつつ言う。
ディエゴはヨアンとフレデリクを抱え、爆発するような踏み込みを置き捨てて疾走。
「ちょっとおぉぉ――!」
「サク・ウァト・ホー・ラム」
巨大な光の花弁が、光に等しい速度で開く。
黄金色の光輝が視界に入った直後、3人の身体を爆風と轟音が揺らした。
既知の術であり、宣言なしでの使用をグループ内で固く禁止した、強力な攻撃魔術である。
日土地名古屋ビルはこの時、微塵に砕けてその姿を消した。
光が晴れ、現場に隕石が落ちたような大穴が出現する。
勿論、攻撃範囲の外も無事では済まない。
路面が煮え立ち、立ち並ぶビルが刹那に百回は震える。
火の上を進むような痛みをこらえていたディエゴは、遠く三蔵通の前まで吹き飛ばされた。
「痛ってェェ…」
「う、ヨアンさん、ヨアンさん!」
路面に叩きつけられたディエゴは2人を抱えたまま、しばし転がった。
横転が止まると2人を離し、素早く立ち上がった。
フレデリクも聴力を取り戻すと、痛めた体を強引に動かす。
途中、ヨアンが静かな事が気になった。
「…あああ――!!もう、嫌だぁあ!!二度と撃つなってだいぶ前に言ったろ、くそがァ!!」
「うるせぇ!」
フレデリクに食って掛かるヨアンをディエゴが殴り飛ばす。
頬を押さえて睨みつけるヨアンを無視して、自分達がやってきた方へ視線を向けた。
舞い上がった砂塵が山のように見える。
天を覆わんと広がるそれが一瞬で掻き消えた時、ディエゴの視線が険しくなった。
「hnДctЁk!」
「g〈j÷kkΡ$」
「ΘΦlvv」
空からは人型の異形の群れ、街路からは紺色の上下に身を包んだ男女が近づいてきた。
彼らはディエゴ達を補足すると、直ちに取り囲んだ。
その口々からは、謎の言語が引っ切り無しに吐き出されている。
「は?」
「あー、言葉が分かんないのかー」
彼らからすれば自分達こそ言葉が分からない蛮族なのだろうが、それは鶏と卵、どちらが先かという程度の事。
ヨアンは聴力を高め、じっと彼らの話し声を聞き取る。
その間にフレデリクは鞄から、ヘッドセット型翻訳機を取り出した。
「言葉がわからないのか?」
『いえ、分かりますよ』
合成音声を耳にした相手方にどよめきが走る。
『抵抗するつもりはありません。訳も分からず名古屋に迷い込んでしまって、こちらも困っています。穏便な話し合いを望みます』
フレデリクが助けを請うと、またどよめきが走った。
彼らはどう出るだろうか?拘束し、荷物を没収するつもりなら、こちらも強行突破だ。
ディエゴ達は無力な一般市民ではなく、幾多の死線を潜り抜けた冒険者なのだから。
内々の相談がしばらく行われた後、厚い唇の男が進み出る。
フレデリクから3人の経歴、この場にやってきた経緯を聞くと、男は息を呑み、目を瞠った。
話し合いの末、彼ら――維持局を名古屋市科学館及び白川公園に案内。
十数名の遭難者が姿を消した事が分かると、直ちに捜索が開始された。
維持局の案内で、ディエゴ達を含む遭難者達は旧中警察署に向かう。
倒壊した建物や瓦礫を迂回しながら、建物に到着。
厚い唇の男――千葉亨之は彼らを1階ロビーで待たせてから、奥に入った。
しばらくして亨之が遭難者達の元に現れる。
「待たせて申し訳ない。言語を翻訳できる異能者を連れてくるので、それまではこちらで用意した建物で待機してもらいたい」
それをフレデリクが翻訳して、遭難者達に伝える。
彼らはため息交じりで自分達の今後について相談し合う。
仕事、休暇、それぞれの予定が海獣との邂逅で不意にされ、突き合わせた顔には憔悴と憂いが滲む。
「ねぇねぇ、俺らだけで探索に行かない?」
ヨアンが含み笑いで提案する。現状に不安を抱く一方、彼は新しい旅の予感に胸を躍らせていた。
始めての土地に、好奇心を大いにくすぐられたのだ。
「うん?そりゃあ、調べるつもりだが、なぁ?」
「ええ」
「フレデリクは耳当てあるし、俺も翻訳が完了すれば喋れるようになるし、こっちの言葉喋れないのディエゴだけになるよね?」
「そういえば、前の旅で売っていましたね…」
フレデリクが思い出したように言った。
旅の途中、食糧や装備代で足が出てしまい、ディエゴが売り払ってしまったのだ。
別れたメンバーが持っていった分を除くと、ヘッドセット型翻訳機の所持数は現時点で1つだけである。
「あーん?そうだったか?それじゃ、交渉はお前らに任せるかね」
野良犬同然で生きてきた、冒険者の自負からくる発言だった。
言葉が通じない程度は問題にならない。ディエゴは在り方の根本が狩猟民族なのだ。
しかし、彼にここで揉め事を起こされる訳にはいかない。
話に区切りがつき、フレデリクは亨之の元に向かう。
『僕たち、こちらにいるディエゴとヨアンの3人で街を探索したいのですが、構いませんか?』
「色々と不都合もあると思うが…それは大丈夫か?」
『それは大丈夫です。揉め事には慣れていますので、問題ありませんか?』
「上の返答次第になる。許可が下りた場合は、こちらから一人つける。いいか?」
『ありがとうございます』
午後3時近く、ディエゴ達の元に私服姿の雅音がやってきた。
彼女は簡単な自己紹介をすると、フレデリクと会話し始めた。
ヘッドセットを起動した状態だと母国語がマイクに吸われてしまう為、日本語でしか喋ることができない。
自然、ヨアンはディエゴを話し相手にする。
「初めていく場所ってわくわくするよね!どこ行く?」
「さっきの公園だろ。つーか、身体の修理ができないのはいいのか?」
「えー?だって、お父さんのトコに帰れなきゃしょうがないし。立ち直りが早いのが、俺の持ち味だから…」
うきうきした様子のヨアンに、ディエゴは素っ気なく返す。
4人は夕方の公園に着くと、帆船の残骸を調べる。
その間に日が暮れたが成果はない。相変わらず、元の世界に帰還する事はできない。
割り当てられた拠点に帰る途中、鱗甲に覆われた小鬼が5体出現した。
戦闘態勢をとった雅音の横を、ディエゴが通り過ぎる。
吼える小鬼が身体を丸める。小鬼は頭や両腕を内側に収め、スーパーボールのように一度跳ねた。
まっしぐらに突進するボールの間近に、4つから6つの軌跡が夜闇に描かれる。
雅音が瞬きを一度すると、継ぎ目のないボールが小鬼の細切れに変わり、その傍らに甲冑の背中が現れた。
『ベー・シャ・ティム・ザー』
辛くも逃れた1匹がフレデリクに迫るも、動じることなく唇を動かす。
呟きが夜に溶けると、三日月に似た茜色の刃が1匹を取り囲む。
小鬼のささくれた外皮から水分が抜け、あちこちにできた亀裂から炎が噴き出す。
細切れになった手や足、胴体が炎に巻かれる。やがて亡骸の粒子が宙に舞い上がった。
ありがとうございました。