肥えた女は理想郷を探す(2)
趣味で書き始めました。
「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・展開次第でハーレムもあるか?
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・キモイ主人公。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。
喉と舌が狂ったように飲食を求めるが、何を食べても癒されない。
そんな時、珍しく母親が帰ってきた。本能、なのだろう。玄関から母親を引き寄せ、一言も声を出させる事なく、香菜は彼女の血を啜ることが出来た。
空腹が癒え、首筋を露にした彼女を見た時、香菜は自分が何者になったのか悟った。
――吸血鬼。
母親はしばらく体調不良だったが、まもなく衰弱死。
警察に捕まるだろうかと怯えていたが、誰も香菜を逮捕しに来る事は無かった。
母親が死んだ時、自分でも驚くほど心が動かなかった事に気付き、香菜はゾッとした。親子の繋がりは、自分が思っていた以上に脆かったらしい。
それから何度となく、血を吸った。
食事に出るのは吐く程恐ろしいが、空腹感で意識がはっきりしなくなるのは恐ろしい。
公衆の面前で、通行人に襲い掛かる事を考えれば、こっそり人を襲う方がマシ――香菜は袋小路に入っていた。状況が変わったのは、女が訪ねてきた時。
「初めまして」
「だ、だれ!?」
「私は貴嶋早苗。貴方についてはおおよそ把握してるから、喋らなくていいわ。封鎖の外で生まれた異能者」
「!!?」
早苗は紀里野道隆を紹介してくれた。
浜松の事件の主犯、愛知県を巨大怪奇スポットに作り替えた男。
(すごい人だなぁ)
現在の中部に作られた膠着状態を作った。
一県を己の能力に沈めた男。早苗がもたらした道隆の情報は、香菜の妄想によって歪み、徐々に姿を変える。
異能者の首魁、封鎖された愛知県の管理者。彼女の中で道隆像はそのように変化していった。
このまま留まっても、いつか捕まるか、おかしくなるだけだろう。父親――暗示をかけた傀儡に始末を押し付けて、香菜は家を出た。
道隆なら、血を必要とし、血を吸った相手を死者に変える自分を許してくれる……はずだ。
香菜は日没が近づくにつれ、全身に精気が漲るのを感じた。
三段腹が羽のように軽くなり、恐怖心が抜けていく。この時間を迎える度、夜の生き物になったのだと自覚する。
(開けてくれるかな…)
これだけの異能者を自分の領域に置いているのだ、きっと開けてくれるはず。自分一人の居場所ぐらい、用意されているだろう。
香菜は空きビルから顔を覗かせると、そそくさと走り出した。
道隆の気配は、頭に叩き込んである。香菜は風に乗るように、北に向かって駆ける。
食事の間隔は、人間のそれよりも長い。それだけが救いだ。
香菜が北区平安を探し当てたのは、道隆がインストール済みのPCゲームをクリアした所だった。
気配は無い。魔物がバリケードの外をうろついている女の存在を教えてきた。心当たりがあったので見に行くと、昼間に見た女だった。
「何してるんだ」
「あ、あの……コミュニティを追い出されちゃって、それで行く所が無くて、お願いします!ここに置いてください!」
道隆がまず感じたのは、不審。
追い出されたのはまだ良い、しかし何故此処が分かったのか?
向かい合っていても気配は感知できないが、実は異能者なのではないか。疑念が次々と湧いてくるが、企みらしいものは窺えない。
喘鳴のように荒い呼吸する彼女は、追い詰められているようにしか見えない。
「ちょっと待ってろ、他の奴に聞いてくる」
「他の奴」
「一緒に暮らしている人達」
道隆は2体の魔物を召喚し、肥えた女の護衛にあたらせる。
貴族風の豪奢な衣装に身を包んだスズメ頭と、古代甲冑を纏った剣士。
道隆は外壁を軽々と昇ると、牧野母子や暁と相談するべく、自宅マンションに走った。
牧野家のインターホンを押し、用件を告げる。
暁や、道隆らのざわめきに気づいた咲世子達が集まってきたのは、当然の成り行きだろう。
会合は道隆の部屋で行われる事になった。
ありがとうございました。