煩悩の守護者、夢の中に来たる(1)
趣味で書き始めました。
「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・展開次第でハーレムもあるか?
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・キモイ主人公。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。
道隆は、反応に迷った。
男は異物だ。ここまで強烈な気配に出会ったのは、一宮など愛知県内名古屋市外に出現した巨大怪獣以来だ。
しかし、向かい合っていると敵意が削がれる。道隆が突っ立っていると、男は双手を持ち上げて、友好の意を示した。
「会えて嬉しいよ、強情の君。我が名はナムチ。マーラ…のほうが通りがいいかな」
「マーラ?」
道隆はその名に心当たりがあった。
煩悩の魔人であり、悟りを開かんとした覚者の邪魔に入った悪魔、あるいは魔王。
これほどの大物に声を掛けられる覚えがない。好奇心半分、困惑半分で道隆は問いを投げる。
「…何しに来た?」
「お前を救いに来たのだ」
口をぽかんと開けた道隆を、マーラは濁った目で眺める。
「我にはお前の悲しみと憂いが分かる。お前は世界に期待し、他者に期待し、己はただ己であるだけで幸せなのだと信じた。その結果、お前は下層の住人となった」
「……」
「異能を得てお前は大きく、強くなった。その代わり、お前は襲撃者を警戒しながら床に就かねばならなくなった」
マーラは謳う。道隆は黙って聞く。
「悲しくなるんだよ。なぜお前が、酸いも甘いも知る事無く、青春を減らしていかねばならないのか?だからこの地に降りたのさ、魔界を閉じる男よ」
「親切なヤツだな。儂一人の為に?」
「そうだ。降りて分かった、この地にはあまりにも、飢え、渇いたものが多すぎる。だというのに、なぜ俺の腕の中から逃げようとする?」
マーラは目の前の男を見つめた。
まだ20を半ばであるというのに、老人のように草臥れている男。
道隆の喉まで、一つの質問がせり上がる。マーラに向かって、彼は問いを吐き出した。
「この名古屋を作ったのは、お前か?」
「そうだ」
マーラは言った。。
「望めばいい、欲しがればいい。口を開けていれば、我が望みの餌を放り込んでやるから。我の側にいろ」
「断る」
「なぜ、心地いいだろう?可愛い恋人、静かな学校生活、主席ではないが上位の成績、何か不安でもあるのか?」
切迫した様子のマーラを、道隆は嫌悪を滲ませて見つめる。
こいつか、この街を作ったのは。自分の記憶を覗いているらしいあの口ぶり、苛立ちが募る。
「居心地は良いよ、けどな、いつまでもこんなところいられない。儂は家に帰る」
「ここにあるじゃないか。足りないものがあるなら、望め。望んだ分だけ、欲したものは近づいてくるぞ?」
道隆はマーラにねだっているのではない。
ここは現実ではないのだ。この怪物が作り出した空間に、計り知れぬ意図のもと、捕らえられているに過ぎない。
どれほど快適だろうと、自分以外の者に生死を握られている――常に敵の襲撃を警戒しなければならない名古屋での暮らしと、何が違うのか?
「儂をここから出せ。儂は家に帰る」
「よく考えるのだ、帰った所で何がある?向こうにいるのはお前を頼り、利用せんとする者ばかりじゃないか。かつて手に入らなかったものも、ここでなら手に入るぞ」
それがどうした、と道隆は鼻白む。
一歩、足を踏み出した。会話していても埒が明かない。
道隆の身体が、変身の白い輝きに包まれる。血肉から重さが消え、内側を冷えたものが満たす。
白い光を突き抜け、変身した道隆が姿を現す。
全体は変わっていない。夜色の装甲の下を、青い皮膚が走っている。
しかし口元を包む面頬が消え、代わりに鋼色の仮面を着けていた。オレンジの複眼を避けて張り付くそれは、トンボの顔にやや似ている。
また顔と同様、胸部から腹にかけて、鋼色の外殻が出現していた。左右の脇腹では夜色の細い甲殻が、肋骨のように浮かび上がっている。
グラデーションは消えた両手と両足は青。ただ、両掌と足裏は見覚えのある灰白に染まっていた。
道隆は両手に、メリケンサックを呼び出す。
手が肥大化し、打点となる五つの突起が形成された。音速の2倍の速さで繰り出された拳が、マーラの顔面に刺さる。
吹雪が払われ、痩身が余波だけで吹き飛ぶ。飛び散る脳漿と血が、変身した道隆に降りかかった。
ありがとうございました。