旅人は東雲の下に流れ着いた(1)
趣味で書き始めました。
「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・キモイ主人公。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。
山岳に人目を忍ぶように立つ砦。
ここでは近隣の村を荒らしまわる馬賊が、寝起きしていた。
建物の一角から下卑た歓声が漏れ聞こえる。
騒いでいた男達は、扉が破られると、しんと静まり返った。
「誰だ!?」
「討伐隊だ、てめぇら無茶しすぎたな」
現れたのは3人の人影。
そのうちの一人、大柄で彫りの深い男が呆れたように言った。
「3人ぽっちで討伐隊だぁ?俺たちの人数は聞いてなかったのか?」
「見張りはどうした!?」
「とっくに死んだけど?山賊なんて阿漕な商売やってる割に危機管理がなってないってゆーか、この程度の規模で調子に乗り過ぎでしょお?」
性別のはっきりしない1人が顔を出す。
その造形は非常に精巧であり、賊の男達はしばし声を失った。
ある者はその出来栄えに、ある者は気味の悪さに。
機械人形――ヨアン-075は奥から品のない男達が湧いてくるのを見て、口を閉ざした。
「わざわざ喋らなくてもいいと思いますけど」
「えー?素直な疑問をぶつけただけだよ?」
長外套を羽織った痩身の男――フレデリクが高速で何事かを呟く。
まもなく、最後列の賊が硬直し、その身体が石となった。
「さぁ、奪って犯して生きてるんだ、覚悟できてるんだろ?」
甲冑に身を包んだ大柄な男――ディエゴは愉快そうに笑った。
殺到する武装した賊に、風のように迫る。
斧の一振りを避け、筋肉質な胴体を、愛用の長剣で袈裟懸けに両断する。
桶を返したように血液をぶちまけられ、テーブルが赤く染まった。
フレデリクは惨劇を尻目に、そそくさと奥を目指す。
追従するヨアンは突き出された山刀を躱し、眼球から真紅の光線を放つ。
光線は賊の心臓を貫通し、背後の壁まで拳大の穴が開いた。
続いて、逃げ出そうとした肥満体の男を狙う。
左腕のガントレットから鋼弾を浴びせると、男はもんどりうってから倒れ伏した。
山賊が一呼吸する間に、およそ3人から5人ずつ死んでいく。
宴会場にいた男達を殺し尽くすと、ディエゴは飢えた狼のように逃げた男達を追い回す。
遠くから怒声と悲鳴が聞こえ始め、ヨアンは化学繊維に包まれた顔を顰める。
フレデリクと二人で人質を解いて回ると、麓の村を目指して歩いて行った。
既に事切れていた者たちは、生存者と協力して、村まで運んで歩く事になった。
村まで生存者を移送したヨアンとフレデリクは、村長から報酬を受け取る。
約束通りの額。今回の依頼はつつがなく終了した。
後はディエゴが帰ってくるのを、待つだけだ。
「報酬はもらったし、あとはディエゴが帰ってくるだけなんだけど」
「迎えに行きましょうか…」
「えー、気が済んだら帰ってくるよ、待ってよーよ」
食堂で夕方まで粘っていると、待ち人が帰ってきた。
髪や鎧が湿っており、汚れを落としていたらしいとフレデリクは推測した。
「遅ぉい!何やってたの!?」
ディエゴはずかずかと2人の卓に歩み寄ると、勢いよく座った。
「汚れが落ちなかったんだよ!報酬は?」
「既にもらいました。それから、今夜は村長宅に泊めてもらう事になっています」
ディエゴは肯くと、酒と肴を注文。
それから満足いくまで、2人は飲み食いする。
食事を摂る機能を持たないヨアンは、仲間が夕食を終えるまで外を眺めていた。
流浪の剣士、折襟のコートを羽織った術師、人造人間。
ちぐはぐな3人組は、それぞれ違う時代で生まれた。
停滞した世界をかき混ぜるべく、造物主によって過去に送り込まれたヨアンは5つの時代を旅した。
それぞれの時代で異なる背景を持った人々と出会い、ついには滅びの未来を回避した。
現在、帰る宛を持っていなかった2人と共に、ヨアンは各地を巡っている。
数日後、海沿いの街で3人は食事処に入った。
ごちゃごちゃした店内に着席し、ディエゴとフレデリクが昼食を摂っている。
機械であるヨアンの前に皿は無く、天井や他の客に視線を走らせている。
3人は昼食を終えると、港に向かった。
魚市を抜けて辿り着いた港には、帆船が複数停泊している。
3人は大型の客船に乗り込むと、予約していた客室に向かう。
しばらくすると、船は海原に漕ぎ出した。
木造船の揺れに身を委ね、思い思いに時間を潰す。
しばらく経ち、フレデリクは船を襲う衝撃で、読んでいた本を手から落としてしまった。
「何今の!?海獣でもぶつかってきた!?」
「どうでもいいだろ!甲板に急げ!」
騒ぐ乗客を掻き分けて、ディエゴ達は夕方の甲板に出た。
緊張する3人の目に、船を襲う海獣の一部が飛び込んでくる。
流線型の胴体は黄銅色、城壁のような背びれが3人の視界に入った。
背びれが花咲くように開く。内側では触手の群れが蠢いている。
「おいィ!?絶対この船沈むだろ!?逃げよう!!」
「うるせぇヨアン!捌いて開きにしてやるぜぇええ!!」
狂したような叫びと共に、ディエゴが疾走する。
エビかクモを思わせる節足の生物が甲板に放たれていたが、ディエゴはこれらを一振り毎に散らしていく。
手摺り近くにいた1体を踏みつけて、一気に跳躍。携えていた刀身に火花が走り、霧のような黒い闘気に包まれる。
彼の闘争心が現実を侵し、ガスとなって放出されているのだ。
上昇を止めた瞬間、ディエゴが愛剣を縦に振り抜いた。
剣閃が波となり、海獣の巨体が真っ二つに割る。
波動は露になった背中部分を抵抗なく切り裂き、海面まで亀裂が生じさせる。
「ざまあぁ――!!蛮族に近寄るからこうなるんだよォお!」
「誰が蛮族だ!?てめェも斬り割るぞ!」
着地したディエゴは油断なく敵の動向に目を向ける。
手摺りから身を乗り出し、目を向けた先では海獣が水面に呑まれつつあった。
背後ではフレデリクや武装した乗客が、節足生物の掃討を済ませていた。
――このまま終わりか?
嫌な予感がする。
海面に飛び込もうとしたディエゴに、ヨアンが驚いたがそれまでだった。
不吉な気配に思わず振り返ると、まったく光を反射しない黒い砲丸が宙に浮いていた。
海獣が死に際に放った、最後の一撃である。
「助けてぇえ―!!水がァ!!ぼ、防水装備!!」
床の木板にヒビが入り、宙に浮いた。
「う、ぬぅうう…」
デッキに姿を現していた乗客の身体が持ち上がる。
海水や崩れた帆船が、悲鳴と共に漆黒の球体に殺到する。
3人も例外ではなく、ディエゴは砲丸に向かって「落ちて」いった。
昼の白川公園。
名古屋市科学館近くのグラウンドに、大量の海水と木片、数十人の男女が落ちてきた。
ディエゴは唸りつつ、ゆっくりと立ち上がる。
体の痛みを堪えて仲間を探す。
「おい、フレデリク!生きてるよな!?」
「う…ディエゴ、さん」
フレデリクは海水をたっぷりと吸った長外套を絞る。
視界の中では意識を取り戻した乗客が、徐々に木片の山から這い出してきた。
ディエゴが木材をどかすと、人工の皮膚に包まれた腕が視界に入る。
それを掴み、力強く引っ張った。
「痛ぁい!精密機械で詰まってるんだから、優しく扱ってよォ!!…あれぇ?」
ディエゴが無理やり立たせると、ヨアンは瞼を開けた。
彼は近くにある顔に気づくと、びくっと肩を跳ねさせた。
「生きてるんならいいや」
体のあちこちを見回すヨアンを無視して、ディエゴはフレデリクの元に向かった。
「ここはどこでしょうか?」
「お前のいた世界に似てる気がするが、見覚えあるか?」
「……確かに似ていますが、空気があそこより澄んでいる気がします」
そこは以前の旅で通った世界に似ていた。
彼方に並んでいる建物は輝くようで、年月をまるで感じさせない。
銀色の球体の前にある泉は水を絶え間なく噴き出し、足元の土は綺麗に均されている。
3人の出身世界のうち、フレデリクの生まれ育った世界に似ている。
「あれ?」
「どうしました?」
絶句しているヨアンに、フレデリクが声を掛ける。
「"漂流する銀扉"が開けない…」
「なに?」
「帰れない、このままじゃメンテできない!死ぬ!」
ヨアンは喚きながら、フレデリクにしがみつく。
「離してください!ひとまず…あれから調べてみますか?」
「そうだな…」
困惑した2人は顔を見合わせる。
他の乗客や船員達は見慣れない場所に出たことで混乱、あちこちを見回している。
3人は固まって話し合い、ひとまず銀色の球体に近づくことにした。
ありがとうございました。




