甘い水は獣の印(2)
趣味で書き始めました。
「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・キモイ主人公。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。
ミュータント、と呼ばれる者達がいる。
夏に現れた大型怪物の魔力によって、市内のあちこちで人々が異形と化したのだ。
彼らは異能者のような特殊能力を持たないが、その身体は頑健。
殺傷力のある部位を発現させた個体も確認されており、一般人の目から見れば同程度の脅威である。
彼らは異能者の変身とは違い、異形の姿のまま固定される。
県外で人並みに暮らす様など、想像すらできない。
奇怪な身体を得た彼らは概ね厭世的になり、攻撃的な言動を他者に向けるようになる。
秋に入る頃にはコミュニティを作って、排他的に暮らす集団が現れた。
「おや、雨宮さん、今までどちらに?」
「茶畑さん」
正午過ぎ、熱田の集落に帰ってきた雨宮千晃は、セミに似た人型に振り返った。
彼はミュータントではない。異能者である。
雨宮は彼らへの支援活動を続けており、今では随分と顔が利くようになった。
「特別製について調べていたら、こんな時間になりました」
「…依頼を受けた訳ではないんですよね?」
茶畑の問いに、千晃はきょとんとした。
「よくわかりましたね!その通りです。ミュータントの被害者が出ないとは限りませんし、皆さんも気を付けてください」
千晃の人となりは、茶畑も理解している。
彼は夏の異変当時、笠寺周辺で魔物の掃討を行っていった為、それなりに顔が売れている。
ミュータント達の元に足?く通い、彼らの拠点建設を手伝った。善人に数えていいだろう。
「またすぐに出ますから、山岸さんにも、そう伝えておいてください」
「…コミュニティ外の連中にも話を回しておきます」
「ありがとうございます。怪しい人物を見かけ次第、捕まえておいてもらえるようお願いできますか?」
「話すだけ、話してみます」
茶畑が肯くと千晃は丁寧に礼を述べてから、集落の奥へ歩き去った。
手伝いを申し出たのは、ひとえに彼への義理からだ。
茶畑としては、集落の外と関わりを持ちたくない。
ミュータントは毒への高い耐性を備えており、特別製による被害者の存在は聞いたことが無い。
千晃が骨を折る必要はないはずだが、言ったところで彼は改めない。心に留めたうえで、彼は捜索に向かうのだ。
★
夜中の矢場町。
7月の異変で甚大な被害を受けたこの一帯は、瓦礫の山と化していた。
夜更けの廃墟の中から、千鳥足の男女が運び出されていく。
薬物中毒者の集会が、維持局の働きによって、今しがたお開きになったのだ。
名古屋は市外に比べると、社会機能が目に見えて低下している。
維持局が行っている治安維持活動も、本来なら警察や自衛隊が担うべきものだ。
彼らの大部分は腐乱した身体で街をうろついており、街の警備に関してはかなりの部分、各コミュニティを当てにしているのが現状だ。
これでも警察関係者が加わったことで、発足直後より状況は改善されている。
人の列を館石省吾は仏頂面で見つめていた。
7月の異変で天涯孤独の身となった彼は、友人の異能者から力を借り受けて生き残ることができた。
その後、省吾は街に残り、維持局に参加していた。
「よー、省吾。ここで使われてたの、普通のクスリみたいだぜ」
「普通だからいい訳じゃないだろ。ドラッグには変わりない」
「そりゃそうだけど、見てわかるだけいいだろ?特別製よか、被害が出ないじゃん?」
特別製の薬物の中毒者は、一見すると健常者にしか見えない。
幾ら使っても、耐性がつかないからだ。
妄想・幻覚・精神錯乱が起きず、使用量はほぼ一定。
――ただし、切らさなければ。
使用を止めて数日経つと、症状が急激に増悪する。
暴れる直前まで、精神は平衡を保つ。見つかりにくい癖に、騒ぎになりやすい。
しかも末期患者は悉く、高い身体能力と攻撃性を発揮する
それに伴って肉体強度が向上した挙句、異能者の能力の効果をも減衰させるようになる。
麻薬捜査のノウハウが構築されていない為、維持局は対応に苦労していた。
なぜこんな物が街に出回っているのか?
市民は想像を逞しくしているが、真実に辿り着けた者は、密売人以外はいなかった。
久屋大通の地下に広がる、セントラルパーク地下街。
深夜0時過ぎ、点々と灯されたランプは通路全体を照らすには至らない。
こんな場所に好んで足を運ぶとは、よほど後ろめたいことがあるのだろう。
草臥れた様子の男女が、やけに綺麗な装いの外国人から白い粉を受け取った。
男女は金を渡すと、その場から逃げるように立ち去った。
――12月現在、食料の価値は夏頃ほど高くない。
ダンジョンで生成された食料、造形の妖しい動植物。
細かい点に目をつぶれば、飢えることはまずない。
市民は今、経済活動を再現し、異変前の暮らしを蘇らせようと、努力を重ねていた。
ありがとうございました。




