怪奇の幕が開いた(1)
趣味で書き始めました。
「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・キモイ主人公。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。
201x年、7月。
名古屋市を取り囲むように巨大な柱が出現し、怪物が次々と市民を襲い始めた。
化け物に襲われて死んだ者の一部は「動く死体」となり、襲撃の列に加わった。
都市が大混乱に陥る中、超能力者達はそれぞれの目的のため、街中を奔走した。
それから5か月が経過した。
この間、街では餓死者が大量に出てしまった。
柱の力場に阻まれ、外部の支援は満足に行き届かなかったのだ。
ライフラインが停止したことで生鮮食品も傷みだす。
あちこちで略奪や窃盗が横行した。
それも覚束なくなると、市民の一部は異常食に走り始めた。
8月に入ると、街の至る所で奇怪な植物や動物が出没するようになっていたのだ。
怪物ではない。名古屋を満たす妖気の影響を受けた、既存の生物であった。
浮浪者や動物が食用と識別した種類を、勇敢な市民は少しづつ口にするようになった。
副作用は覚悟している。とにかく腹が減るのだ。
これで命を繋げることがわかると、少しづつ生存率は上がり始める。
人や物資を吸い込み、名古屋は再生を図る。
季節が秋に変わる頃、街には幾つもの共同体――通称コミュニティが生まれていた。
「よぉ!冬彦」
「大輔…」
中日ビル4階の中日文化センター跡。
そこに「人材派遣ネット」の事務所がある。
ビル内は電灯で照らされ、フロアの奥まで楽に見渡せる。
ここは未だにあちこちで配電・変電設備の欠損が見られる名古屋で、電気を使うことができる数少ない施設だ。
下野冬彦は受付で興田大輔に声を掛けられた。
相談があるとの事だが、これから受諾した依頼を果たしに行く。
待ち合わせの約束をして、大輔と一旦別れた。
午後7時頃、依頼を終えた冬彦は山王を訪れていた。
夏に氷雪を率いた巨人が現れ、街を蹂躙していった。
その爪痕は隅の方に、未だ残っている。
大輔の住居は被害が少ないが、電気がまだ通っていない。
「それで話って?」
「おお」
ランプで照らされた大輔が口を開く。
彼は派遣ネットで、南雲竜二という失踪者の捜索依頼を引き受けた。
発見の手がかりになりそうな品を入手したのだが、それが一風変わった代物だったのだ。
その鑑定をして欲しい、というのが相談の内容だった。
「鑑定って、映像が見えるだけだぞ?」
「何でもいいじゃん。お前も好きだろ、こういうの?」
「まぁ…それじゃ、ちょっとやってみるわ」
目の前に並べられたのは、大きな外套と暗緑の板だった。
大きな布切れは全体が黄色く、所々に茶褐色の染みが付着している。
板には見たことの無い文字で何か記されており、手触りはレンガを思わせる。
冬彦は素手で触れたまま、能力を発動させる。
――サイコメトリー。
物品に籠った情報をサイレント映像として把握する能力を、冬彦はそう呼んでいる。
冬彦は名古屋で誕生した超能力者――通称、異能者の一人だ。
彼が異能者となったのは、7月の異変の最中。
変容したての頃は、見たくもない情報を読み取ってしまい、随分苦労した。
まずは布切れを手に取る、浮浪者が映った。
遡る。その次は暗闇。
ひたすら遡るうち、光が差し込む。
場所はどこかの薄暗い地下室。
暗闇の原因は、捜索対象の少年が鞄に押し込んでいたからだった。更に戻る。
(これは…何かの儀式か?)
冬彦が触れている物と同様の布切れを纏った6名の人影が、豚の死体を囲んで立っている。
彼らは死体に短刀を突き立てたまま、唇を小刻みに動かす。
6名は頭部を晒しており、その顔は蝋燭の明かりで確認できる。
さらに遡り、少年と彼らが顔見知りらしい事を確かめた。
「どうだ?」
2時間以上経ってから、大輔が声を掛けてくる。
追憶の中の6名はまだ呪文を唱えていた。
「何か儀式のようなものに、捜索対象は参加していた。こいつを除外すると、5人」
「儀式?…BTDじゃそんなのやってるのかな。そいつらの顔は?」
閲覧を解除した冬彦が、男女の顔を説明する。
追憶の映像を写真に収めるわけにもいかず、2人は苦心して、拙い似顔絵を制作する羽目になった。
暗緑の粘土板らしきものに移る。
板に触れたまま能力を展開した直後、異常が起こった。
手が吸い付いたように感じた瞬間、激しい頭痛に襲われたのだ。そして見た事のない景色が次々と点滅する。
――紫色の空に屹立する、グレーの尖塔。
――複雑怪奇に絡み合った針金の山。
――菌糸類の森に鎮座する、精悍な顔立ちの男。
――一昔前のSFを思わせる、機械都市で暮らす卵型の生き物。
冬彦の奥深くに、言語化できない知識が刻まれていく。
気絶する刹那、冬彦が見たのは、自分を見る24の目であった。
翌朝、意識を取り戻した冬彦は自分が見たものを、大輔に説明した。
彼は訝しげな素振りを見せ、呟く。
「SF風の街、針金の塊…」
「…悪いな、今回は大して役に立ちそうもない」
大輔の目に気遣いが浮かぶ。
「いやいや、貴重な意見が聞けたよ。昨日はありがと」
温い酒を交わして、大輔と別れた。
冬彦はぐったりとした体を引き摺るように帰宅。
途中、勤めていた会社を通りかかった。
通い慣れたビルの半ばから折れ、その残骸が街路に落ちている。
今もって、再開の目途は立っていない。
冬彦は自宅に着くと、フローリングに突っ伏して眠りについた。
その晩、見たのはひどい悪夢だった。
ありがとうございました。