表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/99

王都防衛ー21

「おのれっ……レイル・エヴェレットめ! 私とベアトリクスの魔力回路を通じてアークヴァルクに接続しょうなどとは……。させん、させんぞ絶対に」


 戦場であった王都の上空では、苦悶の表情を浮かべぎりぎりと歯ぎしりをするバルタザールが唯一人浮かんでいた。ベアトリクスを用いてレイルを異空間へと送りこみ、そこでヘイムダルの光によって肉体を消滅させる。それによって、レイルの魂を通常空間から干渉されないために異空間に封じ込める事が、バルタザールの目的だった。


 しかし今、バルタザールの意識界には、封じ込めたはずのレイルが侵入してきていた。バルタザールが、ベアトリクスとの魔力回路を切断し、なんとかレイルの干渉を防ごうと自身の精神情報野に防壁術式を組み込んでいく。

 それは、自分の全てを除き見られながらも、心を蝕む害虫を駆除する行為そのものだった。

 

 意識の奥底に眠る原風景に触れられ、気が狂いそうなほどの怒りがバルタザールにのしかかる。それでも憤怒の感情に流される事無く、冷静に防壁術式を組んでいく事こそが、レイルのアークヴァルクへの魔力回路の連結を防ぐために最善となる事がバルタザールにはわかっていた。


「くくくっ、どうだ……? やった、やったぞ!」


 汗だくになりながら、それでもなお口元に笑みが溢れる。バルタザールの意識下から、レイルの存在が感じられなくなったからであった。


「あっははははははっ! はぁ、はぁ、はぁ……これで、これでやっと……。今度こそ、今度こそだ。俺の時間が、この世界こそが真なる轍を歩み続けることとなるのだ」


 陽は傾きかけ、王都の空が暁に染まっていく。花の蕾を模した無機質な魔導兵器――『花弁の王』と呼ばれた物を背後に従え、バルタザールが歓喜の叫びをあげていた。


「聞け、私を輪廻の牢獄に墜とせし者よ! 今度こそ、これこそ正解への道筋であろう。私はやったぞ、今度こそお前の望みを果たし世界を正しき時間に修正したのだ。私は生きる……そして終わるだろう。それこそが私の望み。母の死より何千回と繰り返させられたこの地獄のような繰り返しも、今やっと終わりを迎えたのだ……」


 バルタザールが虚空に向かって大声を張り上げる。腕をいっぱいに広げ、誰に向かってというのでもなく自分自身に言い聞かせるように思いの丈をぶちまけていた。


「さて、帝国も王国も今の私にはいささかの関心事では無いのだが……。この素晴らしき瞬間の門出に、ひとつ記しを残すべきだな」


 息を整え、落ち着きを取り戻したバルタザール。その視線の先には、城壁に群がる王国兵、そして千年大陸の中心として栄えた王都イェリグの姿があった。


「光の王に守護されし古の都。光の神の力によって滅びるのもまた、その身にふさわしかろう……」


 『花弁の王』に手を添え王都へとその口を促すバルタザール。ゆっくり花開く蕾の中心には、王都を守護せし血族たるミラルドが捉えられている。花弁の一枚一枚が大きく膨れ上がり、花を模した魔導兵器が大きく開ききった。


 全ての花弁が眩い光に包まれ、陽が傾きつつある大空をもう一つの太陽が如く照らし出す。王都を、ロキ王国を守護し続けた神の光が、今や守るべき者達に放たれようとしていた。


「あああっ、母さま……。僕はついに……」


 バルタザールの頬に一条の涙が伝わる。終わった――いや始めるのだ――バルタザールの心が感極まろうとしたその時――


 『花弁の王』の広げられた花びらが全て、地上より立ち上がった火柱に包まれた。


「なっ……!?」


 無機質な金属で構成された花びらが、炎の中一瞬で消滅する。瞬く間にその姿を塵と変えた『花弁の王』は、拘束されたままのミラルドのみを地上へと落下させていった。


「ばっ、馬鹿な! 神の力を纏った『花弁の王』を消し去る炎など……。誰が、いや一体何がおき……。あっ、はっああああああああああっ………!」


 バルタザールの目が驚愕に見開かれる。振り返ったその前、何もない空間に割れ目のような筋が一本縦に亀裂を描いていた。


 空間に入った裂け目が縦に広がる。その隙間から巨大な指が裂け目を押し広げようとつきささってきた。空間の裂け目に二つの手が現れる。魔装機神を思わせるその手は、人間の物より遥かに大きく甲冑のようなものを纏っていた。


 そして何より、その両手は紅蓮の炎に包まれていたのである。


「……っ、レイル……レイル・エヴェレット……」


 バルタザールがレイルの名を絞り出すように吐き捨てる。その声には、この世の全てを憎んで憎みきれない程の呪詛が込められていた。


 巨人の手に強引にこじ開けられた空間の裂け目から、レイルとその身を寄せるアイナが現れる。レイルの脇には、意識を失っているベアトリクスも抱えられていた。


「アイナ、このベアトリクスも連れて下がっていてくれないか」

「わかってるわ、レイル。悔しいけど、今の私じゃ役に立てないものね……。でも、気をつけて。この戦争も何もかも、全部あいつが企んだことなんでしょ?」

「うん、ありがとう。でも大丈夫、もうこれで全部終わりにするから」

「なら……これ、持っていって」


 アイナが自分の愛刀を俺に差し出す。


「えっ、これは……」


 その行為に思わずたじろぐ俺。アイナのような生粋の剣士が、自分の刀を他人に貸すなんて例え主人として認める俺だとしても考えられなかったからだ。


「いいから、持っていって。私は行けないから、その代わりに……」

「ありがとう、アイナ」


 俺の右腕に組まれていたアイナの腕が、そっと離れる。しぶしぶ了承しているであろうその様子からも、アイナが俺の事を本気で心配してくれている事が伝わってきた。


「じゃあ、転移させるよ。あっちにエルシアさんと、ヒルデ様がいらっしゃるはずだから怪我とか見てもらって」

「はっ? なんであのお姫様もいるのよ!」

「あっ、えっ……じゃあ、送るよ」

「ちょっ、待ちなさいレっ……」


 うっかり余計な事を口にしてしまった俺は、まだ何か言い続けていたアイナを強制的に転移させる。まあ、あっちにはミラルドも送っておいたからそれどころではないだろうが。


「さて、バルタザール。貴様にはいくつか聞きたいことがある……だが、その前に」

「黙れ! 消えろ、消えろ、消えろ消えろ、消えろ、消滅してしまえええええええええええええっ!」


 憤怒の形相で雄叫びを上げるバルタザールが、数十の魔法陣を展開する。魔法陣から出現した十数個もの巨大な岩ほどもある円錐状の氷塊が、俺めがけて殺到してきた。


 迫りくる氷塊を前に、肘から先だけの巨人の腕が俺を拳で包み込む。拳から立ち上った炎が氷塊へと触手のように伸びると、炎に絡めとられた氷塊が一瞬にして蒸発し消え去ってしまった。


「バルタザールっ!」


 瞬間移動した巨人の両腕が、握りしめた巨大な拳でバルタザールを頭上から叩き潰す。常時何層にも展開されていたであろう防御結界が、ガラス細工のようにいともたやすく壊れていく。衝撃の瞬間、爆発を伴った炎にまみれながらバルタザールが地上へと吹き飛ばされていった。


 大地には隕石でも落ちたかのようなクレーターが出来上がっている。ガラス化した窪地の中心に、バルタザールが蠢いていた。


「……おのれええっ、レイル・エヴェレット……」


 炎に焼かれ、燻るバルタザールの前に俺はゆっくりと降り立つ。


「バルタザール。お前が今までしてきた事の報い。そして、アイナにした事への償い。何をしても許すことなど出来ないが、それでもほんの少しだが購ってもらうぞ」

「黙れ! ――氷槍連撃獄(ヴァ・メギンニル

「――炎矢爆撃獄(フレイムデス


 起き上がるバルタザールが、何十もの氷の槍を俺に向かって放つ。俺はそれを炎の矢ですかさず対消滅させた。


「――鋼炎破矢(ジャスペリ・オット)


 俺は、かざした右手から青白い炎の矢をバルタザールに放つ。


「っく、――凍結氷壁(ダイヤモンド・ウォール

 

 すぐさまバルタザールも氷の壁を展開し防ごうとする。だが俺の放った炎の矢は、氷の壁に触れても消滅せず、錐揉みしながら壁を穿ちバルタザールの左肩を貫いた。


「がはっ……」

「無駄だ、バルタザール。今の(・・)俺の魔法は誰にも防げやしない」


 肩の傷口は炎で焼かれているため、地が吹き出すこともなくただ焼けただれている。左肩を押さえながら、バルタザールはなおも俺を射殺さんばかりに睨みつけていた。


「ふう、ふう……っく、無念だ。さっさと殺すがいい、レイル・エヴェレットよ」

「殺す……? 俺はお前を殺しなどしないさ。ましてや死ぬ気など無いのだろう、お前には……」

「……なるほど、私の意識と同期したのだったな。であれば、貴様に話す事などありはしまい。早く始末をつければいい……」

「またやり直しにいくのか、俺と同じ時間遡行によって? そうやって何度もやり直してきたんだな、お前は……」

「ふっ、わかったような口を……。やり直しにいく? 私の記憶を覗いたのだろう、貴様は? 私が望んで何度も何度もこの時間を繰り返しているとでも思っているのか……」 


 バルタザールが、あの記憶にあった遺跡の日から今日迄を何度も繰り返してきているのは、奴の記憶から推測出来た。それも奴自身の意思とは無関係に、強制的に時間遡行が行使されているのも。


「あの声の主は、何者なんだ?」

「はっ、あははははっ。私にそれを聞くか? お前が? お前自身が? 逆に問おう……あれは、何だったのだ? どうして私だったのだ? なあ教えてくれよ、レイル・エヴェレットよ」


 バルタザールが嬌声をあげ、逆に俺を問い詰めてくる。その顔には哀れみとも取れる憐憫の表情が浮かんでいた。


 フェルセト大森林の最深部――古代魔法都市イザヴェルの遺跡が眠るあの場所で、バルタザールは魔石に封じられた何かに触れた。

 そしてそれこそが、バルタザールを輪廻の輪の中に閉じ込め何度も決まった時間の中だけを繰り返す地獄のような時間の牢獄に閉じ込める原因となったのだ。


 そしてあれは……あれは俺を待っていた(・・・・・)と言っていた……。


「やはりな……貴様もだ。この周回の貴様も、私を解放してはくれなかった。何度やり直しても、何度繰り返しても、終わることはない。……だがな」


 肩を抑えていた手を離し、バルタザールが右手を目の前に展開した魔法陣へと差し込む。魔法陣から抜かれたその右手には、一本の剣が握られていた。


「この魔剣……貴様にならわかるだろう?」

「魔剣ダーインスレイブか……」


 それは、かつての俺も所持していた魔剣のひとつに酷似している。だが、魔剣レーヴァテインと双璧を成すはずのそれには、決定的に何かが欠けているのが感じられた。


「……模造品だな」

「くくくっ、さすがだ。やはりわかってしまうのだな。見立通り、模造品ゆえただの一振りしかこの剣は保たんのだよ。だがな……だとしても貴様の魂、吸い尽くすには充分な代物でもあるのだがな」


 魔剣を構えるバルタザール。その構えからは、魔導師にあらざる程の剣気が発せられていた。


「バルタザール、わかっているのか? 死ねばまたやり直せるとは限らないんだぞ?」

「そんな言葉は聞き飽きたのだよ。私が何度貴様に、その言葉を浴びせられたか想像できるかね?」


 鋭い眼光が、俺を射抜く。その瞳には全くもって淀みや迷いが感じられなかった……。


 息を大きく吐き、俺は覚悟を決める。

 左手に持つアイナの愛刀へその手を伸ばした。


「バルタザール、俺はお前を許すことは出来ない」

「貴様に救ってもらおう等とは、露程も思ってはおらん」


 刀の柄を掴み、鞘から刀身を抜き放つ。アイナの愛刀は、まるで長年使い慣れた物のように俺の身体にしっとりと馴染んだ。


 両手で柄を握り正眼に構える。何度も、この時間軸に覚醒してから――そして時間遡行前の時間でも幾万回と振り下ろした構え……。


 ただ、相手の振り降ろしより早く振り抜く。

 それだけを追求した動き。


 一切にの小細工をなくした単純な動作。その一点だけに俺の意識は集中され研ぎ澄まされた。間合いがジリジリと詰められ、お互いの刃先が届くぎりぎりまでにじり寄る。上段から振り下ろされようとするバルタザールの剣先が、微かに動いた。


 後の先――バルタザールの挙動全てを知覚していた俺の身体が、意識が行動を伝えるのを待つこと無くアイナの刀を振り下ろす。


 振り下ろされた刀の切っ先は、バルタザール剣先の下を滑るように奴の身体を袈裟斬りにしたのだった。


日曜更新何とか間に合いました。

後で書き直しするかもしれませんが、とりあえずはまだ日曜だし……。


というわけで、ブックマーク、感想、評価、お願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ