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始原の地下迷宮―1

「レイル……ここは?」


 ヒルデ王女とシュバルトを連れて、俺は学園の中心部にある『始原の塔カ・デインジエル)』へと来ていた。


「始原の塔さ。毎日見てるだろ」


 塔を見上げ、呆然としているシュバルトに告げる。


「学園で……一番目立つ……」


 ヒルデの言うとおり、学舎より遥かに高いその塔は、その頂に鐘を備え時刻を知らせるのに役立っている。


「稽古にうってつけの場所って、ここの事なのかレイル?」


 なんとも呆気にとられたシュバルトが、聞いてきた。


「用があるのは上の方じゃない――下だ」


 そう言って俺は、塔の中へと一人入って行く。黙ってヒルデは付いて来たが、シュバルトも慌てて駆け込んで来る。


「まっ、待ってくれ」


「シュバルト、もたもたしてると置いてくぞ」


 塔の内部は、吹き抜けの広いホールとなっていた。俺は二人を連れ、広間の中央部に備え付けてあるコンソールまで進んでいく。


「移動するぞ」


「えっ? ちょっと待て、移動ってどこに?」


 シュバルトの質問を無視し、俺はコンソールを操作し転移魔法を発動させる。瞬く間に周囲の景色がかわり、転移が完了した。転移と言っても、ひとつ下の階層に移動しただけなので、本当に一瞬ですんだ。


「ここは……?」


「始原の塔の地下――始原の地下迷宮(デインジエル・エテイムの入り口さ」


 『始原の地下迷宮(デインジエル・エテイム)』――学園の中心ある『始原の塔』の地下に広がる大迷宮である。


 迷宮が作られたのは1000年前、丁度ロキ王国創設期に遡る。初代ロキ王は、この王都イェルズにて国を開く時、まず都の建設の前にこの地下迷宮を作ったとされる。当時大陸において人心を恐怖に陥れていた魔神を、初代国王がこの地に封じたのが始まりとなっているそうだ。それは、建国を助けたとされる一人の魔道士、当時の剣神、そして光の加護を与えたと言われる今はなき古代神ヘイムダル、女神フレイヤ、などの協力があっての事と伝えられている。


 そして、その魔神の魔力を利用し、この王都は協力な霊的加護をもった都市として完成したのだった。


「はっ、初めて来た。話には聞いていたが、本当に実在したんだ」


 迷宮への入り口を前に、シュバルトが興奮気味につぶやく。


「別に秘密にされているわけじゃないぞ。どうせ卒業試験で、みんな入ることになるんだからな。ヒルデ様はご存知ですよね?」


 ヒルデが黙って頷く。

 王族には、俺達一般生徒とは違う意味で、ここは重要な意味をもっているはずだった。いずれ彼女にも、遠からずここでの儀式をなさなければならない日が来るのだから。


「まあ、結界によって封鎖されているわけでもないし、誰でも自由に入れるんだけどな。だけど誰も近寄らないのが……まあ、普通か」


「へえー、なんか凄いな」


 迷宮の入り口であるこの階層は、なかなかに広い空間となっている。天井はさほど高くないが、階下に降りる階段は十数人がいっぺんに通れるほどであった。


「さて、じゃあこれからここに潜ろうと思う」


「えっ? 潜るって、この始原の地下迷宮に?」


 シュバルトの奴が寝ぼけた事を言いやがる。

 何のためにここに連れてきたと思っているんだ?


「さっきも言ったが、お前に足らないのは実戦経験だ。そこで、この地下迷宮で魔獣を単独で狩ってもらう」


「……単独って、僕一人でかい?」


「そうだ、もちろん俺もついて行くが、あくまで魔獣に対峙するのはお前自身だ。幸いこの地下迷宮の表層階は、魔素も薄く大して危険な魔獣も発生しない。今のお前でも充分通用するだろう」


 そうこの地下迷宮は、最下層に魔神が封じられている。その強大な魔力は、王都を守護する魔法陣に利用されると共に、こぼれだす魔素によって迷宮内に魔獣を発生させているのだ。


 もちろん魔獣がこの迷宮より地上に出てこれないよう、魔獣に対してのみ結界は張ってある。そして、魔素は最深部に近づくほど濃くなり、より強力な魔獣が発生している可能性も高くなっていた。


 ちなみに卒業試験では、表層階と中層階の中間に目標とする部屋を設け、パーティーを組んで挑むこととなる。

余程の事が無い限り、卒業時までの間にはその程度の力は学園の生徒なら身につけているはずだ。


「というわけでヒルデ様、申し訳ありませんがここでお待ち下さい」


 仕方なく連れてきてしまったが、王女であるヒルデをこれ以上つきあわせる訳にはいかないだろう。しかし俺の思いとは裏腹に、とうのヒルデは俺の腕を頑なに離そうしないのだ。


「……嫌……さっき言った……一緒って」


 上目遣いに、俺の顔をじっと見つめる。

 苦手なジト目だ……何かを訴えかけるような、あるいは譲らないという意思表示であるかのようなそんな瞳だ。


 じい――――

 じい――――

 じい――――


 瞬き一つなく、その目は俺を見つめ続ける。

 はあ、仕方ないか。

 

「……わかりました。一緒に参りましょう」


 負けてしまった。


「じゃあ行くぞ、シュバルト。お前が先頭だ」


「よし、わかった」


 シュバルトには、ここに来る途中で実剣と盾を持ってこさせた。軽装ながら、装備も整えているので充分だろう。俺とヒルデは、制服のままだ。いざという時は、俺が魔法で援護くらいしてやるつもりなので問題ないだろう。


「ではヒルデ様、くれぐれも迷宮内では僕のそばを離れないで下さい」


「……私、賢者様と離れない」


 そう言ってヒルデは、頬を赤らめいっそう強く腕にしがみついてくる。

 ……かえって歩きにくいなこれ。


 そして俺達3人は、王都の中心部にあって魔獣ひしめく迷宮へと歩みを進めるのだった。

 





 

 



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