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プロローグ邂逅

 この椅子に座るようになって、幾許の年月が流れたのだろうか。過度に施された装飾に加え、なぜ必要だったのか到るところに無数の宝石が散りばめられている。まさかこんな物で、座る者の権威や威勢を誇示しようとでもしたのだろうか。

 

 まさしく道化も良いところだ。

 この椅子を作った奴に、毎日ここに座らされる者の気持ちを少しでも味あわせてやりたいものだ。まったく、気がつくとこの椅子に座ることが、自分にとって最も憂鬱な時間となっていた。


 だが果たして、自分はいつからこの椅子に座ることが気に入らなくなったのだろうか?肘掛けに頬杖をつきぼんやりと物思いに耽っていると、ふと掛けられる大声によって意識が現実へと戻された。


「観念しなさい、魔王レイル・エヴェレット!」


 天井はゆうに一〇メートルはあるだろう、大きな広間に美しいよく通る声が響き渡る。女剣士が後ろに束ねた藍色の髪をなびかせ、剣を突きつけ俺を睨みつけてきていた。その姿は、白を基調とした軽甲冑を身にまとったとても凛々しいものだった。


 女騎士の周りには、やはり見知った顔の戦士や魔道士、騎士達の顔が並ぶ。

 皆懐かしい顔ぶればかりだ。


「アイナ・バーンズか、久しいな……」


 俺の声が、意図に反して少しだけ上ずる。出来るだけ感情を押し殺し、冷たい口調を演じたつもりだったのだが、やはり難しい。


「そうねやっと、やっとあなたに辿り着いた。どんなにこの日を待ち望んだか」


 ああ、そうだ。

 俺もずっと君に会いたかったんだよ。


「今日ここで、この時、世界のため、全ての人々の幸せのため、あなたを打ち滅ぼすわ!」


 アイナの瞳が、俺を真っ直ぐに睨みつけている。

 その瞳には、怒り、憎しみ、様々な感情が彩られているかのようだ。

 そのどれもが、俺を倒すために彼女が積み上げてきたものなのだろう。


「なぜ俺を滅ぼす? 俺がしてきたのは、全てお前達の言う世界のためと言うやつだったのだぞ」


「戯言を! いくつもの国を滅ぼし、あまつさえ私達の生まれ育った大陸さえも消し去っておいて……」


「だが、それも全て俺を私欲に使った人々のもたらしたものだ」


「だとしても。そうだとしても、私はあなたを許せない!」


 一際大きな声でアイナが叫んだ。

 それが合図だったかのように、一斉に俺を殺そうと広間に居る俺以外の者たちが攻撃を開始した。


 魔道士による炎の矢が無数に降り注ぐ。

 それらは事前に準備されていた防御結界によって、全て霧散する。

 だが、間髪入れず一人の騎士が手に持つ大剣で結界に突っ込んできた。

 本来俺が展開している防御結界に、剣などでは対抗しようはずもない。

 しかし、彼の持つ大剣は特別性であったようだ。


「魔王レイル・エヴェレット、シュバルトヘーゲンハイムが貴様の首貰い受けるぞ!」


 魔法が付与された物だろう、大剣による斬撃によって俺を守っていた防御結界が、ガラス片のように粉微塵に砕け散る。

 それに合わせ魔道士の一人が、巨大な氷の楔を投げつけてきた。

 

 俺は、そっと右手をあげ魔法を発動させる。


「――爆炎極輪獄(エル・ゲルブルト・ニル)


 炎が渦を巻き、巨大な車輪の様になって氷の盾となる。

 ぶつかり合う双方の衝撃で、けたたましい音と共に水蒸気爆発による爆風があたりを襲う。


 その水蒸気による煙が俺の視界を著しく奪うと、煙の中から目に見えぬ刃が飛来した。風を切り裂き俺を襲った真空の刃は、俺の身体に触れようとした刹那、見えない壁にぶつかり消滅する。


「っく、次元断章ね!」


 煙が晴れると、その先に一人の魔道士が口惜しそうに歯ぎしりしているのが見えた。彼女の耳は、人間のそれと比べ横に尖って張り出している。確かディオーナという名の、エルフだったはずだ。彼女もまた、昔なじみの一人だった。


 皆一度は共に背中を預けあった仲であったのに、今は目の色を変え俺を殺そうと躍起になっている。


「無駄な事は止めるんだな。お前達では俺に敵わない。そして俺も、黙って滅ぼされる気もない」


 彼等がどれだけ攻撃を繰り返そうと、俺が身に纏う『次元断章』による空間の歪を超えてこの身にダメージを与えることは出来ないだろう。


「黙れ魔王。私達は、絶対に諦めない!」


 俺の言葉に、アイナが激昂する。

 彼女の魔力が大きく膨れ上がる。

 それに伴って、彼女の手に握られた剣が天井に届くほどの炎に彩られた。


「来なさい、レーヴァテイン。ゲヘナの炎で、我を阻む壁を穿つのよ!」


 アイナの持つ剣が、その形を大きく変えた。

 只のバスターソードであったはずのその刀身は、赤黒く変色し、柄の部分も黄金に装飾された立派な物へと変貌していた。


「……魔剣レーヴァテインか。しかし、よく見つけてきたな」


 なるほど、あの剣ならば俺の次元断章も容易く切り裂くことが出来るだろう。


「終わりよ、レイル!」


 叫び声と共にアイナの姿が消えた。

 それに合わせて、再び魔道士とディオーナによる魔法攻撃や、シュバルトの斬撃が繰り出される。恐らくこの身に届かぬ事は承知しての揺動だろう。


 事実、部屋に張り巡らされた魔力探査の網に、アイナの動きが検知される。魔法術式によって加速された俺の思考でさえも、魔力探査によって伝えられるアイナの動きを追うことは容易ではなかった。


 俺の魔法が、アイナ以外の者達を薙ぎ払っていく。


 ガキィイイインッ!


 その最中剣と剣がぶつかり合う音が、部屋中にこだました。

 いくつものフェイントを織り交ぜ、アイナが俺の背後に回り込んだのだった。


「なっ、それは!?」


 アイナが驚きに目を見開く。

 俺の座っていた椅子が、背もたれの部分から横一文字に真っ二つになる。

 しかし、そこに背を預けていた俺の身体は椅子とは同じ運命を辿りはしなかった。


 俺の手にある一本の剣によって、アイナが放ったレーヴァテインの一撃は、俺の身体に届けずにいたのだ。


「魔剣ダーインスレイヴ。お前達が、レーヴァテインを掘り起こして来ることは予想してたのでね、用意しておいたのだよ」


「だから何よ! そんな物があったって、私の剣はあなたを斬り伏せてみせるわ」


 鍔迫り合いの中、肉薄するアイナの目が俺を凝視している。

 今になってようやく思い出せる、彼女はよくこんな目で俺を睨んでいたのだったなと。


「君に出来るのか? あの剣神アイス・バーンズにも出来なかった事が」


「お祖父様の事を、言うなあああああぁ!!」


 激昂したアイナが、持てる魔力を一気に爆発させる事で鍔迫り合いのまま俺を弾き飛ばした。レーヴァテインに送る魔力を、瞬間的に増大させる事で、斬撃に劫火の力を乗せたのだろう。


 その魔神の一撃とも言える斬撃は、俺を広間の巨大な支柱にまで弾き飛ばしたのだった。だがしかし、その代償としてアイナは、ほとんどの魔力を使い切り膝をつきその場に崩れ落ちてしまう。


「はぁはぁ、レイル、絶対にあなたを倒してやる……」


 力を使い果たしたにも関わらず、アイナの目は未だ力を失わない。それ程までに、俺の事が憎いのだろう。この状況下にあっても、この部屋の誰もが俺を打ち倒すことを諦めてはいなかった。


 俺はこんなにも、君に、君達に会いたかったというのに……。


「……アイナ、どうしてもかい?」


 剣を杖のようにして、アイナが立ちがってくる。

 どうにか構えると、俺を睨みつけ言い切った。


「何があろうとも必ずあなたを打ち倒すわ、レイル!」


 その表情には微塵の迷いもない。

 わかっていた、わかっていたが知りたかった。

 どうしても、もう一度確かめたかったのだ。


 望みなど一縷も無いことは、俺自身が一番理解していたはずなのに……。


 ふらつく足取りで、アイナが手にした剣を俺に向けた。

 俺はそこへゆっくりと進み出る。

 魔剣レーヴァテインの切先が、俺の胸元に触れた。


「さよなら、もう一度君に会いに行くよ……」


「……えっ?」


 レーヴァテインの切先を掴むと、俺はそれを自分の胸に勢いよく突き刺す。

 凄まじい痛みとともに、あらん限りの力で突き刺す刀身は、俺の胸を貫き通していく。


 飛び散る血潮が床に広がると、流れ出した血が床に魔法陣を描き出した。

 柄を掴んだまま驚愕の表情で俺を見つめるアイナ。

 口腔からも勢い良く血が吹き出してくる。

 床の魔法陣が眩い光を放ち始めると、広間全体を白い閃光が覆い尽くす。

 

「レイル!?」


 アイナが、俺の名前を叫んだ。眼の前に居るアイナのその瞳だけが、大きく見開かれているのがわかる。

 その瞳が何を語るのかわからないまま、俺は自身の命を触媒に『時間遡行』の魔法術式を発動したのだった。



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