第一話 「空から降ってきた私」
さっきまでのあらすじ。
異世界転生したっぽい私は、幼女を見て不安を吹き飛ばした。
……ちょっと、通報しないで。 事案とか言わないで。
そもそも私、語り口調はこんな男みたいなヤツだけど……今はちゃんとした美少女なの。 憶測だけど。
ほら、見てくれよ。 広い海のような、あざやかな青色で染まったこの長髪を。
「お姉ちゃん! 喋れるの? 痛いところない? っていうか人間なの?」
「……あ、うん。 特に異常はない」 痛いのは痛いけど、私はちゃんと人間だよ、お嬢ちゃん。
「良かったーっ、じゃあ……どうしよっか」
……うん、どうしたら良いんだろう。
右も左もわからないし、というかここが何処なのかさえ分からん。
それはそうと、言語は普通に通じてるみたいだ。
まあ、赤子からやり直しならともかく、
今さらになって『異世界語覚えろ』なんて言われても無理だろうしな。 良かった良かった。
「あっ!! 何か聞きたいことない?」
幼女は目を輝かせて、私に話しかけてくる。 新入りへ興味津々といったところか。
「えーと……、私、何でここにいるんだ?」
「お姉ちゃんのこと? 空から落ちてきてねっ、そのまま川にねっ、ボチャーン!!って落ちてね!!」
幼女は興奮気味に、まくし立てるみたいな早口で答えてくれた。
にしても、空から降ってきたのか。 落ちる直前で、こう……ふわっとなって着地したりしないものか?
転生よりはリアリティがあって……って、どっちもどっちだな。
「そこをジェイド……あ、ボクの仲間ね? が引き揚げて、ここまで運んだのはボクの魔法」
得意気な顔をする幼女。 『引き揚げ』とか、私は魚みたいな扱われ方をしてるな。
……青髪って、水生類を暗示してたり? HAHAHA、まさか私が魚の生まれ変わりだなんて。
にしても、さっきの一人称って……。 彼女はボクっ娘なのか?
可愛い。 この国って、何歳から結婚できるんだろう。
で、もう一つ。 ジェイドとはどんな子だ?
できればかわいい女の子が良い。…今度は金髪かな?
そんなことを考えた私は馬鹿でしかない。 その幻想は、見事に……そりゃあ見事にぶち壊された。
「助けてくれてありがと……それで、そのジェイド、って人は?」
「うん! 向こうにいるよー?呼んでこようか?」
「いいのか? じゃ、ちょっとお願いする」
「わかった! ジェイドーっ、降ってきたお姉ちゃんが!」
降ってきたお姉ちゃん。 魚の次はそれか。 ひどいな。
◆
そして、扉が開く。
緊張が走るッ! ……かわいい子だったらいいな。
そう思ったのに。 金髪ガールだと思ったのに。
「……寝れたか?」
出てきたのは、
黒髪で、無駄に美女を引き連れてて、典型的な日本人っぽい顔の無駄にイケメン。
予想と正反対な黒髪ボーイでした。
…………期待外れ。 いや、性別が気にくわんわけではない。
私は男女平等を重んじる、ただちょっと百合豚の匂いがするだけの女子だ。 だから、一応は命の恩人ということになる彼を、
そんな事で嫌いやら何やら言っているのも可笑しい。
では何が、転生して大好きな青髪ロングとなり、幼女にも触れ、
もはや女神のように慈悲深くなった――気がしていた私を、こんなにもイライラさせているのか。
――決まってる。
あの、見せつけるような、特に意味が見当たらないハーレム。 それと、中にいるアレ。
……そこは主人公の立ち位置だと思っていたハズなんだが……どうやら、私はただのモブキャラだったらしい。
「……主人公だ」
思わずそう呟いてしまった。 くどいほどに言うが、また唇が痛くなる。
クソ……。
来て早々にモブキャラ認定か? そんなんあんまりじゃねえかよ……っ。