プロローグ
朝の日射しを受けて、カーテンが明るくぼんやりと光る。
その光のせいで、私は至福の時である眠りを中断せざるを得なくなった――眩しい。
ムシャクシャするので、ものすごい勢いを付けて起き上がろうとした。
が、少しでも動かした部分や、布団に触れた部分が何故か猛烈に痛んだので諦める。
不思議に思いながら天井を眺めていると、そこには奇抜な形のシャンデリアっぽいものが取り付けられていた。
珍しい形だ――、少なくとも私の知っているものでは、こんなの一回も見た事がない。
しかも変テコな木――と言って良いのかは微妙だが――で造られていて、なんだかカーテンの素材もおかしい感じがする。 手触りがすごく悪そうな、鱗っぽい形をしている。
布団から見まわしただけで解る、このダサさ。
センスが無いなんてものじゃなく、もうそれはそれはそれは……くどいな。 異世界かってレベルに達している。
全体的に、クールジャパンっぽくないのだ。 かと言って、外国っぽいかと言えばそうでもない。
「……あれ?」 私は驚き声を漏らした。 一瞬だけ喉が痛んだ。 治ったけど。
ここで初めて、今置かれている状況がいかにヤバいか少しだけ理解……できはしなかった。
が、まあ大体の事はわかる。 憶測だけど。
……私、大ケガして、中世っぽくてダサい土地にいる。
◆
いやいやいや、ちょっと待ってほしい。現状を整理してみよう。
見渡した限りでは、センスの欠片も無い異世界……いや、私の主観なんだけど。
それで、さっきも言ったように私はものすごいケガ人。
でね、これが一番の問題。
私の視界にチラチラ写っている青いもの、これは多分髪である。
つまり、私は青髪の美少女(想像)になって、異世界っぽいここへ来ていることになる。
夢だ。 多分、正常な人間だったら、皆口を揃えてそう言うだろう。 思うだろう。
にしても、これが転生とかであるんだったら、つまり、私は……。
一生もとに戻れなくなる、ってこと?
……やめてください。 帰ったらこれ、都市伝説として掲示板に流すんです!
あ、そうだ。
都市伝説だったら、こう……現実世界の事を忘れたら、二度と帰れなくなるとか!
そういうルールは何処かで聞いた事がある。 だったら思いだそう。
……覚えてる事……。
まずは壮絶な爆発音、アニメやら何やらの二次元関係……あと、具体的な事は解らないが、なんかヘタレてた記憶。
――いくらひり出そうとしても、パっと出てくるのはそれだけだった。
うむむむむ……。 夢であってくれ。 痛いけど、これもリアルな夢だったら良くあるじゃないの。
――じゃあ、転生だと仮定して何やらかんやらを考えてみよう。
異世界といったら魔物。 魔物といったら戦い。 戦いといったら痛い。 痛いといったら嫌だ。
……やれるわけ無いじゃないか。 夢だと言って。 ドッキリ大成功のプラカード持ってきて。
どうして異世界転生した駄目人間たちが、ハーレムなんて作れるのか解るか?
それはね、元々駄目人間じゃ無かったからだよ。
真性のクソ野郎は、異世界だろうとクソなはず……。 こんな中で、颯爽と異世界に永住決定だなんていう判断力は可笑しいよ。
判断力もクソも無いけどね。 ノリで動いて後悔するタイプだ。
――っと、謎の考え事はこれくらいにして。
そもそも、ネットもパソコンも無さそうなこの世でどうやって暮らすんだ。 『ふざけるな!』と、心が叫びたがっているよ。
でも、くどいようだけど痛いんだ。 喉はもう大丈夫だけど……主に唇が。
そんな怒りやら戸惑いやらが全部乗せになった、良く解らない乱文たちの軍団は、
「あっ、お姉ちゃん目が覚めたみたいっ♪」
部屋へと入ってきた紺髪の幼女が、殆どを木端微塵にしてしまいましたよ。
……声も見た目も可愛かった。 はい、永住決定……っと。