尾崎家のお盆行事
夏美さんをはじめ尾崎家のご先祖様が帰ってくる日が来ました。
この日は毎年親戚が集まって賑やかに過ごしています。
今年は正也が大きなお肉をたくさん買ってきて
家でバーベキューをしました。
「ほらっ、早く食べないと真っ黒になるぞ」
なにしろ炭火で焼いているから火力が強くて暑いのでしょう。
正也のTシャツが汗で濡れていました。
普段は静かな正也の家がこの日ばかりは賑やかさを取り戻したようです。
一方、水沢家では今年の夏は美沙子さんの療養を兼ねて
神戸に家族で出かけたそうです。
久しぶりにご主人と二人になった美津子さんは、
「嫁の手術が無事に成功してよかったよ」
と嬉しそうにしていました。
「よかったわね、おみっちゃん。お嫁さん、元気になって」
「ありがとう、すずちゃん。これもご先祖様のおかげだよ。
秀樹も毎日お仏壇に手を合わせて嫁の病気が治るように願っていたんだよ」
「えらいね、お母さんの病気が治るように祈っていたんだね」
「そうなんだよ。美沙子さんはね、本来なら秀樹に兄弟ができる
はずだったんだよ。ところが、大事な時に無理をして流産したんだよ。
それだけじゃないんだよ。この時の流産で子供は諦めてくださいって
先生から言われてかわいそうたっだんだよ。だから、うちのじいちゃんは
秀樹がかわいくてしかたないんだよ。今は丈夫になったけど、神戸にいた時は
熱をよく出して大変だったんだよ。そのたびにじいちゃんはお墓まいりして
秀樹の健康を祈っていたんだよ」
「そうだったの。そんなことがあったなんて知らなかったわ」
「だから美沙子さんが癌になった時はじいちゃんは一生懸命お墓まいりして
美沙子さんの手術が成功するように祈っていたんだよ」
お嫁さんのために一生懸命ご先祖様におまいりしていた美津子さんのご主人の
その一生懸命さに頭が下がる思いで聞いていました。
秀樹くんが神戸に行っていることでありさは淋しそうにしていましたが、
秀樹くんには神戸のおじいちゃんとおばあちゃんに会って楽しい夏休みを
過ごしていくでしょう。
さて、話を元に戻しましょう。
私の家尾崎家のバーベキューはまだまだ続いていました。
ビールを飲んだり、この日ばかりはとても楽しい1日になりそうです。
「花火、やろう」
ひとみとありさは従兄弟たちとまじって花火をしていました。
打ち上げ花火は隣近所のご迷惑を考えて控えましたが。
子供たちは喜んでいました。
今年もひとみとありさに浴衣を着せました。
毎年、子供たちに浴衣を着せていた夏美さん。
夏美さんは和裁と洋裁が得意で子供たちの浴衣や洋服をいつも作っていました。
浴衣は子供たちが成長するたびに何枚も増えていました。
今年は初めて私が知り合いにしている呉服屋さんにお願いして
仕立ててもらいました。
夏美さんがつくった浴衣はいつも和ダンスにしまっていますよ。
いつか子供たちが大人になった時に嫁入りに持たせてあげたいと
思っていますから。
夏美さん、あなたの思い出の品物を子供たちに託したいと思っていますよ。
「おばあちゃん、ママ帰ってくるんだね」
「そうだよ、今日から3日間おうちにお泊りするからね」
「ありさね、ママにいっぱい話したいことあるんだ」
「ママはちゃんと聞いてくれるよ。
ご先祖様と一緒にママはちゃんと見ているから」
するとありさはお仏壇の前に座り仏様に手を合わせていました。
「ありさ、花火行こう」
「うん」
「あっ、ちょっと待って。ママ、帰ってきているから」
そう言うとひとみもお仏壇に座り仏様に手を合わせていました。
「もうママの作った浴衣着れないんだね」
と寂しそうにひとみは言いました。
私は言葉を返すことができませんでした。
ひとみは芯の強い子ですが、母親を亡くした悲しみは一番強いんです。
夏美さんが亡くなった時から強くなろうと一生懸命になっていただけに
悲しみは強いのでしょう。
「ひとみはママが大好きだったからね」
私はそれしか言葉が返すことができませんでした。
子供にとって親を亡くすということは悲しいことです。
ましてやこれから母親が必要な時に母親が亡くなるという
悲劇はないでしょう。
「ひとみ、辛いなら泣いていいんだよ。おまえはこっそり知らないところで
泣いているからね。無理に強くなろうなんて思わなくていいんだよ」
「ママ、どうしてそばにいないの?淋しいよ」
ひとみはそう言ってお仏壇の前で泣いていました。
夏美さん、今日はこの子たちのそばにいてちょうだい。
この子たちにはあなたが必要なんですから。
時間の許す限りそばにいてあげてちょうだい。
お盆のお祭りは天国から地上に降りれる日なのですから。
今夜はゆっくりこの子たちのそばにいてあげてちょうだい。




