和歌山のみかん
「こんばんは」
「あらっ、秀樹くん。夜遅くにどうしたの?」
「和歌山のおじいちゃんからみかんをもらったから食べてください」
「まあ、美味しそうなみかんだこと。お母さんにありがとうって伝えてね」
「はいっ」
「暗くなっているから気をつけて帰るんだよ」
「はいっ、わかりました」
そう言って秀樹くんは元気よく帰っていきました。
今日は日曜日、秀樹くんはテニスの練習をして帰ってきたら
家に和歌山の美沙子さんの実家からみかんが届いていたそうです。
そういえば、秀樹くんが6年生の時の作文に
和歌山のみかんのことを書いていました。
授業参観の時に聴かせてもらいましたが、作文がよく書けていました。
和歌山のみかんは美沙子さんからいただくのですが、
今年は美沙子さんが入院してしまったので、
代わりに秀樹くんが持ってきたのでしょう。
「おばあちゃん、秀樹くん来ていたけどどうしたの?」
「みかんを持ってきたんだよ。今年もたくさん実がついたみたいだね」
「和歌山のみかん美味しいもんね」
「しかし、最近みかん農家をやる人が高齢になってきて後継者がいないって
聞いているからな。ここでも深刻な問題になっているだけに和歌山では
もっと深刻になっていないかな?」
「そうだね。若い者が後を継がないって話は聞いているからね。
みかんだけじゃなく梨でも後継者がいないって話だからね」
「美沙子さんの実家はお母さんが亡くなってしまってからお父さんが一人で
守っているらしいよ。お父さんが亡くなったら後継は誰になるのかな?」
「今、美沙子さんの妹さんがご主人と一緒に手伝っているそうだよ。
確か、妹さんは双子で上の妹さんが地元に住んでいて、
下の妹さんは京都に住んでいるよ」
「しかし、手伝いをしてくれる兄弟がいることで美沙子さんは安心して
長崎に来ることができたんだな」
「長崎と和歌山はさすがに遠いね。それでも信吾先生についていって
頑張っているよ。親戚もなく知らない土地でやっていくというのは
並大抵なことじゃないよ」
本当にそうです。
美沙子さんの苦労は陰では見えないけど、私にはわかります。
私も姑から厳しく躾けられてきましたから。
それでも長崎で頑張って秀樹くんを育てていこうと思ったのでしょう。
なにしろ、この島原の言葉は荒っぽいから初めは馴染めなかったでしょう。
それでも頑張ってきたのは美沙子さんの人徳でしょう。
美沙子さんが入院してから1週間がたちました。
美沙子さんの様子はどうなんでしょうか?
翌日、みかんのお礼がてら美津子さんの家を訪ねることにしました。
「こんにちは、おみっちゃん。お嫁さんの容体はどうなんだい?」
「背中をかなり強打したからね。寝返りが打てないのが辛いって言ってたよ。
ここまで重体にしたんだからバス会社には誠意を持って対応してもらいたいね」
「本当だね、仕事ができなかった時間をちゃんと保証してもらわないと
あとで泣くことになるからね。ちゃんと取る物は取らないとダメだよ」
「それはもちろんだよ。これで納得いかなきゃ裁判にかけるつもりだよ」
「本当に災難だね。事故に遭うなんて運転手もちゃんと見て
ドアを閉めなかったんだろうね」
「本当にそうだよ。じいちゃんもかなり怒っていたよ。
バス会社にはじいちゃんの従兄弟が現役でバスに乗っているし、
他にもバスの運転手の知り合いが多いからね」
「お嫁さんは実家にはケガのこと話してないのかい?」
「実家には心配かけるから言うなって口止めされたよ。
お父さんに余計な心配かけたくないんだね、きっと」
「そうだったの。おみっちゃん、お嫁さんの支えになってやってね。
美沙子さんにはお母さんがいないから話をしたくてもできないんだよ」
「そうだね、すずちゃん。美沙子のためにもあたしが支えになってやらないと
いけないと思っているよ。ましてや、こんな大きな事故で大ケガして見ていられなかったよ。すずちゃんの言うとおり、美沙子が治るまで見守ってやるよ」
夏美さん、あなただったら美沙子さんに何をしていたかしら。
バスの大ケガは後遺症が残るっていうから無理をするなって
言いたかったのね。
美沙子さんに無理をさせないように入院してもらったのね。
ありがとう、あなたは陰で心配していてくれていたのね。
本当に感謝するわ。
あなたはいつも私の心配事があったら何かで助けてくれるわね。
本当にありがとう。
美沙子さんのケガが1日も早く治るように空の上から見守っていてね。
頼みましたよ。




