幕間:シルヴィアの転機
すいません!遅れました!ぼーっとしてたら時間過ぎてました!
下の文章は、活動報告と同文です。
本日投稿予定だった9話ですが、投稿はいたしますが、予定を少し変更致しまして本来は冒険者としての生活が始まる話を予定していたのですが、読み返していたらシルヴィアの従順ではないですが、あまりに突拍子がない進み方だったので、補足としてシルヴィア視点の振り返りを幕間として挟みます。
もしかしたら、二章へとつづくネタバレに若干なりそうで恐々しながら書いたのですが、良ければ読んでやってください。
眠れない。隣からはすやすやと眠りを知らせる寝息が二つ聞こえてくる。隣には、アイリスとシンが眠っている。
今日一日を振り返れば、それこそ自身の運命の分岐点だったかもしれない。彼に買われなければ私は恐らく高級娼館に買われるか、どこぞの貴族の玩具にされていたことだろう。どちらにしろ男の慰み物にされるか絶望が待っているのは間違いなかった。
首輪の誓約で自ら死を選ぶ行動は出来ない。しようとすれば死よりも恐ろしい苦痛が待っているからだ。
そんな絶望の淵から救ってくれたのは彼だった。最初は、他の男達の様な用途で買われると思い絶望し言葉を発しなかった。その後、彼は2人きりで話したいと言い始め、本当に2人きりになった。
何をしているんだ。この男は。それが最初の感想だった。だが、彼の最初に言った一言に衝撃を受けた。
「さてと・・・まずその殺気解いてくれないかな?居心地が悪くてね。」
彼は、私が発していた静かな殺気に気付いていたのだ。ダークエルフは、元々アサシンなどの暗殺や斥候に向いている。他にも、魔法にも特化しているが。浅黒い肌は闇夜を彷徨うのに適している上、身軽で強靭な身体と魔法による自己強化も出来るからだ。それ故に、私も戦士やアサシンなどの様々な訓練や実戦を経験してきた。その私の殺気に気付いたのだ。それこそ、背後から刃物を突き立てるときのように静かなものだった。それを気付いた事実に驚愕せざる終えなかった。
さらに、彼が買いたい理由が娘の護衛と子守だという。戦士が子守などと普通は言うところなのだが、玩具にされるよりもましかと思ったのと元々子供が好きだったのでそれもありかと思ったのだった。そして、彼の瞳は私の力量を理解しているような心を見透かされているような、それでいてすべてを包み込むような不思議な瞳をしていた。
思わず険しい目の線が緩む。そうなった自分に少し腹が立ち意趣返しに奴隷の誓約の穴を突く発言で挑発してみた。
「ふふ。変わった人ですね。殺気を放っているとわかった時点で普通は買うのを止めるか私の素性を探ると思うのですが。それにこの私に任せる仕事が子守ですか。危害を加えられないのは貴方だけなのですよ?」
「そうだな。確かに私は変わっていることは間違いないな。ある意味で“人”ではないからね。でも、君はそんなことしないだろう?」
“人”ではない?どういうことなんだろう。明らかに人間にしか見えないけれども。。。それよりも、何でそう思うのだろうと返してみれば、勘だと返ってきた。本当に変わっている。あまりにも命が掛かっていることを勘と言って捨てる人がいるとは思わず、不覚にも少し笑ってしまった。
そこに漬け込んで発言した矢先それは起こった。
「そんなことはさせない。絶対に。それになら、隷属の主を娘にすれば良いだけのこと。もしくは、言いつけで条件つければいい。何とでもなるが、もしそうなったら、やったことを後悔することになる。」
彼からとてつもない殺気とまるで首に刃物を突きつけられているような感覚に陥った。額から冷や汗が一筋流れた。彼に潜む底知れない何かを一瞬感じたのは確かだった。もし、その感覚をもし一言で表すとするならば、“死”そのものだろう。
すぐに彼は謝ってきたので、私もやりすぎたと思いしっかりとした礼儀で持って返す。
彼は、奴隷商人である男を呼び出し、買いたいと言った。私の金額を聞いたときにはびっくりした。そう、高額だったからだ。この男がとても出せるような金額ではないとそう思い、半ば残念に思った。この人物なら最悪乱暴にはされないだろうと思ったからだ。
そう思ったのも束の間、彼はあっさりと懐から金貨の束を取り出して払い切った。ほっとする自身にびっくりする。
そして、最後に彼が言った一言に今日1・2を争う衝撃の一言が発せられる。
「すまないんだけれども、彼女の首輪の機能を消してくれるか?」
この男は本当に何を言っているのだろうか。奴隷にとって、首輪の誓約が絶対。それに、抗うことなんて生き物には無理だ。謂わば、奴隷からの脅威を退ける装置なのだ。それの機能を消してくれとは正気の沙汰じゃない。
私も唖然としていたが、奴隷商人の男ですらも呆気にとられて言葉をなくしている。
「本気でおっしゃってるのですか?どうなってもしりませんよ?」
「ええ、もちろんです。何も問題はない。そうでしょう?シルヴィア。だが首輪は、そのままで彼女の安全のためにも。それをつけてれば他の人から危害を受けることはないでしょうから。」
彼の信頼の眼差しを浴びて頷かずにはいられなかった。信頼した上で、私の身を案じてくれるのだ。彼の信頼には応えないといけないとそう思った。
だから、私は彼と共に死が分かつまで一緒にいることを誓った。
彼になぜ首輪の機能を外したのか訊ねれば、遠い目をした顔が横に覗かせた。
「あぁ。それは秘密だ。」
彼にも言えないことがあるようだった。そして、私にはまだそれを知る権利がないのだろうと少し寂しさを感じながらも話題が逸れたので安心した。
宿に着いてからも驚きの連続だった。
娘として紹介されたアイリスには、母親できたと紹介された。彼は、所帯持ちではなかったのか。なぜか安心した。とすればこの娘は何なのだろう?そんな疑問が湧き上がるも、どうやら稽古を頼まれているらしく事情を後で話すことを約束してくれたので、アイリスを預かり稽古を外側から見ることにした。
レックスと言う少年の動きは洗練されているように見えた。それに比べて彼の風体は、隙だらけでどっちが相手にしてもらっているのか分からないかったほどだった。そのはずであるのに、彼へと向かう剣の刃は届くどころか反撃され、レックスは地に転がっていた。彼の動きは、洗練と言うより神事を見ているような感覚だった。とても男同士の戦いを見てるような物ではなかった。
そこからは、全くもってレックスの刃は彼へと届くことはなかった。すべてすれすれで避けているのだ。不思議なのは彼の動きで、見たこともないような滑る様な動きだった。レックスの剣戟は苛烈で、戦士として育った私から言わせてもらえれば、レックスと対峙したとしたら倒すことや逃げることは出来るだろうが、あの剣戟を受け切るもしくは、避け切る自信はなかった。
そして、その戦いの終焉は一瞬で着くことになった。動体視力を魔力で強化していた私ですら捉えることの出来なかった一閃によって。
「嘘......。」
驚きを隠せず、小さな声が漏れてしまった。
彼の振り抜いた一閃は、魔力を通した形跡がなかったのにも関わらず、レックスの練度の高い強化された剣を布を切るように切り裂かれたのだ。
そんな芸当をした者を故郷の屈強な戦士達でも見たことはなかった。それ故に、言葉を失くしてしまった。彼がどれくらいの力量があるのか全く測ることが出来なかった。
その後は、指導が始まったので、アイリスと一緒にミーシャさんの手伝いをすることになった。
ミーシャさんは、私がダークエルフと言うことを気にすることもなく優しく接してくれた。理由を聞いてみれば、そんなこと気にするわけないだろうと一喝された。どうやら、人間のことを少し勘違いしていたのかもしれない。
夜行われた宴会で、彼は私を妻として紹介した。彼曰く、そのほうがみんなと仲良くなれるだろうと言う配慮だった。
「これからも一緒にいるのだろう?なら、そのほうがいいさ。」
彼のその澄み切った笑顔を見て断れるはずもない。でも、その意味を分かっているのだろうか。
ダークエルフを人間が嫁に娶ると言う意味を。
部屋に戻ってからはアイリスと同じベットで寝る予定だったのだが、3人一緒が良いと言って聞かないので結局アイリスを真ん中にして、シンと私で挟む形で寝ることになった。
このように暖かい安心した気持ちで寝ることが出来るのはどれくらいぶりだろう。誰かと一緒になることがこんなにも心地よいものだとは思わなかった。そう思うと、この時がなくなってしまうかも知れない不安に駆られて、彼に問わずに居られなかった。
「あなたは、私を妻として扱っていますが、後悔していないのですか?」
「ん?それがどうした?....すまない。もしかして、嫌だったか?」
嫌なわけがない。そうじゃないんです。優しく女性として扱ってくれる貴方に悲しい思いをして欲しくないだけなんです。・・・なんて言えるわけない。
「違うのです。いえ、それもあるといえばあるのですが、私がダークエルフであるということです。その意味をわかっているのですか?」
つい、少し強い口調になってしまった。幸い、アイリスは深い眠りに入っていて起きなかったのでほっとした。
案の定、彼はダークエルフについてよく知らなかった。この世界でダークエルフを知らない人間がいるとは思わなかったが。よくよく考えれば彼には常識がないように思えた。それでいて下手な貴族よりも礼儀や佇まいがしっかりしていた。彼のことが少し分からなりつつも、丁寧に人間から見たダークエルフの事を教えた。途中で自分を卑下しているようで辛くなったが、彼にしっかりと教えないといけないと思ったので、最後まで頑張った。より一層心の中の不安が高まる。
彼は、これを知って手放すだろうか?待遇を変えるだろうか?売り飛ばされる?
様々な不安が渦巻く。
彼は、私に近寄ってきた。思わず、身体が強張り、目を閉じる。
やってきたのは、優しく包まれる感覚だった。
.......え?.......
「なにも心配しなくていいから。それに、こんなに可愛くて綺麗な子が妻なんだ。なんの後悔があるって言うんだ。周りの言うことなんて気にしなくていい。・・・それに、誓ってくれただろう?一生共にいるって。だから、俺も全力でシルヴィアとアイリスを守るから。不安になったらこうやって抱きしめるから。だから、後悔してるなんて聞くなよ。悲しいだろ?信頼されてないみたいで。そう。俺は、幸せなんだから。今日一日だけでもね。」
なんで、そんなにまで貴方は優しいの?可愛いなんてこんなはっきりと面と向かって男性に言われたのは初めてだった。嬉しいと思う自分がいた。
あぁ...この人は、本当に自分と居て幸せだと感じてくれてるんだ。ごめんなさい。ありがとう。買ってくれたのが貴方で本当に良かった。
耐え切れず涙のダムが決壊した。その間も、ずっと彼は抱きしめ続けてくれた。すごく安心する。
寝ることになり、彼が元に居た場所に戻る。彼の感触が消えて少し残念だったが、アイリスをのけ者にするわけにもいかず仕方なかった。
「お休み。」
「ええ、おやすみなさい。私の素敵な旦那様。」
彼に出来ることをしてあげたい。心の底から一緒に居てあげたい。ダークエルフの魂に誓ったのだ。死が分かつまで共に過ごそう。
彼の寝息を聞きながら、徐々に徐々に振り返った思考がまどろんでいった。
次回こそ本編に戻って物語はしっかり進みます。
前回に引き続き読んでくださってありがとうございます。次回も楽しめるように頑張って書いていきます。