奴隷制度に憂う
遅くなりました。まだ少し修正することがあるかと思いますが、とりあえずお楽しみください。
誰かに呼ばれているそんな感じがした。
浮かぶは、妹の孫の顔だった。そう。時々遊びに来ては昼寝をしている私を構って欲しいのか起こしてくる可愛い子達だ。
眠気を他所に恐る恐る目を開ける。
「ぱぱーっ!朝だよー!」
目の前に居たのは、アイリスだった。
そこで、ようやく先ほどのが夢だと言うことに気付く。前の世界のことはある程度けじめというか決別をしたつもりだったのだが、どうやら未練の様なものがあったらしい。
アイリスが大きな目をくりくりしながら顔を覗いてくる。両手で持ってアイリスの髪の毛をわしゃわしゃする。
「わー。やーめーてー。うー。おかえしーだー。」
アイリスがお返しに慎の頭をわしゃわしゃする。ある程度に両者の髪の毛が鳥の巣のようになったところで、朝食を取るために食堂へと向かう。ミーシャと目が合い、慎とアイリスの髪の毛を見て目を見張るも、事情を話すと腹を抱えて笑った。
「ははははっ。朝から仲がいいことね。はぁ...旦那の意気地なし。・・・ご飯にするんでしょ?持ってくるからそこらへんに座っててちょうだい。」
ミーシャに促されて席に着く。どうやら、昨日は夫婦間で一悶着あったようだ。心の中でミーシャの旦那さんに手を合わせる。
「はい。どうぞ。今日は、旦那と私の自慢の一品の朝食よっ!」
出されたのは、サンドウィッチのようなものとビーフシチューのようなスープだった。思わず、“いただきます”と反射的に声が出てしまった。
「なにー?それー?」
アイリスが訊ねてきたのを皮切りにミーシャも反応して話しに混ざってきたので、“いただきます”と“ごちそうさま”について説明した。
「へぇー、いい習慣ね。私のところでも普及させようかしら。ますます、シンの住んでいたところが気になるわね。ここから遠いのでしょう?ここら辺じゃ聞かない習慣だし。」
「ええ。多分、もう二度と故郷の土を踏めないほどには遠いでしょうね。」
「パパ帰りたいのー?」
アイリスの言葉にどうだろうね?と苦笑まじりで返すと、ミーシャにアイリスとの事を話して世話係を雇いたい旨を伝えた。もちろん、自身が冒険者であることも含めて。
「あぁー。そういうことだったのね。あんたも、お人よしね。ふむ。私が見てあげたいのも山々なんだけど、仕事の方でずっと見てあげられる自信がないし。。。お金に余裕ある?」
「あ、はい。一応、金貨700枚ほどには・・・。」
と、腰に下げてあった袋をミーシャに見せた。見せた途端に顔色を変えた。
「なんて額を持ち歩いてんだいっ!冒険者ならギルド行ってしまっておいで。上のランクのやつに見つかったら盗られるわよ。大体の主要施設ならライセンスで引き降ろすことできるから無闇に大金持たないほうがいいわ。」
「すいません。全く持って気にしてませんでした。後で行ってきます。」
ミーシャに言われてすぐに腰にしまい戻す。
「でも、それだけお金があるなら奴隷を買うのもありだと思うわ。雇うと継続的に結構な出費になっちゃうし、奴隷なら基本的に最初の売買の金額しかからないから。まぁ、食事とかは掛かるけど、それだけだからね。雇うよりも安く済むし、安全面でも隷属の首輪してるから反抗できないから安心できるし。」
奴隷と言う言葉に、一瞬顔をしかめるも、これからのアイリスの事を考えるといつでも一緒に居られる奴隷の方が信頼も出来るし金額的にどれくらいするのか分からないが、商館に行って見て見るぐらいはいいかもしれないと思った。
「では、見てくることにします。その間、アイリスを見ててもらっていいですか?」
「いいわよ。息子に遊ばせておくから。レックスー。ちょっと来なさいー。」
厨房の方から赤毛の少年が出てきた。彼がミーシャの息子のレックスだろう。
「なに?母さん。」
「午前中、この子の事見ていてくれる?代わりにこの兄ちゃんが稽古してくれるっていうからさ。」
ミーシャがこちらをチラ見していった。そんな約束した覚えはないのだが、ミーシャの話にとりあえず合わせておくことにして頷き返した。
「別に見るのはいいんだけど。その兄ちゃんつよいの?強そうには見えないけど・・・」
「そんなことはないはずよ。盗賊退治したって話だし。ねぇ?」
「ほんとっ!んじゃ、見てるから稽古つけてよ!」
レックスが輝いた目でこちらを見ていた。ここまで来ると断りづらくなったので、了承した。
「では、行ってきます。アイリスをよろしくお願いします。アイリスもお兄ちゃんの言うことよく聞くんだよ?」
「ぱぱぁ。アイリスいい子にしてるから早く帰ってきて...。」
心配がるアイリスの頭を撫でながら、自身の首に掛けているネックレスを外し、アイリスに着けた。
「パパが、大事にしてるお守りだよ。帰ってくるまで持っててくれる?」
「わかったー!待ってる!」
アイリスは、プレゼントを貰って嬉しいのか耳と尻尾を思いっきりブンブン振り回した。
アイリスに手を振りながら、奴隷商館へと向かうことにした。
奴隷商館は、商業ギルドの隣に位置していて表通りに面しているところにあるとは思わなかったのでびっくりする羽目になった。
「いらっしゃいませ。奴隷の買い付けでしょうか?」
迎えたのは、白髪が所々に目立つ茶髪の男だった。
「ええ。私は、シンと申します。本日は女性の奴隷を探しに来たのですが、奴隷について制度自体を知らないので共にご教授お願いできないかと思っているのですが。」
「ご丁寧にどうも。遅ればせながら、私は、このフェンリルで唯一の奴隷商館を任されているレドでございます。以後お見知りおきを。わかりました。私でよければ、お教えいたします。先にご説明にしますか?それとも、商品の方を先にご覧になりますか?」
「いえ、制度を先に知っておいたほうがスムーズかと思うので、説明のほうをよろしくお願いいたします。」
「わかりました。」
と、レドが奴隷制度について説明してくれた。
奴隷には、大きく三つに分かれていて借金奴隷・敗戦奴隷・強制奴隷に分かれている。
借金奴隷は、本人または親族が賠償金の支払いや税金の支払いが滞った時に、身を売って奴隷になること。この場合、年契約になるので契約年を過ぎれば奴隷から解放される。
敗戦奴隷は、戦争や決闘において負けた側が賭けとして身を差し出すか恩賞として相手側の貴族などを奴隷にしたりすること。持ち主が認めない限り、解放されることはない。
強制奴隷は、奴隷狩りや親族などの引き取り手の居ない子供が強制的に奴隷に落ちることを差すこと。主に、戦争途中や軍事行動の最中に出た敵兵なども捕虜になるか奴隷になるかの二択ということらしい。この場合も、敗戦奴隷と同様に持ち主の了承がないと解放されない。
奴隷になると、人権は持ち主に依存されるので他人の奴隷に手を出すのは窃盗などの重罪にあたるので気をつけなければいけないという事。ただ、人権が持ち主に譲渡されることから持ち主が奴隷に危害を加える又は、殺害しても罪には問われないと言うものだった。なので、男性は労働力、女性は性奴隷にされることが多いのだそうだ。
また、初年度と次年度の二回だけ持ち主が奴隷の税をギルドに納めることになっているらしい。
奴隷は、首に隷属の首輪という魔法アイテムつけられており、持ち主に逆らえないようにされているらしい。万が一に逆らうと死ぬことも出来ない激痛が襲うとの事だった。
金額も、ピンキリなのだが相場は最低が200アルぐらいからで、相場は300アルと言うことだった。
「こんなところでしょうか?お分かりいただけましたでしょうか?」
「ええ。結構暗い部分が多いですね。」
「そうですね。実際、不幸になる奴隷が多いことは間違いないです。それこそ玩具にされるような方もいらっしゃいますから・・・ただ、幸せになれた方もいらっしゃいます。そもそも、跡継ぎが欲しくていらっしゃる方も多いのです。」
レドは慎の言葉が心に堪えたのか苦笑しながら頬を掻いた。
「そうなのですか。失礼しました。嫌なことを聞いてしまって。」
「いえ、こういう職業ですので慣れておりますから。それよりも、貴方が心の優しい方で売る側としても安心できるのであり難いです。・・・では、ご覧になりますか?ご希望はございますか?」
と言われて思案する。アイリスのことを考えると狼人種の女性がいいのだろう。後は、歳も自身と同じぐらいにしようと決めた。あまり上だと気を使ってしまいそうだったからだった。
「すいません。狼人種は現在居ないのです。申し訳ない。同じ年齢の女性奴隷ならご用意できるのですが・・・。」
「では、それで構わないのですべて見せてください。それから決めることにします。」
「わかりました。少々お待ちください。」
しばらくレドに奥の部屋に通され待っていると5人の女性と一緒にやってきた。小奇麗な格好がなされており首輪をされていなければいいとこのお嬢さんと間違えるほどだった。
一人一人レドによって紹介がされるがほとんどが侮蔑の目を隠しているかもしくは同年代と言うことから寵愛を受けられるとでも思っているのかアピールしている子の二択だった。どれも、“人族”だった。
「他にはいないのですか?」
「一応居るには居るのですが・・・入ったばかりでして少し問題があるのですが・・・」
「んー。とりあえず、会わせていただくことはできますか?」
「わかりました。お待ちください。」
5人の女性を下げると少し経ってから一人の女性を連れて戻ってきた。
「こちらが、もう一人のシルヴィアです。」
レドが連れてきた女性は浅黒い肌にとがった耳を持った銀髪で灰色の目を持った女性だった。
「人族ではないのですね。」
「ええ。彼女は、ダークエルフ。大まかに分ければ魔族にあたります。本来であれば妊娠しづらい観点から高級商館に買われる予定なのですが先の大戦で仕入れたばかりでして・・・反抗的...いえ、扱いずらくてですね。」
「わかりました。少し気になったので2人で話すことは出来ますか?」
「できることは出来ますが隷属の首輪は現在私のみにしか効力を発揮していないので襲われる可能性もありますが・・・」
「構いません。責任は私が取りますので。」
「わかりました。では、少々席を外しますのでごゆっくり。」
レドは、部屋からゆっくりと出て行った。
「さてと・・・まずその殺気解いてくれないかな?居心地が悪くてね。」
「何故気付いた。ニンゲン。」
そう。入ってきた時から顔には出ていなかったが静かな殺気が沸々と送られていた。それも、会って気になったのだった。
「いや、そういうのに敏感でね。でだ、君を買いたいのだけれどもどうだい?」
「私を買いたいんですか?身体が目的ですか?死ぬことも出来ないのが腹立たしいですね。本当に。」
シルヴィアは、敵愾心の目を向けた。ふと、元の世界の出来事を思い出すがすぐに頭を振ってかき消した。
「いや、子守を頼みたいのと娘の護衛を頼みたかったんだ。君なら・・・できるだろう?」
シルヴィアの目をしっかりと覗く。灰色の目の奥に潜む闘志を探るように。
「ふふ。変わった人ですね。殺気を放っているとわかった時点で普通は買うのを止めるか私の素性を探ると思うのですが。それにこの私に任せる仕事が子守ですか。危害を加えられないのは貴方だけなのですよ?」
シルヴィアの敵愾心の目が少し和らいだ。
「そうだな。確かに私は変わっていることは間違いないな。ある意味で“人”ではないからね。
でも、君はそんなことしないだろう?」
「それは、どういう・・・いえ、何故そう思うのです?」
「勘だ。」
シルヴィアは一瞬呆気に取られていたが持ち直して、口に手を当てて笑いを堪えている。
「貴方という人は、娘を勘という理由だけで命を賭けられるのですか。なんていう人なんでs・・・」
「そんなことはさせない。絶対に。それになら、隷属の主を娘にすれば良いだけのこと。もしくは、言いつけで条件つければいい。何とでもなるが、もしそうなったら、やったことを後悔することになる。」
アイリスが傷つくのを想像してしまい咄嗟に全身から殺気を纏ってしまった。シルヴィアは思わず硬直してしまったようで、顔を強張らせ頬に汗が流れたのが見えた。
「すまない。つい・・・な。」
「いえ、こちらこそ。出すぎたことをしました。」
シルヴィアが深々と謝った。やはり、どこかでしっかりとした礼儀作法を受けているのが伺えた。
「レドは、居ますか?」
「はい。ただいま参ります。」
大声でレドを呼ぶと、すぐに声と共にレドが戻ってきた。
「そうかなさいましたか?粗相がございましたか?」
「いや、このシルヴィアを買いたいんですが、値段の方はどうでしょうか?」
「え、あ、はい。そうですね。まだ、指導や調教が行われていませんので安くいたしますが、ダークエルフという種自体が希少なので・・・そうですね。今後のご好意にしていただきたいので、6万アルでいかがでしょうか?」
6万アル。金貨600枚か。払えない金額じゃないが、人の命の売買がこんな金額で高い部類に入ると思うと何だがやるせない気持ちになった。
レドに金貨600枚払い、奴隷に関する所有権の書類のサインをすると所有権の譲渡を行うことになった。
「では・・・」
話を切り出そうとしたレドを手で制して止める。
「すまないんだけれども、彼女の首輪の機能を消してくれるか?」
自身の発言に、レドだけではなくシルヴィアも驚きの表情を露わにしていた。それもそうだ。首輪の機能が奴隷を奴隷たらしめる物だからだ。これがなくなれば、奴隷でも何でもなくなる。もちろん、刻印が残るので奴隷なのはわかってしまうが。
「本気でおっしゃってるのですか?どうなってもしりませんよ?」
レドは、真剣な眼差しで見つめる。
「ええ、もちろんです。何も問題はない。そうでしょう?シルヴィア。だが首輪は、そのままで彼女の安全のためにも。それをつけてれば他の人から危害を受けることはないでしょうから。」
シルヴィアはこちらの意図を探るように眼差しを向け、小さく頷いた。
「わかりました。何があっても私は責任取れませんからね。本当に貴方は変わってらっしゃいますね。今まで商売上いろんな人を見る機会がありましたが、貴方のような方は生まれてこの方初めてでございます。」
「でしょうね。普通はしないだろうと私も思いますから。」
レドの言葉に苦笑しながら返す。
レドが、首輪に手を翳すと光が首輪に当たった。
「これで機能は消去しました。形式上の形しか首輪は意味をなしてないので安心してください。」
「では、いきましょうか。シルヴィア。」
そこからのシルヴィアの動きは早かった。2mほど距離を一気に縮めて、両手で首を絞めてきた。そう。その直前までだが。その軌跡は見事というしかなかった。レドは、何が起こったかを起こってから気付いたぐらいだった。シルヴィアが意図的に首を絞めようとするのを止めていなければ、今頃首に指が食い込んでねじ切られていただろう。
「何故、抵抗しなかった。反撃は無理でも抵抗は出来たはず。」
「何故って、言ったじゃないか。勘だって。じゃあ、シルヴィアはなんで止めたの?」
シルヴィアは、思案する顔をしてゆっくりと首にかかっていた手を下げた。
「......はぁ。わかりました。このシルヴィア、貴方を主人と認めましょう。貴方のことを知りたくなりました。私も貴方のような変わった方とは会ったことがありませんので。」
「お褒め頂き光栄至極。」
おちゃらけてシルヴィアに笑って返すと、拗ねた様な顔をした。
「別に褒めてませんっ!」
「あははははは。そうですよねー。」
レドに挨拶をして奴隷商館を後にした。
“湖の畔”に戻る途中、ふと足を止めてシルヴィアへと顔を向ける。
「自己紹介がまだだったね。俺は、シン・アキヤマ。シンで構わない。冒険者をやっているこれからの人生を共に過ごすことになるがよろしく頼むわ。」
「遅いですよ。というよりも口調が変わりましたね。では、私もそれに倣いましょう。私は、シルヴィア・フォン・ヘルヘイム・ヴァルキュリア。私は、シルヴィでいいわ。ええ。貴方がそこまで言うのなら応えましょう。貴方と死を分かつそのときまで一緒に居ることを私の魂に刻んで誓いましょう。」
「お、おう。だいぶ大仰だな。よろしく。」
シルヴィアに手を差し出すと、応えるようにしっかりと握り返してきた。
「一つ聞きたいというか、もう一度聞きたいのだけど・・・なんで首輪の機能を外したの?」
「あぁ。それは秘密だ。」
そういいつつ遠くを見つめた。別にたいしたことではない。が、なんとなく言いたくなかったのでそう返した。
シルヴィアもそれ以上深く追求してくることもなく、“湖の畔”まで他愛もない話をして歩いた。
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