世界の狭間で
遅れてしまった。まさかPCの前で寝落ちしてるとは・・・
目を開ければ、目の前に広がるのはどこまでも広がる空色の空間だった。
「ここ・・・は?」
周囲を見渡してみても誰かいる様子もなく、自分は死んだんだろうなと思った。
「どうにか、ぎりぎりで魂も呼び寄せることが出来ましたか・・・」
ふと何処からともなく女性の声が聞こえた。周りを再度見渡すも、人らしきものは確認できない。察知能力に長けた慎だが、ここまで人の声が聞こえて方角や距離も掴めないのは初めての経験だった。
「ふふ。こちらですよ。」
今度は、後ろからはっきりと声が聞こえた。後ろを振り返れば、10代と見受けられる女の子が一人たっていた。
「私は、秋山慎。あなたはいったい誰なのかな?」
「へぇー。礼儀正しいのね。自分から名乗るなんて。あの子がべた褒めしてただけはあるわね。」
うんうんと頷きながら、少女はじろじろと慎の身体を見た。一通り見終えると、慎の目に目線を向けた。
「うん。身体のほうも大丈夫そうね。私の名前は、そうね・・・色々呼ばれているけれども、ディアとでも呼んでくれるかしら?」
「ふむ。ディアさんね。早速で悪いんだけど、質問させてもらって良いかな?ここはどこ?あなたは誰?多分なんだけど、俺に用事があるん・・・だよね?」
すべての答えをディアが持っているようなそんな気がした。捲くし立てるように質問した。
「察しがよくて助かるわ。そうね、一つ一つ答えていこうかしら。あんまり友達に負担をかけられないから手短に行くわね。」
すると、気になっていたことを一からディアは説明してくれた。
現在いるところが、様々な世界の狭間であるということ。自分たちが神であり世界の監視者でもあるが、基本的にそれぞれの世界に介入や操作ができないと言うこと。慎が死亡し輪廻転生の輪に取り込まれる運命を曲げてまで無理やりここに呼び寄せたこと。別の世界に渡り、理由は言えないが第二の人生をして欲しいということだった。
「どうかしら?行ってくれないかしら?強制はしないのだけども・・・」
ディアは、慎に尋ねる。慎にとって今までの人生を生きてきて満足している。今更、第二の人生をしてきてくれと言われても正直受け入れがたい。慎は、色々な人を見てきたお陰である程度の人の観る目はあると思っている。それだと、ディアは表には出していないが、相当に困っているのだろうことは分かった。一応、命の恩人と言うこともあり、断ることが出来なかった。それに加えて、昔からの兄貴肌で困っているのを見捨てられない性分も加わったせいでもある。
「分かりました。行きましょう。でも、私は普通に暮らすだけでいいのでしょう?」
正直争いやら競争やらはしたくなかった。ゆっくりと人生を楽しみたい。これは、人生の延長戦なんだと思うことにした。
「ええ。好きに生きてもらって構わないわ。農夫としてのんびり生きるもよし、世界を征服するもよし。冒険者として世界を旅するなんてのも・・・つまりは、なんでもありよ。」
「さすがに、そんなハチャメチャなことはしないし、出来ませんよ。」
ふふふと笑いながら、慎の反応を楽しんでいるディアに対して慎は、軽くため息をつく。
「では、あなたの行く世界に関しての説明でもしましょうか。世界の名前は、[ファルタール]と言うところよ。そうね。貴方達が言うところのファンタジーな世界ね。世界の仕組みの説明を理解するまですると時間が足りないのもあるし、あんまり知ったところでって言うのもあるから省くわね。まぁ、簡単に言えば仕組み的には、その世界はゲームの世界だと思えばいいわ。ただ、そこにいるのがちゃんと生きている人々いうことだけど。」
ディアは、慎にファルタールという世界で生きて欲しいとの事だった。ゲームの世界、ファンタジーの世界と言われて普通なら心躍ったり喜ぶところなのだろうが、慎にとってそのようなことは些細なことだった。もちろん、すべてを語っていないがその理由を理解して欲しいという時点で慎にとってディアの言うことが信頼に値していた。
経験値のようなものも存在し、人や出てくる魔物や動物を殺すと魔素というものを吸収して身体能力などが上がっていくとの事だった。正直、そんなことなどしたくは無いのだが、根っから武
人の慎からすれば、その世界にいけば強い武人と手合わせできると思うと少しだけ、本当に少しだけ心が躍ってしまった。
「と言うことは、おじいちゃんで尚且つ恐ろしい化け物たちの中に放り込まれるわけですね。。。はぁ。。。」
「ショック受けるとこっ!?ちがくない!?こころ踊ったりしようよっ!ねぇっ!?」
ディアさん。口調が狂ってますよー。と心の中で思う。実際のところ、能力とかはどうでもよくて70を超えるこの身体で世界にほおりだされても即効死ぬ自信があった。現に、身体の半分は動かないしびっこだ・・・そこで、妙に身体が軽いことに気付いた。
「あぁー、おじいちゃんで行かれても、なにも楽しめずにすぐに死んじゃうじゃない?勝手で悪いけど、若返りさせてもらったわ。あと、私たちって、そんなに万能じゃないのよ。だから、普通なら色々と特別な能力をあげるのが神様なんだろうけど・・・ごめんなさいね。」
「あ、さっきのは冗談なんで気にしないでください。第二の人生なんてすごいものをすでに頂いてますから。本当にありがとうございます。」
少ししょぼくれたディアを見て、慌ててフォローを慎は入れた。
「そか。よかった。ちなみに、悲観はしないでね。あなたの経験や元々の地力はそのまま引き継がれた状態で・・・もちろん、記憶も知識も技術も能力もそのまま17歳のあなたの身体能力で送るわ。それに、あなたの元々の身体能力が異常なほどあるわ。それを考えれば、貴方は充分な異分子よ。。。」
「あ、なるほど。よかった。」
さすがに今までの自分のがんばりや人生がなくなるようで寂しかったので、記憶やらその他もろもろが引き継がれるディアの言葉はありがたかった。
「これも一応説明しておきましょうか。魔素について軽く言ったけど、もちろんファンタジーな世界だから魔法も存在するわ。このようにね。」
手品のように、ディアの指先から小さな火が出た。
「あなたも、もちろん使えるようになるわ。でも、あなたの世界には魔法というよりも魔力の概念が廃れてしまっているから、ファルタールについてもいきなり使えないわ。魔素を吸収するか鍛錬をして自分の中の存在する魔力量を高めれば使えるようになるからがんばってね。」
「あ、いきなりは使えないんですね。でも、使えるようになるんであればいいです。安心しました。」
ディアに向けて笑みを向けた。
「あははは・・・本当になにかしてあげたいんだけど・・・そうね。貴方にはあまり喜んでくれないかもだけど、武器でよかったらあげるわ。中身はついてからのお楽しみ!」
武器と言われた瞬間、ここにきて初めてはっきりと心が躍った。
むやみやたら武器を振るったりするわけではないが、50年以上武器を扱ってきたんだ。心が踊らないわけなど無かった。
「こっちにきてー。そうそのままじっとしてー。この姿じゃきついわね。これでどうかしら。んっ。」
ディアに言われたとおりに近づくと、少女だった姿が女性と呼べる20代ぐらいの姿へと変化して口付けしてきた。一瞬のことに身体を少し強張らせたがディアはすぐに口を離した。
「はい。女神の祝福です。何ちゃって。あとは、思うだけで武器を呼び寄せられるからー。あとで確認してみてー。」
ディアはぺろっと舌を出した。両腕を見れば刻印が浮かんでいることに気付いた。これがディアが施した祝福であることが分かった。
ありがとうと伝えると一瞬ディアは、苦笑の表情を浮かべるもすぐにほっとした表情に変わった。
「あ、ごめんなさい。もうそろそろ時間がなくなるわ。早速行ってもらっていいかしら?後は、あなたの経験で切り開いてもらえると助かるわ。一応、移動先は町の見える範囲に設定しておいてあるから。」
ディアの表情から見るに本当に時間がないようだ。
「分かりました。色々とありがとう。何とかやってみますよ。」
ディアに手を差し出した。ディアは一瞬顔に?を浮かべたが、意味を理解したのか手を出し握手した。
「あなたの第二の人生に祝福を。行ってらっしゃい。シン。」
「はい。いってきますっ!」
そして、ゆっくりと目を閉じた。
次回は、今日中です。はい。朝に出来ればいいと思ってます・・・