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プロローグ

どうも初めまして。楽しんでいただければ幸いです。

いつもの様に、街中を歩いていた。今日も日課のひとつである散歩をする。私は、この町を見るのが好きだ。

「ふぅ。」

年々と身体が思うように動かなくなってきた。思えば、自身の年齢は70を超えている。それに加え、若い頃の無理やら投薬やら色々で足先が特に鈍い。そうなれば当たり前と言えば当たり前の結果だった。


ふと、町並みから頭上に広がる空へと目線を変える。


この活気のある町並みになるまでに、40年以上の年月がかかった。50年前に始まった戦争の傷跡も今となっては見当たらない。徐々に、戦争の記憶が人々の中から消えていく、そんな感じがしてなんとなく空しく、そして悲しく感じた。実際にあの戦争を経験し生き延びた人も段々といなくなっていってる。


自国が再び敗戦国となる。敗戦国はいつの時代も惨めなものだ。勝った者が正義、そんなような言葉があった気がする。

ふと、自分の身体を触ればそこらかしこに無数の傷跡にあることが実感できる。今の時代であれば、傷なんて消すこともできる。でも、私は消すことはしなかった。生きていることを・・・命を奪ったことを・・・今までの出来事を忘れないために。


「本当に清々しい陽気だな。」


町に降り注ぐ太陽の光、吹きぬける風、それぞれが私をやさしく包む。大袈裟かもしれないが、生きていてよかったそう思える陽気だった。老い先短い私では、恐らくこんな陽気に会うのは最後かもしれないそう思った。


ふと目線を正面に戻すと、目の前、5メートル先に一人の男が立っていた。普段だったら気にも留めないはずなのだが、目に入った。姿を見るからに4・50代といった所だろうか。目に留まった理由それは、私に向けられている目線だった。

それをもし言葉で表すのであれば、憎悪に染まった目だった。もしくは、長年の獲物を見つけた狩人の狂い喜ぶ狂喜の目とでも言おうか。


「やっと、見つけたぞぉ。うははははは。秋山慎っっ!!」


男は完全に壊れていた。周囲も、何事だとざわつきはじめた。


もちろん私には彼に面識ははい。だが、心当たりはあった。というよりも、私の場合は無い方がおかしい。


男は、懐から刃渡り15cmほどのナイフを取り出し構えた。構えるナイフは、俗に言うファイティング・ナイフ、ダガーと呼ばれるものだった。


「ふふふふふふ。この時を待ちわびていた。30年だ!貴様を探し出して、やっと・・・やっと!」


「はぁ。」


厄日だ。そう思うほかなかった。老いた私とは言え、男のナイフの構え方や姿勢からして後れを取るとは思えないが、やはり気分のいい物ではなかった。もちろん、恨まれるだけの事を数えられない程してきた。もちろん、望んでやったこともあれば望まずにそうなってしまったこともあるが。だから、この男の人生を狂わせてしまったのもやはり私なのだろう。


ゆっくりと男の方へと歩く。


「本当にすまなかったな。」


本当に自然と言葉が口から出てきていた。昔の私であれば、なぜ!私が!ふざけるな!とまでは行かないが、憤慨していたかもしれない。今までのいろいろな経験が私の今の落ち着いた心境を作り出しているのは間違いない。


「すまない・・・だとっ!そんなんで済むと思っているのか!殺してやるっ!殺す殺す殺す殺す!しねぇぇぇぇぇ!」


差し出して来るナイフを半身で捌いて、手刀を首筋に当てて意識を落とす...はずだった。


「あぶないっ!」


人ごみの中から出てきた少年によって、私の計算は狂わせられた。


庇う様に出たきた少年が立ち向かうも、今までの経験による予測では捌ききれずに刺され息絶えるのが容易に想像出来てしまった。

私は、自然と目の前にいる少年を持てるすべての力で服をつかみ投げ飛ばした。それのせいもあってか私は体勢を崩した。なんとか、ナイフの攻撃範囲から少年をどかすことが出来て、ほっとした。

だがしかし結果、腹部に深々とナイフが刺さった。


「ぐはっ。。。」


痛みは大した事はない。むしろ、大した事がないのが問題だ。脳が痛覚を鈍らせる。つまり、致命傷だということが分かる。


「やった!やったぞ!ははははははっ!見てくれているかい?父さん母さん、あははははははっ!」


男は、ナイフから手を離し、天を仰いでいる。


「あははははははは....。」


そんな中、私は自然と笑いが出てきていた。恐らく死ぬのだろうなと思うと笑うしかない。やはり、こういう終わり方か。辛いこともあったし、悲しいこともたくさんあった。恨まれるような事ばかりしてきた。人に裏切られ、国に裏切られ、大切なものもたくさん失ってきた。それでも、誰かを恨んだり憎んだりすることは今の私には出来なった。他人が見れば、不憫な人生とか不幸な人生だと語るかもしれない。でも、私には感謝しかない。ここまで生きれたことに。だって人は一人では生きていけないのだから。思えば、辛い時でも悲しい時でも誰かがそばにいてくれて支えてくれたそれだけで私にはすべてを吹っ飛ばして幸せ者といえるのだから。

昔の仲間や恋人、そして先に逝った家族の顔が頭に浮かぶ。


「やっと・・・会いに行けるよ。」


不思議と空へと手が伸びる。徐々に視界が霞んで焦点が合わなくなってくる。ふと、身体を見ればおびただしい量の血液が流れ出している。長くはないと自ら悟る。


「おじいさん。なんで...だいじょうぶですか!?しっかりしてください!」


さっきの少年が、私の身体をゆすりながら声をかけてくる。彼の顔を見れば顔面蒼白だった。


「ふふふ・・・大丈夫だよ。それよりも、ありがとう。助けようとしてくれて。でも、こんな危ないことはもうしてはいけないよ?」


つい老婆心から一言多いことを言ってしまった。でも、本当に心から助けてくれたことには感動していた。私のことを少年が知らないからかもしれないが、普通の人からは恐れられるか忌避されるかぐらいしかされてこなかったからだった。


「分かりましたから!喋らないで!血が・・・血が止まらないよっ!どうすればっ!周りも見てないで止血てつだってくださいっ!くそっ!」


段々と身体に力が入らなくなってくる。視界もだいぶぼやけてきた。

うん。色々あったけど本当にいい人生だった。


「え?なにこれ?周囲が眩しく・・・うわぁぁぁぁぁぁぁ。」


少年の叫び声と共に、霞みゆく視界が一瞬にして眩しくなった。


光の後に残ったのは、事切れた老人と立ち尽くし笑い壊れている精神異常者だけだった。








後に、このことはゴシップ誌やニュースでも多く取り上げられた。消えた少年の謎や戦争の傷跡とも言える精神異常者も然ることながら、亡くなった秋山慎という老人の葬儀に参列する人の多さからだった。

彼は、多くの人に惜しまれその数は、世界有数の著名人の葬儀の参列数をも軽く超えていた。だが、普通の老人がなぜここまで大勢の人が参列にいたったのか。定かではなかった。

ある者は、戦友と、そしてある者は、先生、教官、父、仇、師範と呼ぶ声様々だった。彼の経歴を聞いてもそれぞれがそれぞれ言うことが違うので、ゴシップ誌ですら騒ぎはしても、彼の経歴にまではたどり着かなかった。

驚くべきなのは彼を先生や師範や教官と呼ぶものの中には、大佐階級などの軍人や政府の高官なども含まれていたからだ。各国の王なども御忍びで参列したと言う信じられない噂もあった。

その中でも彼の過去を探れそうな戦友や仇と呼ぶものたちにジャーナリスト達は取材を試みるも、得られた情報はほとんどない。皆、一概にただ一言“言えない”と答えるのみだった。


結果、数少ない情報の中から分かったのは、戦争孤児を多く引き取り孤児院を開いた軍人育成のエキスパートだと言うことだけはかろうじて公に知りえることだった。



ただ、記者の中の一人が葬儀の外で泣きながら崩れ彼を惜しむ老婆から話を聞くと、“地獄を生き抜いた誰よりも優しく、誰よりも強くて弱い男性だった”と言う彼の素性の一辺を知ることが出来たのだった。






次回第二話は、本日23時になります。


現在、10エピほど見直して加修正しておりますので少々お待ちください。

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