エレジー先生
患者のSさんは、何をしてもうまくいかないのだという。
良かれと思ってしたことが全て裏目に出て、空回りばかりで、相手から一方的にやり込められてしまう。焦れば焦るほど失敗が続き、負のスパイラルにはまり込んでいく。すっかり自信をなくしてしまった。好きなことをしているはずなのに、楽しくない。後悔や不安で頭がいっぱいになり、夜も眠れない。自分は病気なんじゃないか。
「それは病気じゃないね。能力不足だよ」
エレジー先生は言った。
「ひどい。私はこんなに悩んで苦しんでいるのに」
Sさんはくまのできた目を見開いて言った。
エレジー先生はタブレットの画面を小気味よく弾き、ふんふんとうなずいた。
「孤独タウンから左に行くと、小さい民家のような施設がある。そこでモンスターを量産できるから、今日から厳選作業にあたりなさい。妥協してはいけません。できるだけ能力の高い個体を生み出すこと」
「ちょっと、何の話ですか」
Sさんは椅子から立ち上がった。顔を真っ赤にし、両手を震わせている。
エレジー先生は驚いて、タブレットの電源を切って処方薬事典の隣に置いた。
「ニクマン・エックスだけど、違った?」
「ふざけないでください! そんなゲームの話、私はしてません!」
Sさんは勢いよく向きを変え、診療室を出ていこうとした。
エレジー先生は慌ててSさんを呼び止めた。白衣をふわりと揺らし、丁重に頭を下げる。
「すみませんでした。てっきりニクマン・エックスの話だとばかり思って……本当に失礼しました」
「あ、いえ、そんな」
Sさんは大声を出したことが恥ずかしくなったようで、静かに椅子へ戻った。
エレジー先生はボールペンとカルテを用意し、Sさんに向き直る。
「改めてお聞きしましょう。何の話ですか?」
「はい。ニクマン・シグマトパーズ。最新作のほうです」