1.バナナの祟り
アルバイトから帰り、久しぶりにシャワーだけでなく湯船につかった。私は目を閉じ、耳をすませた。ルームシェアをしている倫子の笑い声と、テレビの音が聞こえる。安心させられる音だ。それから私はゆっくりと目を開け、脚に痣が増えていることに気づく。
「どうしたんだろう、ぶつけた記憶はないんだけど」
そう言って痣を見せると、倫子は整った美しい顔をしかめる。
「痛そうね。私もよくなるの、疲れたときに」
「へえ、疲れているとなるんだ? 確かに、最近身体がだるくて。バイトの入れすぎかな」
「それか、バナナの 祟りとか。ほら、この間、黒くなったバナナ捨てたじゃない」
倫子はそう言って笑った。
やっぱり一人じゃないって良い。倫子と冗談を言い合うと、沈んだ気分も救われる。
しかし、その後もバナナの祟りは勢いを増し、私の脚には痣がどんどん増えていった。そして痣が脚だけでなく、上半身にまで広がってきた。私はさすがに怖くなり、やっと病院に行く決心をした。
「お医者さんはなんて?」
倫子は心配そうに尋ねた。私は首を振る。
痣は治りにくくなり、私の全身を侵食していく。いつか見たバナナのように、私もどんどん変色していく。
「もう私、誰にも会いたくない。こんなの、みんな気味悪がるよ。……視線がとても怖いの」
一体どうしてこんなことになったのだろう。嘘でも病気だと診断された方が気が楽だ。
「かわいそうに」
倫子は優しく私を抱きしめる。そしてココアを入れてくれる。私は彼女に気づかれない所でそれを嘔吐した。医者に言われたことを、確かめなければならない。
深夜、寝たふりをしていると倫子がやって来た。そしていきなり、寝ている私を殴打した。
これがバナナの祟りなら、私はもう二度とバナナを買わない。