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30 minutes  作者: 緋絽
8/11

油断


夕です。

がんばります。


配られたプリントに、無言でシャーペンを走らせる。

残り時間は10分。

―――あーあ、よくやるよ。オレには暗号にしか見えないね。

―――うるさい。

今は四時間目。世界史の小テスト中だ。

世界史も数学の公式と同じで、暗記さえしておけば解けるから好きだ。

―――クソ大地なら楽勝だろ。どうせまた満点。

―――それ褒めてるの?貶してるの?

―――褒めてんの!

空は勉強は専門外らしい。

俺がテストをしているときは、騒いでちょっかいをかけてくるだけ。

まあ。空に教えてもらうという、俺にしか出来ないカンニングとかは全くする気はないですが。

―――カンニングはやめとけ。良いことにならねぇぞ。

にやにやしてる空が見えた気がした。

ていうか、また勝手に。

―――しないって。どうせ空に聞いても分からないだろうし。

―――なんだとぉ!?

「原田」

空の声が大音量で響いた。顔をしかめて耳を塞いで…も意味ないんだよな。

「原田?」

肩を叩かれて、ハッと顔をあげた。

世界史の先生が眉間に皺の状態で俺を見ていた。

もしかして無視した感じになったのでしょうか。

先生は訝しげに顔を覗きこんでくる。

空がうるさくてとか言っても伝わらないからなぁ。

「まだ問題が残っているじゃないか」

どうした、ぼーっとして。そう言って先生は俺の机に消しゴムを置く。

「落としてましたか」

「ああ」

ありがとうございます。

言おうとして気づいた。

―――9…10

空が呆れた声でカウントしていた。





おい待て、こら。

―――授業中に替わったことなんかねぇぞ馬鹿大地!!

しかも目の前におっさん!

―――うっかりしてたんだよ!誰にでもあるだろ!

―――ねぇよ!

少なくとも10秒で人格が入れ替わることはないと思う。

頭の中のクソ大地と言い争っている間におっさんは行ってしまった。

状況を整理しようと、とりあえず机の上を見る。

……世界史の小テストとシャーペン。

―――オレにやれってか!?

できるわけねぇだろ!

言ってしまうと、オレの特技って喧嘩ぐらいだぜ!?

―――でもやってもらわないと!あーあー…後5分もない…。

なんでも、この小テストは次のでっかいテストの平常点ってやつになるわけで、満点狙いの大地にとっては絶対に落とせないらしい。

―――一旦、落ち着こうか。俺が答え言うから、空はそのまま書いて。

―――お、おう。

慣れない机について、慣れないシャーペンを握る。

プリントに残っている問題はあと2問。

大地が書いた答えを見て、思った。

これ、急に字が変わったらまずいだろ。

でもどうにかやるしかない。大地は後で30分ぎりぎりで何かしてやる。

―――えーと。上の方は、オリュンポス山って書いて。

―――………………は?

―――いや、は?じゃなくてオリュンポス。

―――…おりゅ……何?

―――オリュンポス山。

とりあえず言われた通り書く。

なんだこれ?

おりゅんぽすさん、ってことは人の名前か?何か長ぇけど。

―――平仮名じゃなくて片仮名!

―――あ?外人か?

時計を見ると残り1分ほどになっていた。

大地が焦っているのがわかる。

―――山だから!それ人名じゃなくて山の名前!

―――ああ、富士山みたいなやつか。

早く言えよな。

おっさんが置いていった消しゴムをとって、勢いよく“おりゅんぽすさん”を消す。

そして今度こそ“オリュンポス山”と書いた。

―――次は?

―――次は…

「はい終了」

―――…え?

―――あ。

「後ろから重ねて集めろー」

―――あー…大地。今回は謝るわ。悪かった。


大地のすげぇ切ない悲鳴が聞こえた気がした。







「で、まだ拗ねてるわけだ」

「そうゆうこと」

昼休み。

大地のエビフライをくわえて言った。

四時間目が終わってすぐ教室を出てきたおかげで、まだ30分になっていない。だからオレが今日の飯当番。

「で。どういう風の吹き回しなわけ?」

「なにが」

お、これウマいな。

「急に屋上で弁当食べようとか。僕はどこでもいいけどさ」

頭の中でクソ大地を呼ぶ。

―――……………。

また無視かよ。

あの最後の問題のことでまだ怒ってんのか、大地は授業が終ってから、「今日は屋上」以来一度も口を利こうとしない。

不機嫌は漏れまくりだけどな。

「だぶん今崎さんに会う気分じゃないとか、そんなんだろうね」

―――……!

「図星だぜ」

―――なんでそんなに鋭いんだよ…。

「お!大地復活した!」

苛ついた声で何かブツブツ言っている。

大地に戻るまであと10分ほど。

もっも弁当を堪能しとかねぇと。

と、ご飯を箸で掴もうとした、その時。気づいた。

「……―――――っ!?」

白ご飯の上の黒い。

「ギャアアアアア―――ッ!!?」

掴んでいた弁当箱を思いっきり投げ飛ばした。

―――俺の弁当!!

屋上にぶちまけた弁当の中から、羽のある黒い虫が飛び立っていった。

「め、めめめ、飯に! 飯に、むむむ……!!」

―――ちょ、俺の弁当が!

「知らねぇよ!!あたしの飯に…ム、虫が!!」

「あ。空、一人称“あたし”に戻ってるよ」

カナが何か言ってるけど知ったこっちゃねぇ!

こっちは危うく虫食うところだったんだ。

「想像したら気持ち悪くなって来たじゃねぇか!大地!お前のせいだ!お前が屋上で弁当とか言い出したからだ!そのせいであたしはッ!あたしはなぁ…!!」

そうだ大地が悪い。

弁当は食べれなくなるし、逆に虫食いそうになるし、そもそもテスト受ける羽目になったし!

無償にイライラしてきて、声に出す必要がないことまで大声でわめき散らした。

だから。



そのせいで、屋上の扉を開けてぽかんと立っている、あいつに気づかなかったのだ。




あと2話で完結ということで、

夕の出番はここでおしまいです。


ありがとうございました。

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