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30 minutes  作者: 緋絽
7/11

変心

どうも、お久しぶりです!緋絽です!

「大地さーん!」

───ゲッ。

───おぉ来たな。もう日常になってねーか?

今崎さんと出会って数ヶ月。毎日昼休みの時間に現れては一緒に昼食を食べていくようになった。

未だに、友達はできてないんだろうか。

───あ、大地。そろそろまた言うんじゃねーか?

───あっ、やばっ!

身構える間もなく走ってきたそのままのスピードで、座っている俺に飛びついてきた。

「わぁっ」

あまりの勢いに椅子に座った状態で後ろに倒れそうになる。

「わーお熱烈」

奏が無表情のまま携帯を閉じた。

「大地さん、好きですっ! 付き合ってください!」

「む、むむむ無理ですっ」

ギュウギュウと頭を抱きしめられて、慌てて腕を掴んで離れる。

───なんだよ、ヘタレ。一生に一回あるかないかの好機だろうが。付き合ってやれよ。

───バカ言うなよ! そんなことできるわけないだろ!

熱くなった顔をさすって弁当を鞄から出す。

その間に今崎さんが俺の隣に陣取った。

ちなみにクラスの人達は、初めこそ「あのガリ勉の原田に言い寄る女がいるぞ」とザワザワしていたのだが、今では完全に日常茶飯事になってしまったので慣れている。つまり、見事なスルーだ。

「……………あの」

「はい?」

満面の笑みの今崎さんと目を合わさないように逸らしながらいつものように言う。

「近いです」

それはもう。体の片側がべったりひっつくくらいには近い。

俺の言葉にまたまたいつものように今崎さんがニッコリ笑って返した。

「気のせいですよ」

……………そうですか。

───リコもなかなかやるようになったな。遠慮がねぇ。

───俺は恐ろしくて仕方ないんだけど。

「こんにちわ、今崎さん」

「こんにちわ立松先輩! 今日も機械いじってますか?」

「うん、いじってるよ。不思議な挨拶どうもありがと」

奏が今崎さんと普通に話している。

俺はその隙に椅子を離した。

───ヘタレめ。

───ヘタレ関係なくないか!?

仕方ないから弁当をぱくつく。

それを今崎さんがじっと見つめてきた。

ちなみに俺の弁当の大きさは男子でいう普通の大きさだ。でも、女子にとってはかなり大きいようで。

ほう、と感嘆したような息を吐いて今崎さんが机に肘をついた。

「大地さん、かっこいい…」

えぇ!? どこが!?

あまりの飛躍に口の中のものを吹き出しそうになる。

咽せながら今崎さんを見ると頬を染めて目をきらきらさせていた。

「ゲホッ、あ、のっ、何故」

「一見インドア派に見えるし、華奢なのに、食べる量は多いんですね! 草食系に見えるのにって、ギャップに惹かれます!」

思ったことを口に出すってこういうことか!

「あ、ありがとう、ございます」

「いえ。大地さん、素敵です。喧嘩も強いし、ギャップが盛りだくさんですね!」

いつの間にか両手を握られていた。

グイグイ今崎さんが迫ってくる。

「私は時々クールになる眼鏡を外した大地さんも好きです。というか、初めはそこに惹かれたんですけど」

近い近い近い近い!助けて!

目を逸らせない勢いだ。

このままじゃカウントが始まってまた空と入れ替わってしまう。

───いいぞーそのまま見つめ合っとけ。10秒、10秒っ!

───やめろよ! 変わる気なんかないからな! 学校で変わったってお前ができることなんかほとんどないんだし!

───おうよ。授業なんかサボタージュしてやるぜ。

「か、奏」

助けを求めると、一つ溜息を吐いて俺達の間に入ってくれた。

「何ですか立松先輩。邪魔ですよ」

少し不機嫌な顔になって今崎さんが言う。

「大地はそんなに迫られるとドンドン引いていくよ。追いかけさせなきゃ」

奏さん!? 何言ってるんだ!

「そうなんですか! やだ、私追いかけさせてみます! それじゃ、大地さん、これで今日は失礼します! また帰りに!」

そう言って自分の荷物を持って慌ただしく教室を出ていった。

俺は制止すべきか否かわからないまま中途半端に伸ばした手をひっこめる。

「…………奏」

「ん?」

「俺は追いかけるべきなのかな」

「今はいいんじゃない、追いかけなくて」

今はってことはいつか追いかけなきゃいけないんだろうか。

俺は深く溜息を吐いて椅子にもたれ込んだ。

「あぁ…今日も一緒に帰るのか…。一難去ってまた一難だ…」

「いいじゃん。女の子と帰れるなんて、男からしたら涎ものだよ」

「奏もそう思うのか?」

「大地は困ってるみたいだけど、空はどうなの?」

俺の言葉を無視して奏がそう言った。

くそう。流すつもりだな!

───オレは別に困ってない。女だから至近距離でも全然平気だし。欲情もしねーし。

「ばっ」

バカと叫びそうになって慌てて口を抑える。

「また変なこと言ったの?」

「………………オレは困ってないって」

「あぁ女の子だもんね。至近距離でも全然平気か」

なんでわかるの!?

「そ、そう」

───流石カナだな。機械オタクなだけある。

「オタクじゃないからって空に言っといて」

「だからなんでわかるの!?」

「ま、そういうことじゃなくて。多分、こんなに女の子と話したのって2人共初めてなんじゃないの?」

奏にそう言われてハッとした。

た、確かに。

「大地は精神的に男だからいいけど、……僕は空に女の子の友達が必要なんじゃないかって思う」

その言葉に。

つい奏を凝視した。

頭の中で珍しく空が絶句している。

───なんで…。

小さな声でそんな言葉が聞こえた。

「え?」

───あ? うるせーな、なんも言ってねーよ。

でも、今。

ハッとする。

もしかして、初めて空の意識の遮断が無防備になって、空の考えていることが聞こえたのかも。

つまり、それくらい、動揺したってこと?

「空…」

───なんだよ。別にいーよ。女子の友達なんかいらねー。面倒なことになったら困るしな。

無理してるのが丸分かりの声だ。

空に表情があったら騙されてたかもしれないが、あいにく俺と空の顔は同じだし、入れ替わってても見えない。だから、俺は空の嘘に騙されない。

パコッと音を立てて奏が携帯を開いた。

「誰かに連絡でも?」

「ううん、これは携帯型追跡器」

───は?

頭の中で空が素っ頓狂な声を出した。

「で、これが発信器」

ブレスレット型のものを取り出す。

「奏…またいじったの?」

奏は機械オタク…じゃなくて機械いじりを趣味にしてるだけあって

「あげる。これを使えば今崎さんが半径20メートルに入ったらこの携帯型追跡器がバイブしてわかる。行動パターンを変えれば、かなり今崎さんと接触する確率は減ると思うよ」

手の平に奏が機械を置いた。

「今日の帰りにでも渡しなよ。使うならね」

なんとなく、手の平の物に緩く握り締めた。



帰り道。

「大地さん、私、今日の体育でシュートきめたんですよ! 誉めてください!」

「あ、はい。すごいですね」

ポケットの中のブレスレット型追跡器を握りしめる。

少し後ろを歩いている奏が恨めしい。

別に、今崎さんのことが嫌いなわけじゃない。ただ、大勢がいる場で大きな声で愛を叫ばれるのに困ってるだけで。そして唐突に俺の生活に入り込んできて戸惑ってるだけで。抱きつかれるのに困ってるだけで。

「……………」

ふと、足を止める。

───大地?

恐る恐ると空が声を掛けてきた。

「今崎さん」

「はい?」

今崎さんが振り返る。

俺は、ポケットの中の物を握り締めた。

「あの」

今崎さんの目を見つめた。

「すみませんが、俺の目を10秒見てもらえますか」

「え?」

───おい? 大地?

今崎さんを見つめていると、次第に向こうが照れてきて目が逸れそうになる。

「待って、逸らさないで!」

今崎さんの頬を両手で抑えた。

5、6…

今崎さんが息を呑む。

「だ、大地さ…」

7、8…

朱くなった頬に必死な僕は気づかない。

だから、顔が近づいてることにも。

9、10。



危うくキスしそうになっていたリコの顔をオレは寸でのところで抑えた。

───おいこら大地!

怒鳴ったが返事がない。

無視を決め込むつもりのようだ。

「おいこら。リコ」

未だにキスをしようとしているので、俺の手の平に唇が当たっている。

「え? あ、わあっ」

顔を朱くしてリコが飛び退く。

───クソ大地。余計なことしやがって。

「ほら行くぞ。ちゃっちゃか歩け」

後頭部を軽く叩いて歩き出す。

「…………クールな大地さんだ。…かっこいい…」

リコが嬉しそうにはにかんだ。

悪いな。ちょっと前までなら、俺が表の間は相手してやっても良かったんだけどな。

オレは振り返って笑った。きっと、オレもはにかんだ顔になってる。

「バーカ。オレはいつでもかっこいいだろ」

───オレとリコは友達らしいから、さ。

頭の中で大地がクスッと笑った。

おい、お前後で覚悟しとけよ。ヘタレの癖に生意気なんだよ。



リコと別れた後でカナが隣に立った。

「大地に聞いてくれる?あれ、いるかって」

頭の中で大地がボソッと返した。

オレは思わず噴き出す。

「なんだって?」



「───返す! ってよ」



照れ隠しに不機嫌になってるのが丸分かりで、ちょっと面白かった。


次は、夕さん!

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