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30 minutes  作者: 緋絽
4/11

秀才

おひさしぶりです、緋絽と申します!

よろしくどうぞー!!


教室に入って席に鞄を置く。

やっと一息つけた。

鼻で溜息を吐いて椅子を引いて座る。

にしても、今崎さん、何故あんなにも俺につきまとってくるんだろう?

───正確には、オレに、だけどな。

───勝手に覗くなって言っただろ!

───知るか、ダダ漏れなんだアホが。見られたくなかったらキチンとそう意識しときゃいいだろ。それとも不器用だからできねーのか。

くっそ相変わらず口悪いなぁ!

反論しようとして本鈴のチャイムが鳴る。

渋々口を閉じ一限目の準備をした。

数学だ。

始まってすぐ空が居眠りを始めたのがわかった。

なんとなく、感覚で眠っているのがわかる。

「じゃあ、これは発展問題だからなー。1年半年後のセンターの問題にもなる可能性あるからなー」

先生の言葉にみんな体を縮み込ませる。

そこでようやく、俺はみんなが当てられたくない問題をしているのだと気づいた。

え、何故でしょう。次の予習してて話聞いてなかった。

先生とばっちり目が合う。

あ。

ついいつもの癖で目を逸らしてしまった。10秒も普通は目合わないけど、もう反射というかなんというか。

「じゃあ、原田」

うわ、やっぱり当たった。

みんながホッと体を弛ませる。

何でしょう、この、「原田ならいいや」みたいな雰囲気は。

眼鏡を押さえてやや俯きがちに先生の顔を窺う。

そうですか、やはり気は変わりませんか。

喉元まで出掛かった溜息を飲み下して黒板まで歩いていく。

チョークを持って黒板に書かれた問題を読む。

「これは教科書載ってない問題だからな。ノート見ても解いてないはずだ」

じゃあ出さないでください。

なんだ、三角関数か。

チョークで解答を書いていく。

数学は全て基本を応用すれば解けるのがいい所だ。捻ってある問題を解くのも、考えてる時間が好き。解けたら尚良し。

英語や国語は応用が利かないから苦手だ。同じ内容の問題出ないし。

書き終わって先生を見る。

「……………出来てますか?」

「……あぁ。完璧だ!」

ふぅと溜息を吐いて席に帰る。

「流石原田、学年一位は違うな!」

学年一位って言っても2年の最初の中間テストが終わっただけなんですが。

苦笑いして返しておく。

───よく解けたな、今の問題。

珍しく感心したような声を出した空に返す。

───いつのまに起きてたの?

───さっき。おっさんにお前が当てられたとき、悲鳴みたいなの聞こえて目ぇ覚めた。指名されたぐらいで悲鳴あげんな。響くんだよ!

───あげてるつもりはないんだよ!…さっきの話だけど。応用するだけだよ。まだ研究過程に入ってないから出来るだけだと思うけど。

───それ、試しに隣に座ってる奴に言ってみな。

───何で?

───嫌な奴って思われるぜ。

ククッと笑う空の台詞を聞き、思わず予習の手を止めて空を見る。というか、見てるつもりになる。

そうなのか。

空といると、ちょくちょく喧嘩するけれど。というか、喧嘩しかしないけれど。

こういうの、俺はわからないから空がいることは、その辺ではみんなより得してるんだろう。時々、ありがたい。

なんて思ったりもする。

───気色悪いこと考えてんじゃねーよ。

空のバカにしたような声に、ムカッときた。

訂正しましょう。やっぱり、得じゃないかもしれない!



放課後になって俺は、大変困っている。具体的にどのくらい困ってるかと言うと、カップ焼きそばを作ろうとして、お湯を切る前にソースと青海苔を入れてしまった時ぐらい困っている。

一階の昇降口に出る階段を降りている時にその存在に気づき、慌てて踊場に隠れている状態です。

───なあっ!!

空の言葉に聞こえないふりを通す。

───なぁって!

どうしよう。なんであの子、ここにいるんだ。早く帰ってくれないでしょうか。切実に、それを願います。

今崎さんが、俺のいる方に背を向けて学校の外を見ながら立っていた。

もう、手汗が半端じゃない。

無視し続ける俺に空がキレた。

───なぁっつってんだろーが!!

あまりにも大きな声に体が飛び跳ねた。頭の中でそれだけが木霊する。

───うるさいな!叫ぶなよ!

───シカトこいてるお前がわりーんだろ!!こんなとこでコソコソしてねぇでさっさと帰ろーぜっつってんだ!

───無理だよ!今出ていったら、朝あんなに頑張って隠し通した学年組出席番号がバレちゃうよ!

それだけは死守しないと!

何故バレるかというと、靴箱に学年も組も出席番号も書かれているからだ。

そこにノコノコと出て行ったら、まず間違いなくそれらは彼女に知られる所となるだろう。

───別にいいじゃん。隠す意味がわかんねー。

───良くない。なんか、よくわからないけど、…………知られたら凄い迷惑被りそうな予感がするんだよね。

それもかなり酷めな迷惑を。

───じゃあリコが帰るまでここでこうしてんのか?そんなわけねーよな!

うっとたじろぐ。

た、確かにこのままじゃいられない。

明日は予習が必要な科目が多い日なのだ。だから、いつも早めに帰っているというのに。

───なぁー帰ろうぜー!

───う…わ、わかったよ…。

そろそろと歩き出し、普通に2年1組に辿り着く。

男子から数えた出席番号の19番の靴箱を開けてスニーカーを履いた。

後は、今崎さんが気づかないことを祈るのみ。

息を殺して、今崎さんから最も離れた扉から出る。

頼む!気付くな!

しかし、天地の神は無慈悲だった。

「───大地さん」

今崎さんのよく通る声が俺の背を追いかける。

あぁ、捕まった。

振り返って笑顔を意識して貼り付ける。

「どうも…」

今崎さんはチラッと俺の出てきた扉に目をやって、また俺に戻した。

「2年生だったんですね」

膝をつきたい。

バレてる!

「あ、いえ、はい……」

ウフッと今崎さんが嬉しそうに笑う。

「やった、大地さんのこと新しく知れました」

その笑顔に一瞬見惚れて我に返った。

あ、危ない。

「あの…今崎さんは何故ここに?」

すると、今崎さんは照れたように笑った。

「あの…大地さんを待っていたんです。一緒帰ってもいいですか?」

なんですって!?

あまりにも驚いて返事をすることを忘れていた。

───おいヘタレ!なんか返してやれよ!

その言葉に我に返って、慌てて曖昧に笑う。

「あ、あぁ、はい」

あぁぁああ『はい』って言っちゃったー!

い、言ってしまったことは取り消せない。

「か、帰りましょうか」

「はい!」

並んで帰ると、やはり目立つ。

多分、……カップルに見えるんだろうなぁ。

溜息を吐きかけて飲み込んだ。

校舎を出てしばらく歩くと住宅街に入る。

「あの…そういえば」

沈黙に耐えかねてついに俺の方が口を開いた。

一度も、見ないんだけれど。

「今崎さんは、お友達と帰らないんですか?」

俺の台詞に今崎さんの鞄を握る指が強張る。

え!?な、なんかまずったかな!?

───バカ大地!直球すぎなんだよ!

───えぇ!?ただ聞いただけじゃん!

少しの間俯いていた今崎さんが顔を上げて恥ずかしそうに笑う。

「友達、いないんですよね。学校に行けば話すくらいの人はいるんですが。………私、思ったことをその場で言ってしまうんですよ」

はあ。別に悪いことではないと思いますけど。

訝しく思って今崎さんを見ると、また弱々しく笑った。

「それが、良いことだけを言うなら良かったんです」

……………あぁ、なるほど。

「そりゃあ、包み隠さず物を言われたら腹が立ちますよね。私、すぐに人を怒らせてしまって」

それでまだ友達を作れてないんです、と自嘲するような声が聞こえた。

確かに、俺にというか空に直球で告白してきた子だからなぁ。考えるよりも先に脊髄で行動してしまう人の典型だろう。

要は、あれだ。

「つまり、今崎さんは素直なんですね」

何とはなしに言ったことに今崎さんが目を見張る。

え、何。

───ここだ、大地!今珍しく良いこと言った、ヘタレの癖に!

───ヘタレの癖にってなんだよ!

───うっせーな、いいからほら、抱きしめる!

───は!?

───一生に一度巡ってくるか来ないかのチャンスだ。お前に一瞬でも靡いてしまった奇特な奴が目の前に!今の内に青春しとけ。

───俺の青春短いな!

そこでふと袖を掴まれていることに気づいた。

頬を染め、目を逸らすことは許さないとばかりに覗き込んでくる。

って、近い、近い近い近い。


1、2…


「あ、あの」

「ほんとに、そう思ってくれますか!?」


3、4…


「え、あ、はい…っ」

離れようとする俺の両の二の腕を掴み引っ張るので体が前屈みになる。

君は、口が滑ってしまうことよりもこういうのを直した方がいいんじゃないでしょうか!


7、8…


あ。

意識が沈んでいくのがわかる。

しまった!10秒…っ!!


10。



オレは目の前のリコの顎を掴んでやや強引に上を向かせた。

「きゃっ」

「危機感なしか。この距離まで迫るって貞操まる無視だな」

リコが上目遣いでオレを見る。

「大地さん…」

物欲しそうに目を閉じたリコをシゲシゲと眺めた。

オレ、女だから手だそうとか思わないんだけど。こいつ、結構変態だよな。

───ちょっと、空!!

───んだようるせーな。今回のはお前が目を逸らさなかったのがわりーんだからな。

舌打ちしてリコから手を離す。

まぁいい。久しぶりの表だ。

不満げなリコの額を弾いて眼鏡を取る。

「大地さん?」

「リコ、ちょっと付き合えよ」

「えっ、彼女にしてもらえるんですね!?やったぁ!!」

「ちげーよ、バーカ」

市街地を指差してニヤリと笑う。

「ゲーセン、付き合え」

オレの言葉にリコは目を瞬かせ、すぐに頷いた。

ちょっとは元気になるだろ。




───有り金いくらだ?

───全部使う気だな!?


次は夕さん!

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