誤解
新作を書くのって楽しいですね。
いつも期限を守るとか言って結局守れない、夕です。
「だってオレ、女だし」
その女の子がぽかんと固まった。
―――そ、空!なに言っちゃってるの!
―――だって事実じゃん。
大地が慌ててるがそんなの気にしない。
オレ、原田空は女。で、ヘタレ大地が男。
オレ達は物心ついたときから高2の今までずっとこうだった。
別に疑問を持ったことはない。
むしろなんでオレが裏なのかのほうが疑問だ。
「カナ、行くぞ」
珍しく戸惑っているカナを引っ張って歩き出した。
あ、やべぇ、あと10分ねぇし。
早くやりたいことやっとかねぇと強制的に大地と入れ替わる。
「…空、よかったの?あの子、唯高の制服着てたけど。学校で会うよ?きっと」
「いーのいーの!普段は大地だし」
―――人に押し付けるな!
さて、何をしようか。
と、角を曲がろうとしたその時。
「待ってくださいっ!」
「あ?」「あ」
肩越しに振り向くと、あの女の子がどたどたとでっかい足音立てて追いかけてきていた。
中で大地が変な声を出した。
「何?オレは女だから無理って言ったじゃん」
「私、今崎 理子っていいます。名前教えてください!」
荒い息をしながら言って笑う。
「原田そ…」
―――大地!
「…大地」
「大地さん、好きです!」
隣でカナがでかい溜め息をついた。
「だーかーらぁー…」
なんなんだよ、こいつ。
オレは女って言ってんのに。そういう趣味があるわけでもなかろうし。
「たとえ大地さんの心が乙女だったとしても」
「乙女ってなんだ!事実だ!」
なんか調子狂うよな。
それに、とやつは目を輝かせて続ける。
「私、強い人大好きです。私を助けてくれた時の大地さんかっこよかったです」
「……………」
頭を掻いていた手を止める。
強い、か。
―――まんざらでもない、みたいな顔するな!
―――うっせ、黙れ。
たしかに喧嘩は嫌いじゃない。
「リコだっけ?」
「は、はいっ!」
名前を呼ぶとリコは満面の笑みをオレに向けた。
中の大地は何やら騒いでいるが無視する。
「よし、リコ。オレお前のこと………って、おお?」
だんだん体が重くなってくる。
「チッ」
カナが手を振っているのに気づき舌打ちをしたところで視界が暗くなって、オレは意識を手放した。
まだ何にもしてねぇのに。
「大地さん?」
ようやく表に戻ってこれて、最初に見たのは俺の顔を覗き込む今崎さん。
「わっ」
―――タイミング悪ぃんだよ、クソ大地。まだ何にもしてねぇよ!
ふて腐れた空の声が中で響く。
「あの…どうかしましたか?」
「え、いや、なんでもないです…」
なんで今替わっちゃうの!
いつもなら早く替われと思うのに、今回ばかりは30分のリミットを呪った。
「大地さん、何か言いかけてましたよね?」
俺じゃない、空がだ。
と言いたいけれど、このおかしな体質のことを人に知られるわけにはいかない。
―――大地代わりに言ってくれよ。
―――言わないよ!
「オレお前のこと…って」
期待を込めた目で見ないでください。
俺は別人なんです、って言っても信じてくれませんよねー…そうですよねー…。
「すみません、またの機会ということで…」
くるりと背を向けて歩き出した。
「あの!」
思った通り呼び止められる。
「はい、なんでしょう…」
「わかりました、待ちます。楽しみはとっておいたほうがいいですよね!明日学校で会いましょう」
そして今崎さんはぺこっとお辞儀をすると足取り軽やかに去っていった。
「…台風みたいな子だね」
ずっと黙りっぱなしだった奏がボソッと呟く。
―――こんのクソ大地ぃ!!
―――わっ、うるさいよ空。どうしたの。
―――替わりに言えって言っただろ!
「空、怒ってるね」
なぜわかるのか奏がまた言い当てる。
―――今日会ったばかりの知らない人に好きだなんて言えないだろ。
俺は空とは違って常識人なんだから。
ちなみに俺と空が話しているの内容は声に出してはいない。
その間俺は無言なわけだが、奏はまったく気にしていないらしく、大あくびしている。
―――とにかく俺はあの子と付き合う気なんて…
―――何言ってんの、お前は。
―――は?
―――オレはリコのこと好きだとかそんなの言うつもりなかったし。
―――はぁ!?
あの流れはどう考えても、オレお前のこと好き、な流れだろ!
「じゃあ俺は今崎さんに変な期待させただけじゃないか!」
思わず声に出して叫んだ。
―――気に入ったって言おうとしただけだぜ?
「馬鹿!空の馬鹿!」
―――誰がバカだ!ちょ、お前もう一回替われ!30分ギリギリで川に落ちてやる!
―――と、まぁ、こんな感じで俺と今崎理子さん、ついでに空、は出会ってしまったのです。
リコちゃんです。
書いてて清々しいです。
では秋雨さんお願いします。