表裏
リレー小説隊、新作です!
初回は緋絽です!
「俺達と遊ぼーよー」
「こ、困ります」
「えー、なんで、いいじゃん」
唯野高校の裏門では、体格のいいいわゆる不良と呼ばれる男が3人、1人の女の子に絡んでいた。俗に言うナンパである。
俺はそれを見てそいつらに近づいた。
「君達」
声をかける。
「やめなさい。どう見たって嫌がってるでしょう」
不良達の目がこちらに向く。
頭の中の声が呆れたように溜息を吐いた。
見逃せるか、バカ。
「あぁ!?誰だてめぇ!」
「原田 大地です」
「原田 大地ぃ?知らねぇな」
ゲラゲラと下品な笑い声が響く。
「それにしても、女の子に無理を強いるなんて…。男の風上にも置けませんねー」
冷ややかな声を意識して煽る。
「んだと!やんのかコラ!」
俺は眼鏡を押さえた。
「そこの子、行ってください」
「は、はい。…ありがとう」
笑って女の子を見送る。女の子が行ったのを確認してから俺は不良に向き直った。
「───上等じゃないですか。どこからでもかかってきなさい」
頭の中の声がやめとけと笑う。
数秒後、俺はボッコボコにされていた。
「なんだこいつ!よえー!」
「わぁっ」
背を蹴られる。
い、痛い。でも、あれを見捨てるわけにはいかなかったし。
───大地、お前そんな正義に従って生きてたらいつか身を滅ぼすぞ。
───うるさいよ、バカ。
でも、こうなったら。
這いつくばっていた状態から体を起こす。
蹴ってきた人の方を向いてその人の腕を掴んだ。
───何、何何何!やんの!?
嬉しそうな声に噛みつくように言い返す。
───仕方ないだろ!調子にのるなよ!
「離せ!」
手を振り払われる。
咳払いをして相手に笑いかけた。
「すみませんけど俺の目を10秒見てもらえますか」
「は?」
一斉に不良達がポカンとする。
そりゃそうでしょうねぇ。俺でも突然こんなこと言われたらそうなりますもん。
「はいいーち」
そして律儀に見てくれる。
───来た来た来た!
「……6、7、8…」
頭の中であいつが狂喜している声が聞こえて、意識がどんどん沈んでいった。
「…9、10」
「…お、おい?10秒経ったぞ?」
不良達がオレ(・・)の顔を覗き込む。
オレは手を握ったり開いたりして体の感覚をつかんだ。そして、ようやく実感する。
「ひゃっはぁ!やっと表に出れたぜ!」
唐突にそう叫んだオレに不良達がビクッとなる。
でもオレはそこに頓着しない。
だって、今は最高に気分がいい。
例えリミットは30分でも表に出られるのは最高だ。
「よっしゃあ、どっか行こう!おいそこのデカブツ共」
オレは不良達に向かって追い払うような仕草をする。
「ご苦労だった、行ってよし」
「はぁっ!?」
満足気に歩き出したオレの肩を1人が掴んだ。
「おいコラ原田 大地!行かせるわけねぇだろ、てめぇふざけてんのか…っ」
振り返り様に顔面に拳を叩き込む。
「うぁっ…!」
眼鏡を取って放り投げる。
「ふざけてんのはてめぇだろーがデカブツ。誰がオレの肩触っていいって言ったよ」
───ちょっ、ちょっとっ!眼鏡!
───うっせぇヘタレ、黙ってろ!
「オレの行こうとする道を阻むやつは殺す。それからっ」
オレが1人伸したのを見て逆上した他の奴らが襲いかかってきた。
それを全部いなして反撃する。
その後数分経たずして全員が倒れた。
オレは前髪をかき上げ、握った拳の親指を立て下に向けた。
「オレは原田 大地じゃねぇ、原田 空だ!二度と間違えんな!」
ダウンしている不良達の間をまさぐって眼鏡を探す。
「お、あったあった」
───割れてないだろうね!?
「うるせーな、細けーこと気にしてんじゃねーよ」
───細かくないだろ!
チリッと頬が痛む。
「いてっ。クソ大地、思いっきり殴られやがって」
───しょ、しょうがないだろ!俺喧嘩なんかしたことないんだから!
───なら受けて立つなよヘタレ。やり返そうともしねーで、何生意気言ってんだ。
悔しそうに黙り込んだ大地にフンと鼻を鳴らして勝ち誇る。
その時───。
「またやったの?空」
「悪いか、機械オタク」
「オタクじゃないから、趣味だから」
真顔のまま静かにキレているカナ───立松 奏を見る。
「だって大地が代わってくれって言うからさー」
───言ってないっ!
「今大地、絶対言ってないって言ったでしょ」
「ご名答、よくわかったな」
「大地ならそう言うよ」
クククッと喉を震わせてカナに笑って見せた。
カナはオレと大地の幼なじみみたいなものだ。気が付いたら一つの体に2つの人格があったオレ達を初めからすんなりと受け入れていた。
だからか、オレと大地が入れ替わった瞬間ってのがわかるらしい。
なんでか聞いたら、雰囲気がまるで違うじゃん何言ってんのと真顔で返された。
「ま、いーけど。オレ、あと20分しかないから遊びに行きたいんだけど。カナも来いよ」
ずっと表に出ていられる大地と違ってオレは30分がリミットだ。それが過ぎたら強制的に表裏が入れ代わる。
「いーよ。暴れないでね、空」
「絡まれなかったらな」
───絡まれても避けてよ!?
───知るかバカ。
フンと笑って歩き出し───声を掛けられた。
「あのっ!!」
その声にカナと一緒に振り向く。
さっき伸した不良達に絡まれていた女子がそこに立っていた。
「あれ?あんたまだいたの」
頭の中の声も不思議そうにしている。
そう言ってる間に女子がズンズン近づいてきた。
「何?なんか用?」
頭をボリボリ掻いて女子を見た。
女子が緊張を紛らわすように深呼吸を数回繰り返す。
オレは首を傾げた。
「あ、あああああのっ」
「だから、何」
───なんだろう?
───さぁな。
「た、助けていただいてっ、ありがとうございました!」
「あぁ、いや別に…」
助けたつもりはないんだけど、オレは。
「すっごくかっこよかったです!」
───ん!?
───かっこよかった!?
「え?」
「すっ、好きになりました!」
くっとカナの目が開く。
「付き合ってください!」
恐らくものすっごく緊張しているであろう女子に、オレはへらっと笑いかけた。
「悪いけど、無理」
「え!」
女子が 泣きそうになる。
「だってオレ、女だし」
次は夕さん!