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追放されたオメガの食堂~嵐の夜に保護した銀狼の獣人王と幼いもふもふ孤児たちに手料理を振る舞ったら、溺愛されました~  作者: 水凪しおん


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第12話「森の祝福と小さな宴」

 空が茜色から深い藍色へと移り変わる頃、森の奥の小さな食堂は、かつてないほどの温かな光と匂いに包まれていた。

 暖炉の火はいつもより高く燃え上がり、パチパチと薪が爆ぜる快い音を立てている。

 リオンは朝から厨房に立ち続け、今日の特別な日のためにありったけの腕を振るっていた。

 使い込まれた広いテーブルの上には、子供たちが森から集めてきた赤や黄色の色鮮やかな落ち葉が、美しい模様を描くように敷き詰められている。

 その中央には、ガレルが昨日仕留めてきた大きな鳥肉の丸焼きが、黄金色の照りをつけて鎮座していた。

 表面には蜂蜜と香草を混ぜ合わせた特製のタレがたっぷりと塗られ、熱を持った皮が微かに弾けるたびに、甘く香ばしい脂の匂いが空気を震わせる。

 その周囲には、根菜を柔らかく煮込んだ濃厚なシチュー、表面がパリッと音を立てるほど見事に焼き上がった山盛りのパン、そして、森で採れた酸味のある果実をふんだんに使った色鮮やかなタルトが並べられていた。

 どの料理からも白い湯気が立ち上り、視覚と嗅覚の両方から容赦なく食欲を刺激してくる。

 ルカとミーナは、自分たちの定位置に座ったまま、テーブルの上のごちそうから一瞬たりとも目を離すことができない様子だ。

 ルカは喉の奥をゴクリと鳴らし、ミーナは短い尻尾をパタパタと振り続けている。

 厨房から最後の果実水を運んできたリオンは、そんな2人の様子を見て静かに微笑み、自分の席へと腰を下ろした。

 リオンの胸元には、数日前にガレルから贈られた青い花の首飾りが、誇らしげに揺れている。

 対面に座るガレルは、いつも着ている乱雑な服ではなく、リオンが丁寧に洗濯して糊を利かせた清潔な白い麻の服を身にまとっていた。

 その整えられた姿は、彼が本来持っている王としての威厳をさらに引き立てているように見える。

 しかし、リオンを見つめる金色の瞳に宿っているのは、威圧感ではなく、底なしに深い優しさと愛情だけだった。


「……皆、揃ったな」


 ガレルの低く響く声が、食堂の少し浮き足立った空気を静かに引き締める。

 彼は木製の大きな杯を手に取り、ゆっくりと立ち上がった。


「俺は、長い間、ただ力だけで国を治め、孤独の中にいた。この子供たちを引き取った時も、どう守り、どう愛せばいいのか分からなかった」


 ガレルの視線が、ルカとミーナ、そしてリオンの顔を順番にゆっくりと巡っていく。


「だが、嵐の夜にこの場所にたどり着き、リオンの作る温かい食事に触れた時、俺の探していたものがここにあると確信した。俺の冷え切っていた心を溶かし、帰るべき場所を与えてくれたのは、他でもないリオン、お前だ」


 ガレルの言葉は飾り気がなく、だからこそ、魂の底から絞り出されたような強い真実味を持っていた。

 リオンの胸の奥が熱くなり、視界の輪郭が涙でわずかに歪む。


「今日、このささやかな宴をもって、俺はリオンを生涯の伴侶とし、この4人で本当の家族となることを誓う」


 ガレルが杯を高く掲げると、ルカとミーナも慌てて自分の小さな木のコップを両手で持ち上げた。

 リオンも震える手で杯を持ち、立ち上がる。

 4つの木製の器がテーブルの中央で触れ合い、コトンという素朴で温かい音が食堂に響き渡った。


「いただきます」


 ルカの元気な声を合図に、静かだった食卓が一気に賑やかな宴へと変わる。

 ガレルが大きなナイフで鳥肉を切り分けると、中から肉汁が溢れ出し、白い湯気とともに香草の匂いが爆発するように広がった。

 ルカは骨付きの大きな肉にかぶりつき、顔中を脂だらけにしながら夢中で食らいついている。

 ミーナは自分の皿に盛られたシチューとパンを交互に口に運び、頬を極限まで膨らませて幸せそうに目を細めている。

 リオンは自分の作った料理が、大切な家族の血肉となり、笑顔を作っていく様子をただ見つめているだけで、胸がいっぱいになっていた。

 ガレルは肉を口に運びながら、時折リオンの方を見ては、満足げに深く頷いている。

 食事の音が絶えず響き、果実水を飲むたびに爽やかな酸味が喉を潤す。

 誰も身分や種族の違いなど気にしない、ただ互いの存在を喜び合うだけの、世界で一番温かく幸福な食卓がそこにあった。

 全ての皿が空になり、子供たちが満腹になって長椅子で眠りについた後、リオンとガレルは暖炉の前に並んで座った。

 ガレルの太い腕がリオンの肩を抱き寄せ、リオンはその分厚い胸板にゆっくりと頭を預ける。

 ガレルの安定した心音と、薪がはぜる音だけが、静寂の空間に心地よいリズムを刻んでいる。


「……美味しい料理を、ありがとう」


 ガレルがリオンの頭頂部に軽く唇を落とし、低い声でつぶやく。


「これからも、毎日作ります。あなたと、子供たちが帰ってくるこの場所で」


 リオンが目を閉じながら答えると、ガレルの腕にさらに強い力がこもった。

 外の森には冷たい夜風が吹いているはずだが、この小さな食堂の中だけは、永遠に冷めることのない確かな温もりに満ち溢れていた。

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