エビローグ
さらりとして、身が締まるようなぬるま湯に全身を沈める。
はじめは思わず顔をしかめた刺々しい酢の香りにもすっかり慣れた。
静かに湯から上がると、板前たちが全身に砂糖を塗りこめていく。
濡れた肌をすべる指先に少しくすぐったさが呼び起こされたが、ぐっと唇をつぐんでやり過ごす。
「ギン、お前、少し痩せたか?」
花板が案ずるように言った。
ここ最近気をもむような出来事が続いたせいだろうか、言われてみれば少し腕が細くなったかもしれない。
「大丈夫か? 無理すんなよ」
「ありがとう、平気よ」
心配そうな花板に笑顔を返して前を向く。
そう、私は強くならなければ。
この先どんなことがあっても、ムラサキ殿下と共にこの小さな岸辺を支えていけるように。
酢と混ざり合った砂糖は肌の表面でゆっくりと溶けて、つやつやと丸みのある光沢を放ちはじめる。
あの日、心の奥底まで貫いた辛味を、生涯忘れることなんてできないんだろう。
でも、私の居場所、私の生きる場所はやはりここなのだ。
引き戸を開けると、ムラサキ殿下の姿があった。
蒸気に温められた肌は桜色に染まり、その身には朧をまとっている。
サイマキのころから知っている私が見ても、正装に身を包んだ殿下は息を呑むほど美しい。
「じゃあ、今日も始めようか」
私はゆっくり頷くと、広間の障子を開けた。
一点の曇りもない青空と、朝日に輝く海が視界いっぱいに広がった。
おしまい
最後まで読んで下さってありがとうございます。
好きな寿司ネタは鮪です。




