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8.ちいさな手と、はじめての料理

魔王城の中庭。


 いつもなら兵士の訓練に使われる場所に、

 今日は小さな机がいくつも並んでいた。


「……本当に、ここでやるのか?」


 ガルディスが周囲を見回す。


「はい。広くて、風も通って、危なくないですから」


 集まってきたのは、魔族と人間の子どもたち。


 最初は互いに距離を取って、

 ちらちらと相手を見ている。


「今日はね」


 私はしゃがんで、目線を合わせる。


「一緒に料理をします」


 ざわっと、空気が動いた。


「むずかしくない?」


「失敗したら怒られる?」


「包丁、こわい……」


「大丈夫」


 私は笑った。


「今日は“失敗してもいい日”です」


 ◆


 作るのは、簡単な炊き込みご飯と、野菜の汁物。


「まず、洗います」


 小さな手が、恐る恐る米に触れる。


「ぬるぬるする!」


「生きてるみたい!」


「優しく、ね」


 水を替えながら、

 白く濁っていく様子を見て、子どもたちは目を輝かせる。


「これが、きれいになるってこと」


 包丁は使わない。


 野菜は手で割く。

 きのこは裂く。

 危なくないやり方を選ぶ。


「こうやってね」


 最初はぎこちなくても、

 だんだん、笑顔が増えていく。


 ◆


 火にかけた鍋から、湯気が立つ。


「わぁ……」


「いいにおい」


《小さな成功体験》

《自己肯定感 上昇》

《恐怖耐性 微増》


 見えないけど、確かに育っていくもの。


 隣では、リュシアスが黙って見守っていた。


「……戦わせるより、難しいな」


「そうですね」


 ガルディスは、子どもに呼ばれて固まっている。


「ねえ、これでいい?」


「……ああ、上手だ」


 照れた声に、子どもが笑った。


 ◆


 できあがった料理を、みんなで囲む。


「いただきます!」


 元気な声が、城に響く。


「……おいしい」


「自分で作ったから?」


「うん!」


 王妃も、そっとその輪に加わる。


「こんなふうに、誰かと作るのは久しぶりです」


 子どもが、無邪気に聞いた。


「おばさ……おねえさんも、こわかった?」


 王妃は、少し考えてから微笑んだ。


「ええ。でも、今は平気よ」


 私は、その光景を静かに見ていた。


 ◆


 食べ終わった後。


 子どもたちは、自然に片づけを始めていた。


「次は、なに作るの?」


「また、来てくれる?」


 胸が、少しだけ温かくなる。


「もちろん」


 私は答える。


「料理はね」


 少しだけ、間を置く。


「生きる練習なんです」


 火を知って、

 水を知って、

 誰かと分けることを知る。


 争いより、ずっと先に覚えてほしいこと。


 中庭には、

 小さな笑い声と、

 空になった鍋と、

 優しい余韻が残っていた。

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