7.合同収穫祭と、世界最強の主食
魔王城と王城の中間にある、広い平原。
そこに今日、ありえない光景が広がっていた。
魔族と人間が、同じ鍋を囲んでいる。
「……誰がこんな日が来ると想像した?」
王が呆然と呟き、
魔王は静かに頷いた。
「合理的ではないが……悪くない」
――合同収穫祭。
食から始まった交流は、ついにここまで来た。
◆
問題は、主食だった。
パン用の穀物はある。
芋もある。
でも、**“みんなで食べる中心”**がない。
そこで私は、手を叩いた。
「お米、作りましょう」
「……米?」
全員が首を傾げる。
「私の故郷の主食です。
毎日食べても飽きなくて、
どんなおかずとも喧嘩しなくて、
しかも――」
私は力強く言った。
「最強の食べ物です」
◆
魔族側は、成長促進の魔法。
人間側は、水と土を整える魔法。
両方を組み合わせると――
不思議なくらい、稲はすくすく育った。
「……合理的だな」
「ですよね?」
収穫された白い粒を見て、
皆がざわつく。
「では、炊きます」
鍋に米と水。
火加減を調整し、
静かに待つ。
やがて、立ち上る湯気。
「……いい匂いだ」
ガルディスが腹を鳴らし、
リュシアスが無言で鍋を見つめる。
◆
収穫祭の料理は、全部ご飯に合うもの。
焼き魚。
香草と油で和えた野菜。
甘辛く煮た肉。
発酵もどきの調味。
「白い……だけ?」
誰かが恐る恐る言う。
「そうです」
私は笑った。
「でも、食べてみてください」
一口。
――次の瞬間。
「……!?」
《全体バフ発動》
《疲労回復(大)》
《精神安定(特)》
《魔力・体力 上昇》
どよめきが起きる。
「主張しすぎない……だが、全部を受け止めている」
「……戦闘前に、これを食べていたら」
「いや、戦う気がなくなるな」
魔王が、静かに言った。
「腹が満ちていると、人は優しくなる」
王妃が、その場に姿を現した。
以前の弱々しさはなく、
穏やかな笑みを浮かべている。
「本当に……美味しいですね」
王が、少しだけ照れたように笑う。
「……無理はするな」
「大丈夫です」
王妃は、湯気の立つ茶碗を両手で包んだ。
「生きている、って感じがします」
その言葉に、周囲が静かになる。
◆
歌があり、
笑い声があり、
おかわりの列ができる。
ガルディスは山盛り三杯目。
リュシアスは無言で四杯目。
「……最強ですね」
「でしょう?」
私は、少し誇らしかった。
「剣でも魔法でもなく、
毎日食べられるものが、世界を支えるんです」
魔王と王が、並んで頷く。
争いの長かった世界に、
今日、確かな実りがあった。
――白いご飯と、笑顔という名の。
次は、どんな献立にしようか。
私は、空になった鍋を見て、
静かに笑った。




