3.味覚が死んでる魔将軍に、甘いものを食べさせてみた
魔王城には、もう一人厄介そうな魔将軍がいる。
名前は――リュシアス。
銀髪、長身、切れ長の目。
表情は常に「感情という概念を忘れました」みたいな顔。
そして何より。
「……また、残してる」
彼の皿は、いつも半分以上手つかずだった。
「食べられないの?」
「食事は義務だ。嗜好は不要」
淡々とした返事。
あー……これは。
味覚、死んでるタイプだ。
私はにっこり笑った。
「なるほど。じゃあ“嗜好”を叩き起こしましょうか」
リュシアスは眉ひとつ動かさない。
「無駄だ。甘味も苦味も区別がつかない」
「へえ」
私は腕を組む。
「それ、料理人の前で言います?」
◆
問題は、甘味の素材だった。
砂糖がない。
蜂蜜もない。
果物は酸味一択。
……でも。
「冷やせば、印象は変わるんですよ」
「冷やす?」
私はリュシアスを見た。
「氷魔法、使えますよね?」
「使えるが……」
「じゃあ、冷蔵庫と冷凍庫、作ってください」
「……は?」
数分後。
魔王城の厨房の一角に、
氷魔法製・即席冷蔵庫(冷凍室付き)が完成した。
これ、革命です。
「いやー、保存できるって素晴らしいですね」
「……この箱は何だ」
「文明です」
◆
私は果実を煮詰め、
酸味を抑え、
冷やした。
凍らせすぎない。
舌に触れた瞬間、温度で“違い”を感じさせる。
即席ソルベ。
見た目は地味。
でも、狙いは完璧。
「どうぞ、魔将軍」
リュシアスは一口、口に運ぶ。
――数秒。
「……」
沈黙。
次の瞬間。
「……冷たい」
「ですよね」
「……口の中が……」
彼は、ゆっくり目を見開いた。
「……騒がしい」
《精神刺激》
《感情反応 微発生》
《忠誠度 上昇》
来た。
「それが“甘味”です」
「……これが」
彼は、もう一口食べた。
「……悪くない」
いや、それ最大級の賛辞だから。
私は心の中でガッツポーズした。
「保存もできるし、他にも作れますよ?
ケーキとか、プリンとか、アイスとか」
「……全部、必要だ」
即堕ちだった。
ガルディス(脳筋魔将軍)が横から割り込む。
「冷たいのはズルいだろう!」
「順番です」
厨房が、少しだけ騒がしくなる。
魔王城に、笑い声が増えていく。
リュシアスは空になった器を見つめ、ぽつりと言った。
「……食事が、楽しみになるとは思わなかった」
私は笑った。
「ようこそ。沼へ」
――次は、何を作ろうか。
スイーツは、まだ始まったばかりだ。




