28.静かに伸びる影
夜。
魔王城の塔の上。
魔王は、月を見ていた。
「……来ているな」
◆
同じ頃。
遠く、北の荒野。
黒い外套の一団が、焚き火を囲んでいた。
「確認した」
ひとりが言う。
「魔王城に、七つの異質な魔力反応」
「戦闘用か?」
「違う」
「――調律系だ」
◆
リーダー格の男が、低く笑う。
「面白い」
「世界を壊す力ではなく、
“整える力”か」
◆
別の女が言う。
「それは危険だ」
「争いで成り立つ均衡が、崩れる」
◆
彼らは名乗らない。
国でもない。
宗教でもない。
だが。
世界の力の流れを“監視する者たち”。
◆
魔王城。
厨房。
私は、壺を磨いていた。
その時。
小さく、震える。
「……え?」
まな板も。
鍋も。
かすかに共鳴する。
◆
リーヴェがすぐに現れる。
「気づいたか」
「うん」
「外から、視られている」
◆
魔王が入ってくる。
「神器は、隠せぬ」
「強すぎるから?」
「違う」
魔王は、ゆっくり首を振る。
「優しすぎるからだ」
◆
場面転換。
北の一団。
「接触は?」
「まだ早い」
「まずは、試す」
◆
焚き火に、奇妙な石が投げ込まれる。
それは、微かに光り――
◆
翌日。
魔族領の近隣の村。
作物が、一部だけ急速に成長していた。
異常な速度。
だが。
中身は空洞。
◆
「……誰かが、いじった」
私は、実を割って言う。
「成長だけを、強制した」
◆
リーヴェの目が鋭くなる。
「神器を真似た?」
「違う」
魔王が静かに言う。
「これは“奪う力”だ」
◆
整える力に対し、
急がせ、
偏らせ、
歪ませる力。
◆
厨房に戻る。
七つの神器が、かすかに光る。
まるで、警告のように。
◆
「ミナ」
魔王が言う。
「これからは、
料理だけでは済まぬかもしれぬ」
「うん」
私は、包丁を握る。
「でも」
「料理で始まったなら、
料理で守る」
◆
遠く。
黒衣の一団の長が、空を見る。
「神の贈り物か」
「ならば我らは、試す側だ」
◆
静かに。
世界の裏側で、歯車が回り始める。




