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24.混ざらないものを、混ぜる

発端は、些細な一言だった。


「遠征帰りに、

 あんな柔らかいものを出すのか?」


 リーヴェが、湯気の残る厨房で言った。


「悪くはない。だが――」


 視線は、城の兵士たちへ。


「戦場では、

 もっと強い味を食う」


 ◆


「強い味?」


 子どもたちが首を傾げる。


「塩気。辛味。油」


「刺激がないと、

 生きてる感じがしない」


 ◆


 それを聞いて、

 城の古参兵が眉をひそめた。


「ここは戦場じゃない」


「魔王城は、

 休む場所だ」


 空気が、少しだけ張る。


 ◆


 私は、棚から道具を取り出した。


 石のすり鉢。


 七つの神道具の一つ。


「今日は、これ」


「……砕くのか?」


 リーヴェが、興味を示す。


「ううん」


「馴染ませるの」


 ◆


 中に入れるのは、


 ・香りの強い乾燥草

 ・塩

 ・油

 ・少しの味噌


「強い味と、

 やさしい味を」


 私は、すりこぎを持つ。


「ぶつけないで、

 混ぜる」


 ◆


 ぐり、ぐり、と音がする。


 硬いものが、砕ける音ではない。


 擦れて、

 形を変えていく音。


 その瞬間。


 すり鉢の内側が、

 かすかに光った。


 ◆


「……魔力が、揺れた」


 リーヴェが、目を細める。


「争う気配が、

 静まっていく」


 ◆


 出来上がったのは、

 特製の合わせ調味。


 それを、

 蒸し野菜に少しだけ添える。


「どうぞ」


 ◆


 一口。


 古参兵が、驚く。


「……強いのに、刺さらない」


 リーヴェも、目を見開いた。


「戦場の味だ」


 そして、続ける。


「だが、

 荒れていない」


 ◆


 すり鉢の神器が、

 静かに効果を発揮していた。


 混ざらなかったものが、

 拒まれずに共存する。


 味も、

 魔力も。


 ◆


「なるほど」


 魔王が、低く言う。


「お前は、

 折衷ではなく、融合を選ぶか」


「だって」


 私は、笑う。


「どっちも正しいから」


 ◆


 リーヴェが、少し笑った。


「……面白いな」


「戦場では、

 強さは一つだ」


「でも、ここでは、

 二つあってもいいらしい」


 ◆


 子どもたちも、

 ぱくぱくと食べる。


「ちょっと辛い!」


「でも、おいしい!」


 ◆


 空気は、もう張っていない。


 戦場帰りの味も、

 城の味も、

 同じ卓に並んでいる。


 ◆


「ミナ」


 リーヴェが言う。


「今度は、

 私の遠征料理を教える」


「いいね」


「その代わり、

 すり鉢は貸してくれ」


 ◆


 混ざらないものは、

 砕けばいいわけじゃない。


 時間をかけて、

 形を変えればいい。


 魔王城の台所は、

 今日も、少しだけ世界を整えた。

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