表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/28

20.その使い道を、急がない

魔王城の門前が、少しだけ騒がしかった。


「アウルディア王国より、使者です」


 聞き慣れた名に、私は手を止める。


「早いね……」


「嗅覚がいい国だ」


 魔王は、そう言って立ち上がった。


 ◆


 通された使者は、興奮を隠しきれていなかった。


「魔王様、

 そして料理人ミナ殿」


 深々と礼をしてから、

 切り出す。


「城下で噂になっております。

 “心を休ませる酒”が生まれたと」


 ◆


「王も王妃も、

 強い関心を示しておられます」


「……そう」


 私は、少しだけ苦笑した。


 広がるのが、早すぎる。


 ◆


「無論、

 強引な要求ではありません」


 使者は、慌てて言葉を添える。


「ただ……

 国として、どう扱うべきものか、

 一度、話を伺えればと」


 ◆


 魔王が、私を見る。


「どうする?」


 私は、少し考えてから答えた。


「今は、

 渡せないかな」


 ◆


 使者は、驚いた顔をしたが、

 すぐに姿勢を正した。


「理由を、

 伺っても?」


「うん」


 私は、静かに言う。


「お酒ってね、

 扱いを間違えると、

 人を壊すから」


 ◆


「元気を出すためじゃなくて」


「忘れるためでもなくて」


「……休むためのもの」


 使者は、真剣に聞いている。


 ◆


「今は、

 まだ“城の中”で」


「必要な人に、

 必要な分だけ」


「それ以上は、

 急ぎたくない」


 ◆


 魔王が、頷いた。


「我も同意だ」


「これは、

 武器にも、毒にもなる」


「だから――

 台所の管理下に置く」


 ◆


「酒の製法は、

 当面、外には出さない」


「代わりに」


 私は、少しだけ微笑む。


「滋養粥や、

 甘酒みたいなものなら、

 教えられるよ」


 ◆


 使者は、深く頭を下げた。


「……理解いたしました」


「王にも、

 そのまま伝えます」


 ◆


 使者が去ったあと。


 城は、また静かになる。


「よかったのか?」


 魔王が、ぽつりと聞く。


「うん」


 私は、壺を棚の奥にしまいながら答える。


「早く広めるより、

 長く続くほうがいい」


 ◆


「……似てきたな」


「え?」


「考え方が」


 魔王は、そう言って小さく笑った。


 ◆


 その日の夕方。


 厨房では、

 甘い香りが立ちのぼっていた。


「今日は、お酒じゃないよ」


「甘酒」


「こっちも、

 ちゃんと元気出るから」


 子どもたちが、嬉しそうに頷く。


 ◆


 静かな革命は、

 急がない。


 守れる形で、

 少しずつ。


 それが、

 この城のやり方だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ