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2.魔王城の厨房、改革します

魔王城付き料理監修。


 それが、私に正式に与えられた役職だった。


「肩書き、なんか強そうですね」


「権限は厨房限定だがな」


 魔王はそう言って、興味なさげに書類を片づける。

 うん、偉くならない感じ、嫌いじゃない。


 問題は――厨房だった。


 扉を開けた瞬間、私は察した。


「あ、ここ……終わってますね」


「終わっている?」


「料理的に、です」


 広い。素材も多い。火力も十分。

 なのに、空気が死んでいる。


 包丁は刃こぼれだらけ。

 火は全部最大。

 肉は下処理なしで直焼き。

 保存は「放置」。


 料理じゃない。給餌だ。


「……これ、毎日食べてるんですか?」


「問題はない。食える」


 魔族の調理担当が首をかしげる。


 ああ、ダメだこの世界。

 でも――やりがいは、ある。


「まず包丁、研ぎましょう」


「切れれば同じでは?」


「全然違います」


 私は刃を研ぎ、火を弱め、肉の血を抜いた。

 それだけで、厨房の匂いが変わる。


 試しに作った簡単なスープを、魔族が飲む。


「……?」


 顔が変わった。


《料理補正:効果安定》


 よし。第一段階クリア。


 そこへ、床を揺らす足音。


「……何をしている」


 振り返ると、巨大な魔獣人が立っていた。

 筋肉の塊。傷だらけ。視線が鋭い。


「魔将軍ガルディスだ」


 あ、来た。

 第一の標的。


「食事の改革です」


「不要だ。食えればいい」


 脳筋だ。予想通り。


 私は彼をじっと観察する。

 呼吸が荒い。肩が重そう。古傷、治りきってない。


「……疲れてません?」


「疲労は当然だ」


「ですよね」


 私は鍋に向き直る。


 骨を砕き、じっくり煮出す。

 肉を焼き、脂を残す。

 香草を刻む。


 時間はかけない。

 でも、狙いは外さない。


「どうぞ」


 ガルディスは疑いもせず、一口飲んだ。


 ――沈黙。


 次の瞬間、彼の肩が落ちた。


「……身体が、軽い」


《魔力回復(大)》

《疲労軽減》

《忠誠度 上昇》


 よし、堕ちた。


「毎日、これを出せ」


 即決だった。


 周囲の魔族がざわつく。

 厨房を見る目が、変わる。


 私は内心ガッツポーズ。


 一人堕とせば、流れは変わる。


 ふと視線を感じて振り向くと、

 壁際で食事を残す、美形の魔族がいた。


 冷たい目。無表情。


「……あの人、絶対めんどくさい」


 次の標的、決定。


 魔王城の厨房改革は、まだ始まったばかりだ。

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