18.今度は、守られる番
それは、本当に小さな出来事だった。
魔王城に戻った翌日。
少し、喉が痛い気がして。
「……ま、平気でしょ」
私はそう言って、鍋をかき混ぜた。
◆
「ミナ」
最初に気づいたのは、ガルディスだった。
「顔、赤いぞ」
「え? そう?」
言われてみれば、少し、ぼんやりする。
「大丈夫。
昨日、ちょっと移動が多かっただけ――」
「座れ」
有無を言わせぬ声。
魔将軍とは思えないほど、真剣だった。
◆
結果。
軽い風邪、という診断だった。
……ただし。
「治り、遅くないか?」
氷の魔将軍が、首を傾げる。
「いつもなら、
一晩で治る程度だろう」
私は、布団の中で苦笑する。
「……私、
食べ物の加護、受けられないから」
◆
この世界では、
ちゃんと食べていれば、身体は強くなる。
回復も早い。
魔族なら、なおさら。
でも――
「私だけ、外来種なんだよね」
異世界から来た身体。
料理で人を癒せても、
自分自身は、その恩恵を受けきれない。
◆
沈黙。
次の瞬間。
「……面倒だな」
魔王が、低く言った。
そして、布団の横に腰を下ろす。
「だから、
倒れる前に言え」
◆
「はい、水」
「……ちょっと熱いぞ」
「氷、弱めた」
「薬草スープ、薄味だ」
次々と世話が焼かれる。
私は、目を丸くした。
「え、ちょ、
皆、仕事は?」
「後回しだ」
魔王が即答する。
「城の台所が止まるほうが、
よほど問題だろう」
◆
厨房の子どもたちも、
こそこそと様子を見に来ていた。
「ミナ、だいじょぶ?」
「おかゆ、作る?」
「……作らなくていいよ」
私は、少し笑って言う。
「今日は、
みんなに作ってもらう日」
◆
夜。
鍋が運ばれてくる。
見た目は、不格好。
でも、ちゃんと、あったかい。
「……美味しい」
ぽつりと漏らすと、
周囲の空気が、少し緩んだ。
◆
「なあ、ミナ」
魔王が言う。
「お前は、
城を支えている」
「……はい」
「だから」
少し、言いにくそうにしてから。
「たまには、
支えられろ」
◆
布団の中で、私は目を閉じる。
身体は、まだ重い。
でも、心は、不思議と軽かった。
料理は、
誰かを元気にするもの。
そして今日は――
私が、元気をもらう番だった。




