17.恩義の迎え方
その使者は、やけに丁寧だった。
立派な馬車。
けれど、装飾は控えめ。
武装も最小限で、
剣は抜かれない位置に下げられている。
「アウルディア王国より参りました」
そう名乗った使者は、
深々と、頭を下げた。
◆
「料理人ミナ様に、
王より、正式な感謝をお伝えしたく」
その言葉に、私は思わず瞬きをする。
「……感謝、ですか?」
「はい」
使者は、はっきりと頷いた。
「王妃殿下の御身を救ってくださった恩義、
そして――
北の村を支えてくださったこと」
魔王城の空気が、少しだけ和らぐ。
ガルディスが、小さく鼻で笑った。
「国の使者にしては、
ずいぶん柔らかいな」
「王のご命令ですので」
使者は、照れたように答えた。
◆
数日後。
私は、魔王城からアウルディア王国へ向かった。
“招待”というより、
“迎えに来た”という表現のほうが近い。
◆
王城の門前。
そこに立っていたのは――
「……わざわざ、来てくれてありがとう」
王自身だった。
玉座ではなく、
外套姿で。
その隣には、王妃がいる。
元気そうに、穏やかな笑顔で。
「ミナ」
王妃が、私の名を呼ぶ。
「ようこそ。
アウルディア王国へ」
◆
「本来なら、
こちらから伺うべきだった」
王は、少し照れたように言った。
「だが……
顔を見て、礼が言いたくてな」
そして、頭を下げる。
深く。
「妻を救ってくれて、ありがとう」
私は、慌てて手を振った。
「いえっ、
そんな大したことは……!」
「いいや」
王は、真っ直ぐに言った。
「命を救われた。
それだけで、十分だ」
◆
王城の食堂。
だが、豪奢な宴ではなかった。
並んでいるのは、
滋養粥を中心にした、素朴な食卓。
「この国はね」
王妃が言う。
「強さより、
“続くこと”を大事にしているの」
王も頷く。
「派手な勝利より、
毎日、ちゃんと食べられることだ」
◆
滋養粥が、配られる。
王が、ゆっくりと口にする。
「……やはり、落ち着く」
王妃が微笑む。
「ええ。
魔王城で食べた時と、同じ」
私は、少しだけ肩の力を抜いた。
◆
「ミナ」
王が言った。
「頼みたいことがある」
私は、身構える。
でも。
「無理なことではない」
そう前置きしてから、続けた。
「この料理を、
国の台所に根づかせたい」
◆
「教えてほしい。
作り方も、考え方も」
その言葉に、胸がじんわりする。
「……はい」
私は、自然に頷いていた。
「できることなら」
◆
その夜。
王城の一角で、
小さな鍋が、ことことと煮えていた。
王妃が袖をまくり、
侍女が覗き込み、
王が、少し離れて見ている。
「こうやって、
急がずに、ですね」
「なるほど……」
誰も、急かさない。
誰も、命令しない。
ただ、湯気を囲んでいる。
◆
私は思った。
ここは、
魔王城と同じ匂いがする。
安心する匂いだ。
食べることを、
大事にしている場所。
だから、きっと。
この国とも、
うまくやっていける。
そんな気がした。




