消えた騎士
ユリアス……。
どうして、どうして私はあなたの顔も声も忘れてしまうの……。
これは呪い? それとも……。
いつもの堂々巡りの考え。
その時。
誰かがそっと優しく、しかし力強く、後ろから手を回して、私を抱きしめてくれた。
この腕と手。ユリアスでしょ?
私の心臓が高鳴る。
リーシャ様、どうしていつも、私と話した後に……そうやって悲しい顔をされているのですか?
そ、それは……。
これは言うべきことなの? 言っていいの?
もしかして、私の事を本当は邪魔だと?
ユリアスに向き合う。しかし、見えているはずの顔が、見えない
違うわ! ユリアス。あなたのことは……好きよ。でも……その……いつも話しているのは騎士のユリアス。私は本当のユリアスと話したいの! ユリアス。これからは騎士としてではなく、恋人として……私を守って欲しい。
つ、ついに、とんでもないことを言ってしまった。でも、後悔しても遅い。
私はただ、ユリアスの返答を心して待つしかなかった。
リーシャ様……。
ユリアスがガバッと抱きしめてくる。私の胸がはちきれそうなほどに高鳴る。
ユ、ユリアス! 騎士の忠誠を乗り越えて、ついに、私たちは結ばれる。ハッピーエン……えっ!?
その時、ユリアスが私の頬を舐めてくる。
ユ、ユリアス!? そ、そんな、いきなりダメ!!
ユリアスが私の頬を激しく舐めてくる。
お、落ち着いてユリアス! わたしはまだ……こ、心と体の準備が……。
しかし私の体の芯が溶け始める。
はっ!?
ニャア?
ムギが私の顔を舐めていた。
あぁーー!!!! ムギッ!! 私を食べないでよ!!!!
布団から半分起き上がった私の絶叫のあと、静まり帰った室内に、ムギが後ろ足で首をかく音だけが響いていく。
ムギの抜け毛が月明かりに照らされ、舞い、そして漂っている。
わ、私の恥ずかしい寝言、ユリアスに聞かれてないよね。
私は静かに布団を抜け出し、そ〜っと、そ〜っと。ユリアスの寝床を見に行く。
えっ!?
ユリアスがいない!?
ムギ……もしかしてユリアスを食べちゃったの?
大きなあくびをするムギ。前脚伸びて、後ろ脚伸びて、体を伸ばし終えるムギ。
冗談して、一体どこに!?
まさか、ここに魔物が入り込んだ!?
呑気なムギの存在を忘れ、一人、寝起きと、真夜中の森のおんボロ家屋にいるせいか、プチパニックに陥る私。
ムギは入口の方に向かい、私の方を振り向く。
ニャア!
そ、外に出たいの? ムギ。それとも……なにか、い、いるの?
静かなノック(雨)が空から降り始めていた。
ムギがガリガリとドアで爪を研ぎ始めた。
ま、まって、ムギ!
無情にもドアが壊れた。
ドシャ、っと地面に落ちるドア。
ムギ……。
ムギはクンクンと鼻を動かし、なにか地面を嗅いでいる。
お腹空いてるの?
私が見に行くと、地面には重いブーツ? でかたどられた足跡が残されていた。
こ、これって……ユリアスの足跡? だったらユリアスは、一体こんな真夜中に、内緒でどこへ行ってしまったの?
今まで想定外の事しかなかった。
もしかしたら、ユリアスは私の寝言を聞いてしまって……。
リーシャ様……。自らの命よりも重い騎士としての忠誠を、理解されておれれなかったなんて。何より今まで誓いを守ってきた私を、そんな下世話な人間のように……。
みたいに思われて、私に愛想を尽かして去っていった……。
そ、そんな……まさか、ね。
私の体は生気を失い、心が萎縮していく。




