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時の航海

幸せそうに寝ているムギ。そんなムギを見ていると私まで幸……あれ? ムギの背に何か付いてる。

羊皮紙の切れ端?

なんだろう、これ。

手に取る。

な、なに!? このもの凄いラズ焦げ臭。

反対の手で鼻を摘む。鼻が曲がりそう。ムギったらよくすやすや眠れるね。って私だけだよね。この世界でこのにおいに慣れていないのは。

避けずに立ち向かっていくるべきだったかな。

なんか文字が書いてある。

魔力べっとりの羊皮紙に文字って、禁断の呪いとか?


人差し指と親指で端を摘んでいる羊皮紙を顔に近付け読む。


──ラズ焦げ臭の羊皮紙。

今の僕は筆を執る指が震え、言葉さえ喉に突き刺さるようだ。こんな結末で君を裏切ること、どうか、どうか許してほしい。 僕の魂は、あの日からずっと君の傍らにあった。どんな時も君を愛する情熱だけが僕の命を繋いでいた。それはウェヌスに誓って本当だ。だ。

けれど兄の急逝という冷酷な運命が僕の行く手を阻んでしまった。家門という重い鎖が僕を縛り、もはや僕自身の意思で歩むことは許されなくなった。分かって欲しいとは願わない、ただ、抗えぬ運命の濁流が僕を君から引き離したことだけを、どうか心の中に留めておいてほしい。

耳に届いているかもしれないが、僕には許嫁が定められた。彼女は清らかな人だ。けれど、僕の心が彼女にときめくことはない。僕の心は、あの日君に預けたままなのだから。君にだけは、最後の瞬間まで偽りのない僕でいたかった。だからこうして僕は本心をすべて君に向けて書いた。

もう君の瞳に映ることは叶わない。卑怯にも手紙という形で別れを告げる僕を蔑んでくれて構わない。 指輪は、どうか冷たい川の底にでも投げ捨ててほしい。僕との記憶ごと、深い淵へ沈めてほしいんだ。

君は光り輝く新しい朝を迎えるべき人だ。

君の故郷ウッドエルフの森は、きっと今も古の美しさを湛えていることだろう。木漏れ陽と、さざめく風の調べが、どうか君の傷ついた心を優しく抱きしめてくれますように。

君の歩む道が、祝福と幸福に満ちたものであることを、遠き空の下からいつまでも祈り続けている。

エリオット。

──


なんだか私の感情から温度が奪われていく。形あるものから思い出だけに、それも悲しい思い出に。

さようならの言葉の温かさを少し残したまま、二度と戻らない時間を告げているよう。

この手紙を受け取った相手は何を思ったんだろう。悲しんだのかな? それとも上手く乗り越えようと決心したのかな。この手紙の儚さに少し胸に痛みが。彼女が新しい自分を見つけて幸せを得られていたらいいな。

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