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閉ざされた世界の窓。

世界と私を隔てていた透明なガラスは闇へと変貌してしまった。蛸の吸盤が私の顔に吸い付いているからだ。

これを殺さないよう、引き剥がしましょうか?

再び腕を組み、私は思考の淵に浸る。

それは危険だわ。いまパレオクトプスと私は一体となっているの。パレオクトプスを無理に引き離せば、私の一部(皮膚)は失われてしまう事になるわ。

私にはよく分かりませんが、それでは一体どうすれば?

ムギの背負っている銅色の桶を持って来て頂戴。

すぐに。アルコン、リーシャ様の側にいてくれ。

ユリアスが大地を踏みしめると、重厚な金属音が私の耳へと届き、その音はユリアスがムギの元へ一歩、また一歩と走り向かっていくたびに、微かな鉄の囁きへと変化していく。

新たな大地に伝わる音色が聞こえてくる。恐らくアルコン。アルコンが私の側に来る。側に来る……。これは本当にアルコン? なんだか奇妙な感じがする……。

ア、アルコンよね?

リーシャだよね?

お互い困惑し合っていたみたい。

当然よ。この魔物の下に本当の私がいるの。

でも…その格好は不気……妖艶だよ。

ヨウエン? ヨウエンってなに? そ、そう?

ああ。異形は神の象徴だから。でも本当に大丈夫なの? 話し方とか…その生き物、毒を持ってたりしないよね?

褒められてるだよね…。平気だよ。ただなんだか、心に贅沢な静謐感が芽生えたみたいで。

そお…。それにしても随分と落ち着いてるよね。

こういう自然の脅威を目の当たりにした時は、慌てちゃ駄目なの。嵐の目のように静かで冷静にしていなくちゃ。

静まり返った湖面。風の訪れさえ今の私には、不完全な自分を静かに受け入れることのできる環境へと誘ってくれる。

リーシャは凄いね。僕だったら無理だよ。

こういうの苦手なの?

好きには…なれないよね。

確かに、蛸をペットとして飼いたいとは私も思わないかな。でもそんなに怖くはないでしょ?

ンフフ、リーシャのおかげでね。まあ…よく見ると可愛くない事もないような気が……。

蛸と一体になっていると、心の中にそっと明かりが灯ったようにパレオクトプスが墨を吐いたのが分かった。

うっ!? リーシャ!

恐らく、というかアルコンが墨を受けた。大丈夫。ただのメラニン色素だから……たぶん(小声)

なにその死を孕んだような不気味な名前。

テトロドトキシンみたいなのが入ってるかもしれないから、念の為目は無理に開けないようにね。

ほ、本当に大丈夫なんだよね?

落ち着いてアルコン。自然に身を任せるの。


誰かが駆け寄ってくる。静寂の中でも際立つ愛しき金属音。ユリアス♡

リーシャ様、遅くなって申し訳ありません。ムギが遊びと勘違いしたようで。こちらを。

ユリアスからドワーフ製の桶を受け取る。その時ガントレット越しとはいえ、ユリアスと手が触れ合った。大した事じゃないのに、視覚を失った脳のパニックによる内因性オピオイドのせいで、いつもよりドキドキとしてしまった。

アルコン、その顔どうしたんだ?

自然を受け入れたんだよ。


いまオペラの一文を思い出した。

有名な吟遊詩人のお抱えの錬金術師が

、パレオクトプスの墨汁嚢の分泌物をよくポーションの混ぜ物として使用していたと。

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