甘き毒のコース・ド・マキャベリ
エピローグ②
金をあしらった壁面と天井画が広がる廊下。アーチ型の窓から差し込む、漆黒の闇の中でたった一つ存在感を放つ月明かり。月の光が磨き上げられた大理石の床に溶け込み、周囲の金をより一層輝かせていていた。その空間の中心を一人の女性が歩いていく。
彼女がまとうのは、柔らかなスノーホワイトのシルクドレス。歩くたびにドレスの裾が美しい花弁のように揺れ、その足跡に精霊の光の粒が舞っている。彼女の背筋は凛とし、しかしその動きは水が流れるようにしなやか。荘厳なシャンデリアがかすかに揺れる。空気は静寂に包まれているが、彼女の歩みは確かな音を響かせ、空間に優雅なリズムを与えていた。
女性は1つの部屋へと入っていく。そして静寂な鏡面の赤い大理石の部屋に、冷ややかなガラスの破裂音が響き渡った。
「ベリー様!?」部屋にいた金飾が施された紅色の鎧を身に着けた従者は、凍りついたように静止し、主人である女性見つめている。
「あの小娘。全て持っていったようね。何も見つかっていないの?」
探すほどありませんが……。
お黙り!
申し訳ありません! 慌てふためき姿勢を正す従者。
リアス、これを片付けて。
はい! 直ちに。ベリーの割ったエルフの壺の残骸を片付けていく従者。
手鏡を取り出し、得体知れぬ物を顔に軽くつけ肌を白く輝かせるベリー。ベリーは鏡に映る自身をじっと見つめる。
アドレドがいなくなってから、このペレドゥル家を支えてきたのは他でもないこの私。ペレドゥルという名の空虚な器に、再び権威を注ぎ込むために、私がどれほどの恥と努力を被ってきた事か。私の手元に残されたのは優雅な貴族の生活などではない。家名を存続させるために書き連ねた、血の帳簿と冷徹な策略の傷跡だけ。なのに…なのに、ずっと森に逃避し、貧相な遊戯に耽っていたリーシャを跡取りに据えるですって? ふざけた事を。あの子が一体何をしてきたというの。そんなんだから、雄弁で無能な将軍達を戦地へ送り続けるのよ。この私の積年の献身が、ただの血筋という呪縛に跪かされる。この国には血の変革が必要よ。さもなければ、このリーレイは強国に飲み込まれてしまう。
ベリーの手鏡に、ベリーを覗き込むように見ようとしているリアスが映り込む。
ベリーは呆れ、首を小さく左右に振りながら視線を上へ流す。リアス。ベリーが振り返ると、リアスが姿勢を正す。
「ベリー様。こちらは片付きました。他に何かお手伝いしましょうか?」
まったく。フンッ、別にないわ。楽にしてなさい。それよりマフィアスはもう帰ってきた?」
いいえ。息を緊張気味に吸い込むリアス。私が確認した時にはまだ……。引きつった笑顔を浮かべる。聞いた話では、王女との謁見が長引くと……。
リアスがベリーの視線を見た後、何かに気付きゆっくりと振り返る。




