追放先と若男爵③。
正面に立つユリアスの横から中を覗くアルコン「あ~。これは思ったより酷いね~」
「おい、仮にも管理官だろ?」
「そうだけど、僕も色々と忙しくてね。まあでも屋根があるだけいいじゃない?」
三人で中へ。
ムギは外で横座り待機からの大あくび。
「リーシャ様、これはさすがに人の住む所ではないでしょう」
魔女なら住めそうだよね〜。頭の後ろで手を組むアルコン。
「素敵じゃない!」私は少し奥へと進む。
「え!?」
「リーシャ様?」
ヒソヒソ「随分と変わった子だね」
「リーシャ様は凄く…前向きな方なんだ」
だったら僕も少しは見習わないとね〜。
さっと俊足で私の元へと近寄るユリアス「リーシャ様、本気ですか?」
「本気も本気よ。ちゃんと掃除して修繕していけば大丈夫よ」
は、はぁ…。
チッチッチ、ユリアスったら分かってないわね〜。これは自由の象徴なのよ。奥の腐った家具が壊れ崩れ落ち、埃がもくもくと漂ってくる。誰にも邪魔されないまさに私達だけの自由の城。
ゲホッゲホッ。漂ってきた濃厚さを極めた埃で咳き込むユリアス。
小物バッグをポンポンと叩く「便利な物も多いからなんとかなるわ」迷いなき満面笑顔が溢れ出る。でも微動だにしないユリアス「ユリアスはやっぱり反対かな?」
「いえ、少し勇敢さに見とれて……」ボソッ「いや、私なら平気です! 戦地の兵舎はもっと酷かったですから。私はただリーシャ様の身が心配だっただけですので。不満はありません」
「そう、なら良かった。大丈夫。最高の住処にするから」ユリアス、イエスマンになってないといいけど……「ねえユリアス。あのテーブルに上なんか寝られそうじゃない?」
「あそこ、ですか?」
「そうそう。鼠みたいのがいるみたいだからさすがに床は、ね」
「まだ日が高いですし、それは私が日が落ちるまでになんとかしましょう」
「ありがとう」
「あー! 僕も何か二人を手伝うよ」
というかリーシャ様だけでも向こうの家屋に居させてもらいたいんだが。
ハッハッハ、それは無理だよ。
リーシャ様には恩があるんだろう?
いやぁ、そういう事じゃなくって。あれはこの道具のおかげなんだよ。
これは?
アドレド卿が僕にくれた不思議な魔道具さ。所謂幻惑魔法だね。
ユリアスが割れた窓からアルコンの家屋の方を見ている。
いやぁ〜気分だけで違うよね〜。
あんな所で寝てたのか?
いいや、小さな馬車で寝泊まり。たった数日だし。こんな辺境の地、とても住めるような所じゃなっ…。
アルコンの口を抑えるユリアス。
声が大きい。
うぐうぐ。
小さい頃から行きつけが森だった私には全部聞こえてるけど。
2人の視線が私の背中に突き刺さりまくる。
二人とも何か言った?
いいえ。
うんうん。
「アルコン手を貸してくれるんでしょ? なにか建材の類とかあれば助かるんだけど」
「それはお安いご用。建材なら沢山余ってるからね。案内するよ」
>>
「ホント、いっぱい余ってるわね」
しかしどうしてこんなに?
「結構な貴族達が新しい街を作ろうとしていてさ。でも戦争のせいでみんなスッカラカンになってね。端お金じゃあ肝心の大工が来ないし、それに周りがこうだと、木材とか簡単に補充できるから、最初はたんまりとね」
「なるほどね。ここまで商人は来るの?」
「来るよ。って言いたいけど、正確には通るってのが正しいかな。それに頻度は高くないね。どうしてもこのルートじゃないと戦争に巻き込まれるって時ぐらいかな」
「へぇ~。こんな深い森の中なのに凄いわね」
「父のおかげなんだ」
「お父様の?」私は手を止める。
「ああ」アルコンも手を止め、前を向いたままだけど真面目な表情をしているのが分かる「父がむかし、この地を任せられた時に、ここの人達に良くしてもらってね。それにここの人達のおかげで、病弱だった母の容態も良くなったんだ。だから精一杯恩を返そうってね。父がそんな風によく話してくれていたよ」
「良いお父様ね」
「自慢の父だったさ。いつ聞こうか迷っていたんだけど、リーシャはどうしてここへ」
「それはさっき言ったでしょ」
魔法陣で飛ばされる前の話。だって住むんでしょ?
「あっ……そ、それは……その……」
>>
追放の件を話しちゃった後。
「私は別に辺境だなんて思ってないわよ。こういうのどかで空気のおいしいところは寧ろとても素敵だと思うわ。だから彼女には寧ろ感謝しているくらい」
「ハッハッ、むかしリーレイの貴族に沢山会った事があるけど、リーシャみたいな人はいなかったよ」
「そ、それって、いい意味よね?」
「もちろん! リーシャとユリアス。二人とも歓迎するよ。と言っても僕にできる事は少ないけど、まあ自由にしていって」
「ムギも忘れないでね♪」
「ムギ? あ~あ! あの大きい魔物? 大丈夫なの?」
「大丈夫よ。とっても賢くて優しい、良い子なんだから。それにああ見えて、見かけによらず結構繊細なのよ」
「ハッハッ、そうなの? まあ了解」
>>
「こんなもんかな」
「ありがとう。辛いのに、本当の事を話してくれて」
だから私は別に。
できる限り手を貸すよ。リーシャ。
そ、そう? ありがとう。
建物の前まで運び終えた。
途中、往復する私達を見てムギも手伝ってくれた。
「建材もそうだけど、アルコンの書斎も書類で埋もれてたわよね。あれを一人で全部片付けているの?」
「流石、この玩具は効いてなかったみたいだね。そう。貴族でも読み書きが難しい中、ここの住人は知っての通り。この地の伯爵に関わらずどこの領主も税をかすめとっては豪遊することばかりだったから。父の後を継げるように僕ができる限り…書類をね。今はもう思い出の品だけど」
「凄いわ。私も嫌と言うほど見てきたから。でも伯爵がなにか言ってきたりしないの?」
「大した集落じゃないからね。それにさっきも言ったけど、戦争の事で過去の遺恨なんて気にしてる余裕はないよきっと。ハッハッ」
「ふ~。アルコン」アルコンの近くまで行く。
「ん?」
私は手を差し伸べる「お互い力を合わせてここを良くしましょ」
「ああ…でも僕は住まないからね」
アルコン優しく握手してくれた。
分かってるって。でも住みたくなるような所に私が変えても住ませてあげないから。
ハッハッハ。
ンフフ。
予定とは違った部分も多かったけど、こうして良いスタートが切れた。
これからここでの新しい生活が始まるのね♪
1章end。




