自転車の王子様
「スミレちゃんは僕のどこが、好きなの?」
と、自転車を押しているケンイチくんが私に聞いた。
ケンイチくんは、女の私と同じくらいの身長で女の子みたいな可愛い顔をしている。
「ええっと…、 頭が良いところ?」
ごめんね。ケンイチくん、本当は、あなたの事をあまり好きではないの。
最近、学校の帰り道にちょっと怖いオジサンがいて帰り道が同じのケンイチくんに「付き合ってもらえないかな」とお願いしたら、あなたが盛大に勘違いしたというわけ。あなたがあまりに舞い上がるから、説明しそびれちゃったの。
「スミレちゃん? あの人?」
と、ケンイチくんが言った。マスクをした怪しいオジサンが私達を睨んでいる。
「スミレちゃん乗って!」ケンイチくんは、自転車にまたがり、私を荷台に乗るよう促す。
自転車を漕いでいくうちに、オジサンはすぐに見えなくなった。
息を切らせたケンイチくんの声が聞こえる。
「はあ、…僕が…はあ、守る…んだ…、はあ、はあ」
銀色の自転車に乗った可愛くて頼もしい王子様の背中に、私はぎゅっと抱きついた。
冷たい風が吹いている。でも、私の王子様の背中はとっても温かかった。




