前略“道”の上にて
翌朝、準備を終えた一行は精霊の住処へ繋がる“道”へと出発した。
前回と違うのは泉へ向かったメンバーと…
「聞いていいか?」
「答えないからね」
「すまんが言えない」
「私も…知らない」
「??」
「お前らが言ってた岩…や
「昨日の事なんだけどさ、
温泉で、見てたよね…セ
「俺は何も見ていない!」
「い~い?アタシは何も言わない。アンタも何も見ていない。これでいいよね?」
「問題ない。それで手を打とう」
「ねぇピエール。なにがどう…」
「お願い。聞かないで」
「ファニー。知らない方がいい事もあるんだ。多分その方が幸せだ」
「…何も聞かない」
「近道を発見したんだよ」
「そ、そうなの。偶然、ね」
「前の帰りに、な」
「それは朗報だな」
「??」
あったはずの岩山は新たな道となり、どこから出てきたのか新たな魔物が棲みついていた。
「さぁ、間引いておかなくちゃね。空を飛んでるのはソファがやるんでしょ?魔法はナシでフレイルだけで倒すのよ」
「任せて。ヤクモ、ハウス」
「ピエールは小型と中型かな?大丈夫そう?」
「任せてくれ。ファニーは任せても構わないか?」
「もちろんよ。オリバーはあっち、メガトータスね」
「それはいいがあんなもんどっから湧いて来たんだ?」
「これはホントに知らない。でもちょうどいいんじゃない?」
「何体かは素材に期待できんが、構わないか?」
「数はいるし、別にいいわよ。好きにやっちゃって」
「えらい増えとるなぁ。手伝いいるか?」
「トラヴァスはピエールの方ね」
「ほいっさぁ」
「じゃあサクサク行っちゃいましょ!よろしく!」
簡単な打ち合わせを終え、ノエルはファニーを連れて少し離れた斜面に揃って腰を下ろした。
「今日は大人しく座ってるじゃん」
「竜の後だもの、もう驚かない」
そう言って少し強がりながらも彼女は夫から目を離さず、祈るように組んだ手の爪先は白かった。
「安心していいよ。ピエールの相手は豚とトカゲだから」
「二足歩行の豚と、私と同じぐらいの大きさのトカゲだけど…」
少し離れた岩場から、ピエールの雄叫びが響いた。
彼の周囲には鈍色の肌に蠢くオークが数体と、岩のような固い鱗に覆われたロックリザードが唸り声を上げて殺到している。
「クッ!数が多い」
彼の手にはバルカンから貸し与えられたグレイブが握られていた。
横薙ぎに放った一閃はオークの頭を切り裂き、振り切った刃先を翻し反動でもう一体の胴を切り裂いた。
崩れ落ちるオークの脇をすり抜けロックリザード2体の目と喉を貫く。
深く突き刺さった刃先を抜くのに手間取っていると間合いを詰めてきたオークの一撃が振り下ろされようとしていた。
「ピエール!」ファニーの鋭い声と同時に響く爆音。
「突きは死に技って聞いた事あるでぇ?この数相手やと悪手やな」
「トラヴァスか!助かる」
ようやく刃先を抜いたピエールは反撃に転じ、グレイブを大きく振り回して迫りくるオークの群れを薙ぎ払う。重い刃が唸りを上げ、ロックリザードは牽制に留めてオークのみに集中する。
盾も鎧もないオークの体では迫りくるグレイブの重い刃を受けることも出来ず、彼は次々と敵を切り裂いていく。
しかし、数で圧倒される状況は変わらない。オークの最後の一体を倒した頃には疲労が蓄積し、彼の動きは徐々に鈍り始める。
ロックリザードは油断なく彼を取り囲み襲い掛かるタイミングを待っていた。
「借りモンの武器やし、それの素材が鉱竜ならこんなトカゲは紙切れみたいに切り裂けるなぁ。たまには見せ場も欲しいトコやし、…こりゃあ出番やな」
トラヴァスはピエールを取り囲んだロックリザードを風圧で地に圧しつけると、圧はそのままに鋭い風の刃で文字通り首を刈り取っていく。
「所詮トカゲやな。こっちの核は貰うで」
得意気にピエールに笑みを浮かべるトラヴァス。
「いや、助かった。こっちのオークの核も好きにしてくれ」
「えぇヤツや!これで貸し借りはチャラな!」
そう言って倒れた魔物からせっせと核を取り出しに走り回るトラヴァスを残して、彼はファニーたちのいる斜面に向かった。
「ピエールは上出来じゃない?武器は槍だとさっきみたいに囲まれたら突きじゃ難しいし、剣だと急所に届かない事もある。オリバーの斧みたいに重くないなら慣れれば振り回すのにいいかもね」
「ありがと…トラヴァスにもお礼言わなきゃ」
「ピエールが自分で狩ったオークの核もあげてるし、気にしなくていいんじゃない?」
「ノエル…あっちは助けなくていいの?」
ファニーが指差したのは、ストーンバットの群れの中心。
『ソファ、そっちじゃない。こっち』
「ヤクモこそ!こっちだってば!」
「当たればとんでもないんだけどね」
「…当たってないよ?」
「振り回してるんじゃなく、
振り回されてるからねぇ」
「どうするの?」
しょうがないなぁと溜め息を吐きながら、ノエルがソファの周囲を風で覆った。
「そこ!2人で作戦タイム!少しだけ時間上げるから、しっかりしなさい!」
こちらを見上げ項垂れるソファと、バツが悪そうにフレイルから出たヤクモ。
「おこられちゃったね」
「ね、こういうのはどう?私がまず目標に向けて振るから、ヤクモは十分近付いてから、向きを修正するの」
「“あいことば”は?」
「“ハウス”とか“デュオ”みたいなの?何回くらい連続で出来そう?」
「10回ぐらい?」
「じゃあ、順番に数を数えるのは?」
「それいいよ!やってみよ!」
尻尾を振り回して目をキラキラさせるヤクモに、遊びじゃないんだけどなぁと呟くソファ。
「じゃ行くよ。ハウス、準備しててね。
ノエル~!ありがと!もう大丈夫!」
ソファの合図を確認したノエルは風の覆いを解いた。
「なにか決めたみたいだね?」
「先に決めとけっての!練習って言ってたからいいけど、あの辺がまだ甘いんだよねぇ」
言葉とは裏腹に彼女は嬉しそうな笑顔でソファを見つめていて、それを見たファニーも言葉の裏の思いに気付いて笑みを浮かべる。
「…何笑ってんのよ?」
「えぇ~?別に?あっ!
ソファちゃん構えたよ」
「誤魔化したな?別にいいけどね」
ソファを覆う風に邪魔され、攻撃を止めて距離を置いていたストーンバットの群れは、彼女の気配に気付くと向きを変えた。
彼女は大きく息を吸った後、上空の目標に狙いを定める。
「行くよ~!ひとーつ!」
群れに向けて放たれるフレイルの核を見たファニーが呟く。
「さっきまでと同じ…?」
「どうだろうねぇ?」
核が群れの中心に届いた頃に声が響いた。
『ふた~つ!』
核が急激に進路を変え、一番近くにいたストーンバットの羽を貫いた。
「出来た!みーつっ!」
ソファが地上から鞭を振るう様な仕草で核の向きを変える。
『よ~っつ!』
今度は核が1番近い目標へ追尾するような動きを見せて獲物の胴を貫き、地上で数を数える度に核は向きを変えて、目標を補足すると呼応するように数を増やし、ストーンバットを撃ち抜いて行く。
『とお!』の声の後、5体目を撃ち抜いた核が勢いよくソファの元へ戻った。
一連の流れを見ていたノエルとファニーは顔を見合わせると、堪え切れずに吹き出した。
「なにあれ?毎回数える気?」
「ちゃんと…プフッ…当たってる」
「ソファは何を数えてたんだ?」
斜面を上がってきたピエールには見えていなかったようで、2人に尋ねた。
「ピエールお疲れ~ソファがさ」
「戦ってるんだけど…変わってて」
「??」
「ソファ~!もう1回やって~」
「なんやなんや?」
ピエールの肩に乗ったトラヴァスも興味深そうに降り立った。
眼下ではフレイルを構えたソファが先程と同じように叫んだ。
「ひとーつ!」
核が一直線に目標に向かい
『ふた~つ!』
核が向きを変え目標を貫く。
「みーつっ!」『よ~っつ!』…
『やぁ~っつ』の声が響いたところでノエルとファニーは腹を抱えて笑い転げた。
「やぁ~って…」
「ちゃんと…「つ」って言ってたよ」
顔を見合わせてプルプル震える2人。
『とお!』の声とともにフレイルに戻った核を見てピエールとトラヴァスも吹き出した。
「真面目な顔で…ニヒッ」
「笑っては…いけない…フッ」
「最後さ、絶対や~っ、と~って言ってるよね?」
「ノエル止めて!…お腹が…」
「ニャハハハハッ!言うとる!」
「もう…そうとしか聞こえ…」
斜面で笑い転げる4人にはまるで気付かず、ソファはフレイルを真剣な表情で振り続け、手応えを感じ、フッと笑みを浮かべていた。
◇◇
オリバーは降り立った山間の大地で思わず頭を抱え込んだ。
メガトータスは全部で6体……確かに全部で6体いたはずだ。
しかし、彼の目の前にあるのは無残な骸となって横たわる6体の変わり果てた姿だけであった。
何体かは構わない、好きにやっちゃって。とは?
生まれ変わったオブリヴィオンの力を試そうと手前のメガトータスに相棒を振り下ろした。
それは巨大な果実のように頭部を真っ二つに割り、左右対称に割れた頭の断面からは間の抜けた「きょとん」とした表情がこちらを向いている。
…この1体は素材も十分に取れるし、状態もいい。
1体目で切れ味を確認した後、残りの5体が偶々一塊になっていたので、そのままオブリヴィオンを5度振った。
1度目は横っ面を薙ぎ払った。
2度目は振った勢いを殺さずに最後方にいた個体を薙ぎ払った。
3度目は飛び上がり真ん中の個体に戦斧を振り下ろしたところ、何故か亀が弾けたので、飛び上がり
4度目は後ろの個体に同じく戦斧を振り下ろした。同じように亀の甲羅が弾けたので飛び上がり、
5度目は残った個体の頭部に戦斧を突き刺した…のだが…。
弾けた2体は原形すら留めず、文字通り周囲に肉片を飛び散らしている。
問題は残り3体だが、2体を1度ずつ横薙ぎに払った筈なのに何故か3体とも3枚に卸されている。
幸い魔石は取れたが、もしや薙ぎは斬撃が飛び、振り下ろしは爆発するのか?だとすると1体目が形を留めている理由は?
目の前に突き刺したオブリヴィオンを眺め、先程の自身の動きを再現しながら首を傾げるオリバーは、背後から忍び寄る恐怖をまだ知らない…。




