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「本日、警視庁は児童誘拐事件に関連する重要参考人として、田平光輝容疑者(26)および佐野啓介容疑者(34)を指名手配しました。この2名は、都内で発生した児童誘拐事件に深く関与していると見られています。」


画面が切り替わり、警視庁幹部の記者会見の映像が流れる。

「今回の指名手配は、事件に関連する複数の証拠に基づき実施しました。市民の皆様には、両名の目撃情報提供をお願いするとともに、被害者の安全を最優先に、引き続き全力で捜査を進めてまいります。」


再びスタジオに切り替わり、キャスターの声が続く。

「田平容疑者は、警視庁捜査一課に所属していた現職警察官であり、事件当時も捜査チームの一員として活動していました。警察官が指名手配されるという極めて異例の事態です。」


「また、佐野容疑者は都内のリサイクルショップで勤務しており、事件当時も現場で働いていたことが確認されています。ただし、捜査の中で不審な動きが複数浮上しており、共犯の可能性が高いとされています。」


スタジオの画面に切り替わり、キャスターとコメンテーターの姿が映し出される。


キャスターが問いかけた。

「警察官が指名手配されるという事態に、多くの人が衝撃を受けていますが、今回のケースをどうご覧になりますか?」


中年男性のコメンテーターが神妙な顔つきで答える。

「非常に衝撃的です。警察は本来、市民の安全を守る立場にあります。その一員が児童誘拐に関与していると疑われているのは、警察への信頼を根底から揺るがすものです。また、現職警察官が関与したとなると、内部情報をどのように悪用したのかという点も重要な焦点になるでしょう。」


続けて、別の女性コメンテーターが口を開いた。

「さらに佐野容疑者のように一般市民に見える共犯者がいることで、捜査はより複雑になっています。警察としては、組織内部と外部の双方で、どのように犯罪が計画されたのかを徹底的に解明する必要がありますね。」


キャスターが頷きながら話を振る。

「これまでの捜査の中で警察内部の不備が指摘されることもありますが、再発防止策についてはどう考えていますか?」


男性コメンテーターが再び答える。

「まずは、事件への関与が疑われる警察官に対して厳正な処分を行うことです。その上で、組織内部の透明性を高めるための改革が急務でしょう。今回のようなケースが二度と起きないよう、外部からの監視も必要かもしれません。」


ニュースが終わると、SNSには早速いくつかの投稿が流れ始めた。


「警察官が指名手配されるなんて初めて見た。しかも児童誘拐って…信じられない。」

──20代女性 @fuyuko_1997


「佐野啓介って、うちの近所のリサイクルショップの人じゃん…。普通に挨拶してたのに、怖い。」

──30代主婦 @haruka_housewife


「警察内部の人間がこんな事件に関わってたなんて、闇が深すぎるだろ。」

──30代男性 @hiroki_tweet


「うちの子も小さいから、マジで怖い。夜の公園とか行かせられない。」

──20代母親 @mama_yuka


「佐野の店で深夜に変な荷物運び込んでるの見たって話、聞いたことある。やっぱりかよ。」

──無名のアカウント @anon_info



「#田平光輝 #佐野啓介 #警察の闇」がトレンド入りし、投稿は次々と増えていく。だが、一部では「リサイクルショップが犯罪の温床だ」など根拠のない噂が広がり始めていた。


ニュースが終わり、部屋には沈黙が流れた。亮太がソファに座りながら、不安げに茜を見上げる。

「お母さん、あの警察の人、悪いことしたの?」


茜は一瞬目を伏せたが、優しく亮太の頭を撫でて答えた。

「大丈夫よ。お母さんがちゃんと守るから。」


「でも、怖いよ…。」亮太が弱々しく続ける。


その時、寺阪が口を開いた。

「亮太くん、心配いらないよ。俺もいるし、何かあったら絶対に守るから。」


亮太は少し安心したように微笑むが、茜の顔はどこか険しかった。

「心悟くん。」


茜が低く名前を呼ぶ。その声に、寺阪はぎくりと反応した。


「何か俺、まずいこと言った?」


茜は深く息をつき、少し強い口調で言った。

「まずいこととかじゃないの。ただね、あなたがここにいると、逆にしんどいの。」


寺阪の顔から血の気が引いた。

「しんどい…?」


茜は亮太を一瞥してから、さらに続けた。

「あなたが一生懸命なのはわかる。でもね、正直、ずっと1人で生きてきた人に『守る』なんて言われても、重たいだけなのよ。」


「…重たい?」寺阪が絞り出すように言う。


茜は冷たく笑った。

「そう。あなたは私を助けてるつもりかもしれないけど、私には負担にしかなってない。亮太のことだけで手一杯なのに、これ以上あなたまで抱えられる余裕なんてないの。」


寺阪は言葉を失い、その場に立ち尽くした。


茜は短く「今日はもう帰って」と言うと、亮太の手を引いてリビングを後にした。


隣の自分の部屋に戻った寺阪は、玄関に背を預けて座り込んだ。

(…俺、間違えてたのか…。守るなんて、俺には荷が重すぎるのかもしれない。)


その言葉が頭の中で渦を巻き、胸の中が苦しさでいっぱいになった。


翌日の夜、寺阪が部屋でぼんやりとテレビを見ていた時、スマホが震えた。画面には茜からのメッセージが表示されている。


茜:「今から少し話せる?」


寺阪は驚きながらも急いで返信する。

寺阪:「もちろん。どうしたの?」


茜:「すぐ行くね。」


その短いやり取りを終えると、寺阪は慌てて部屋を片付け始めた。

(こんな時間に…何の話だろう?)

期待と不安が入り混じった気持ちのまま、玄関の前で待っていると、ノックの音が聞こえた。



寺阪がドアを開けると、そこにはタンクトップにショートパンツという軽装の茜が立っていた。薄いカーディガンを羽織っているだけで、その下に露出した肌が目に入る。思わず目を逸らした寺阪は、心臓の鼓動が早くなるのを感じた。


「…入っていい?」茜が控えめに尋ねる。


「もちろん、どうぞ。」寺阪は慌てて道を開け、茜を部屋に通した。


茜が椅子に腰を下ろし、カーディガンを脱ぐと、室内の明かりが彼女の姿を照らす。寺阪は一瞬ドキリとしたが、茜の真剣な表情を見て、それがそういう話ではないことを察した。


「心悟くん、急にごめんね。こんな時間に。」茜が切り出す。


「全然いいよ。何かあったの?」寺阪は慎重に問いかける。


茜は一度深く息を吐き、視線をテーブルに落としたまま話し始めた。

「ずっと…一人でしんどかったの。亮太を育てながら夜も働いて、毎日それだけで精一杯だった。」


寺阪は静かに頷き、茜の話を聞く。


「そんな時に心悟くんが来てくれて、助けてもらった。本当にありがたかったし、救われたの。でも…」


茜は顔を上げて寺阪をまっすぐに見つめた。

「私は心悟くんのことを好きにはなっていなかった。ただ、誰かに頼りたかっただけだったの。」


寺阪の胸に、茜の言葉が突き刺さる。

「…俺、茜さんに迷惑かけてた?」寺阪は少し震えた声で尋ねる。


茜は首を横に振り、言葉を続ける。

「迷惑じゃないよ。ただ、私自身がダメなんだと思う。借金のことも、亮太のことも、自分でなんとかしなくちゃって思ってる。」


茜は短く息をつき、さらに続けた。

「シフトも早くしてもらったし、夜の間は柏原店長の家で亮太を見てもらうことにしたの。」


寺阪は俯きながら答える。

「…そっか。俺、何も分かってなかったんだな。」


茜は立ち上がり、カーディガンを手に取った。

「これ以上、中途半端な期待をさせたくないの。ごめんね。」


玄関まで見送る寺阪に、茜は一瞬振り返って言った。

「本当にありがとう。あなたがいてくれて良かった。でも、これからは私一人で頑張るから。」


寺阪はただ静かに頷いた。

「…わかった。おやすみ、茜さん。」


ドアが閉まると、寺阪の部屋に静寂が戻った。


一人きりになった部屋で、寺阪は深い溜息をついた。

(俺、何もできなかったのかもしれない。でも、それが茜さんのためなら…これで良かったんだよな。)


その言葉を自分に言い聞かせるように呟いたが、心の中の痛みは癒えなかった。

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