9・騎士再会
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騎士が来た。勇者の木刀を携えて。馬と野営装備だけ持ってやってきた。
魔王は嬉しかった。どれほど待ちわびたか。
「騎士よ、部屋は用意しておる。取りあえず旅の疲れを癒やすがよい。側女も2名付けて身の回りの世話をするように言いつけておる」
まあ、側女と言っても異形の者達で変な気を起こさせないように配慮しているがな、と魔王は内心思った。魔王は嫉妬深いのである。
「はっ、ありがとうございます! では、勇者の木刀を献上します」
騎士は木刀を捧げ持った。
「ふむ、これが勇者が振った木刀か……。よい、お主が持っておれ。家宝であろう。取り上げる訳にはいかぬ。大切にせい」
「いいのですか。魔王さまに差し上げようと思って持ってきたのに」
「よい、勇者の使っていた剣なら宝物殿にあるわ」
勇者の剣は時々見に行く。そして話をする。
「勇者の剣はペラペラと良く喋る剣じゃ。あとで会わせてやるから、色々聞くと良い」
「はい、重ね重ねありがとうございます」
騎士がこうも素直なのはさすが勇者の血を引くものなのか、家訓としてあるのか、魔王は気になった。機会があったら聞いてみようと思った。
魔王は、騎士に顔を近づけると周りに聞こえない小さな声で訊いた。
「ところで、なぁ……騎士よ。お主はみんなから何という名でよばれておる?」
「ラウルと呼ばれてます」
魔王は驚いた。勇者の名と似ているではないか。勇者は「ラウルス」と呼ばれていた。
「そ、そうか、妾の真名はミカと言う。その、二人っきりのときは、お互い名で呼ぼうではないか」
魔王ミカは赤くなりながら約束した。思えば、勇者と名乗りあったときは対決の場であり、その場でキスされて降参したのであった。恋に落ちた瞬間だった。
――ああ、ラウルにはないが、ラウルスには右目のしたに小さな泣きぼくろがあったな
と、玉座に戻りながら魔王は思った。
「ネミラ!」
「お呼びで」控え室に居た側女のネミラに、騎士を部屋に案内するように言う。
これから、執務に戻らなくてはいけないが、毎日、騎士ラウルと鍛錬する時間を取って置くよう、秘書に言っておこうと思った。
――逢い引きじゃないぞ、鍛錬だぞ
自分にそう言い聞かせながら。