86・策
毎週日曜日午後11時にショートショート1、2編投稿中。
Kindle Unlimitedでショートショート集を出版中(葉沢敬一で検索)
フェリスは薄暗い部屋で古びた地図を睨みつけていた。埃っぽい空気の中、古い蝋燭が微かな光を揺らしている。その薄明かりの下、彼の指先が地図を辿って止まった。
「ここだ」
彼の囁きのような声には、冷たい決意が宿っていた。指先が示すのは、ミカの部下が頻繁に出入りする補給地点。フェリスの目に冷徹な光が宿り、唇の端がわずかに歪んだ。
計画は簡潔だった。しかし、その簡潔さの中に潜む執拗さが恐ろしかった。ミカの部下たちを次々と仕留め、徐々にその支配を削ぎ落とし、最終的にはラウルを倒す。そのための布石を一つずつ打ち始めるのだ。
暗い部屋から姿を消したフェリスは、その夜、まず最初の一手を打つべく行動を開始した。
濃霧の夜半、ミカの部下である中堅の将軍が補給任務を終え、護衛を伴って帰路についていた。馬車の車輪が軋む音が静寂を破り、その合間に遠くから微かに聞こえる草むらのざわめきが耳に届いた。
突如、矢が夜空を裂き、護衛の一人が馬上から落ちた。その場は瞬時に混乱に陥ったが、それも長くは続かなかった。暗闇から次々と飛び出してきたフェリスの部下たちが容赦なく襲いかかったのだ。
「囲め!誰一人逃がすな!」
将軍の怒声が響くが、その声もやがて消えた。フェリスは遠くからその一部始終を見届けていた。剣戟の音が止み、静寂が戻った頃、彼は冷笑を浮かべながら闇の中に消えた。
翌朝、補給地点での惨状がミカの耳に届いた。
「妾の部下を狙うとは……フェリスの仕業か」
ミカは玉座に腰掛けながら、報告を受けたテルゴウスを睨みつけた。その瞳には怒りが宿っていた。ラウルはその隣で険しい表情を浮かべていた。
「私が出向きます。フェリスが何を企んでいるか、この目で確かめるべきです」
「軽率な行動はするでない、ラウル。あやつは妾の部下を削るだけでなく、お前を誘い出そうとしているに違いない」
ミカはそう言いながら深く考え込んだ。彼女の頭の中には既に反撃の策が浮かび始めていた。彼女は、相手の動きを利用し逆に罠を仕掛けるつもりであった。
「この状況を逆手に取る策を練らねばならぬ。フェリスがこちらを狙ってくるのなら、むしろ妾が奴を誘い出すのだ」
その声には冷静さと鋭い意志が込められていた。ラウルはそれを受け止め、自身も覚悟を新たにした。




