フェリスの陰謀
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東の大陸にある暗黒街。フェリスはその中心に立ち、狭く入り組んだ路地を見下ろしていた。石畳の隙間から漏れる薄暄い光、腐臭と金属の匂いが入り混じる空気の中で、彼は静かに周囲を見渡していた。
暗闇にうごめく盗賊、暗殺者、裏商人たちは、彼の存在に怯え、同時に頼っていた。一瞬の動きも、彼の鋭い視線から逃れることはできなかった。
彼の心には一つの執念が燃えていた。魔界の支配者ミカへの苛立ちだ。強大な力を持ちながら「退屈」と口にするミカの態度が、フェリスには耐え難かった。無為に日々を過ごす女魔王の姿に、フェリスは心の奥底で怒りを感じていた。権力の座にありながら、その力を本当の意味で活用しない無責任さ。彼は自分こそが新たな支配者となるべきだと、日に日に確信を深めていた。
ミカの弱点を突くには、彼女が最も大切にするラウルを切り離すしかない。フェリスは暗黒街の複雑に張り巡らされた情報網を駆使し、ラウルに関する偽情報を巧みに広めることを企んでいた。「ラウルが東大陸と内通している」「魔界への忠誠心に疑問がある」──そんな噂を慎重に仕込み、ミカとラウルの関係に楔を打ち込もうとしていた。偽の証言、捏造された文書、巧みに操作された証拠。フェリスは一つ一つの情報を慎重に織り上げていく。
しかし、魔界のレムスは常にその一歩先を行く存在だった。フェリスの計画は何度もレムスによって潰され、彼は苛立ちを隠せなかった。
「レムス……」
フェリスはその名を呟き、忌々しげに唇を噛んだ。レムスの鋭い諜報は、フェリスの企みを幾度となく阻んでいた。噂が広がりきる前に、レムスの手によって握り潰されてしまう。ミカはラウルへの深い愛情ゆえに、簡単に疑念を抱くことはなかった。
「魔王など、退屈するならばその地位を渡せばよいのだ」
ある夜、暗い路地裏で、フェリスはそう呟いた。野心に満ちた光が、彼の瞳に宿っていた。
暗黒街には数多の勢力が入り乱れていた。盗賊団の頭目が膝を屈し、暗殺者たちが彼の影に潜む。フェリスは彼らと関係を築きながら、東大陸の技術と勢力を手中に収める準備を進めていた。古代の魔法技術を取り入れた禁断の力で、魔王ミカに挑む計画を着々と整えていく。
東大陸の指導者たちは、フェリスの申し出に興味を示した。魔界への影響力を強めるチャンスと見て、彼の野望に協力することを決めた。
「東大陸の力を借りて新たな秩序を築き、魔界を真に強くする指導者が必要だ」
フェリスはそう説いて、暗黒街の仲間たちを引き入れていった。現状に不満を抱く者たちは、彼の野心に惹かれ、次第に賛同するようになった。
それでもフェリスは諦めなかった。暗黒街で着実に勢力を築き、東大陸の支援を受けながら、魔界への進攻の日を夢見ていた。ミカの「退屈」こそが最大のチャンス。その隙を突いて、新たな魔界の支配者となる日を、彼は心待ちにしていた。
フェリスの目には決して揺るがない野望の光が宿り、その闇は日を追うごとに深まっていった。




