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79・魔王フェリス

毎週日曜日午後11時にショートショート1、2編投稿中。

Kindle Unlimitedでショートショート集を出版中(葉沢敬一で検索)

平和の中に漂う静けさが、次第に重く、息苦しいものに変わっていくのを、誰もが感じていた。その静けさはまるで嵐の前のように、不吉な鼓動を孕んでいた。東の大陸の暗黒街、その奥底に潜んでいた一人の魔王、フェリスが、再びその眠りから目を覚ました。かつては勇者と呼ばれたフェリス。しかし、世界に裏切られたその日から、彼は魔王と名乗り、暗黒街の奥深くで新たな力を築き上げていた。彼の影響力は暗黒街の隅々にまで根を張り、犯罪組織や裏社会の中心で暗闇を操る存在として恐れられていた。


勇者としての名を捨て、影の中で力を育んでいたフェリスは、東の大陸の勢力争いに乗じて、再び世界の表舞台に姿を現す決意を固めた。彼はかつての仲間たちに背を向け、暗黒街で新たな同盟者を手に入れた。犯罪者、追放者たち――そのような社会の底辺に生きる者たちは、フェリスの暗いカリスマに引き寄せられ、彼の軍勢の一部となり始めていた。


ある夜、暗黒街の最も奥深い広間に、フェリスはその部下たちを集めた。無数の松明が揺らめく中、フェリスの赤い瞳が鋭く輝き、集まった者たち一人ひとりの心を覗き込むように視線を巡らせた。


「我々の時代が来た。長らくこの影に隠れたままの生活を続けてきたが、今こそ暗黒街の力を結集し、世界を変える時が来たのだ。東の大陸の支配者たちは我々を見下し、ただ利用するだけの存在と考えている。だが、彼らの力など脆弱に過ぎない。私たちの力で、この大陸を支配するのだ」


部下たちは拳を掲げ、フェリスに忠誠を誓った。闇の中で名を成した者たちがそこには多く集まり、フェリスの姿に期待を込めた視線を向けていた。彼らは彼を単なる破壊者としてではなく、暗黒街の未来を示すリーダーとして信じていたのだ。


フェリスの剣技は、かつての勇者時代から変わらぬ鋭さを持っていた。彼はその剣を振るい、従う者たちに戦闘の技を叩き込み、また魔法の素養を持つ者たちには暗黒の魔術を授けていった。彼の力はただの暴力では終わらなかった。冷酷なまでに組織を統率し、その軍勢は次第に秩序と目的を持った戦力へと変貌を遂げていった。


フェリスはさらに、東の大陸の政治的な動きにも絡み始めた。腐敗した支配層に密かに接触し、その腐りきった内部に忍び込み、巧みに操りながら自らの影響力を広げていった。彼は彼らに対し、自分が彼らの敵ではないことを巧みに説得し、自らの計画に協力させることに成功した。しかし、その裏でフェリスは彼らを支配し、裏切る機会を待っていた。


そして、フェリスが再び動き出したことを察知したのは、魔王ミカの諜報部隊の長であるレムスだった。彼は、フェリスの復活が持つ意味について深く考えた。フェリスの力は、東の大陸との和平を守るための切り札となり得るが、その暴走が引き起こす危険性もまた大きかった。東の大陸との和平はラウルとの約束であり、文明の発展を見守ることはクリエーターの意思でもあった。レムスは魔王ミカに急ぎ報告を行い、魔王ミカはラウルや四天王を招集してフェリスの活動についての情報を共有した。


「フェリスが再び動き始めたぞ。奴は今、暗黒街を掌握し、影の勢力を結集しようとしておる。我らの敵となるのか、それとも同盟者となるのか、それはまだわからぬが、その力を無視するわけにはいかんのじゃ」


ラウルは真剣な表情で頷いた。「彼の存在は東の大陸にとっても、そして我々にとっても重大な意味を持ちます。彼が何を目指しているのか、そして彼がどのように我々に関わってくるのか、慎重に見極める必要がありますね」


魔王ミカは深く頷き、会議に集まった者たちに告げた。「フェリスをただの破壊者と見なすことはできぬ。奴が抱える闇は深いが、その中にはかつての栄光を取り戻したいという執念があるやもしれぬ。奴の活動を監視し、奴がどのような道を選ぶのか、我らは見届けねばならぬのじゃ」


こうして、魔王フェリスは東の大陸の暗黒街から再び活動を開始し、表舞台に姿を現しつつあった。彼の力は新たな脅威であり、同時に新たな可能性を秘めていた。ミカ、ラウル、そして四天王たちは、フェリスが選ぶ道がこの世界に何をもたらすのかを見届ける覚悟を固めた。


「もう退屈など感じている暇はないのう……」


ミカはそう呟きながら、新たな戦いに向けて歩みを進めた。

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