78・和平協定締結式
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地球の20世紀初頭の文明レベルまで発展した東の大陸は、魔界との和平を成功させた。鉄道が敷かれ、蒸気船が港を賑わせ、自動車が街の道を走る――そんな文明の進歩の中、魔界と東の大陸は、幾多の対立を乗り越え、ようやく和解の道を歩み始めた。和平協定の締結式は、東の大陸の首都で行われ、両陣営から数多くの代表者が集まり、厳かな雰囲気の中で行われた。
魔王ミカとラウルはその式典に出席し、両国間の友好の象徴として、ゆっくりと手を差し出し、握手を交わした。ミカの威厳ある佇まいとラウルの誠実な態度は、式典に集まった多くの人々に深い感銘を与えた。東の大陸の首相も、魔王の存在を前にしては最初こそ緊張を隠せなかったが、対話を重ねるうちに次第にミカの真意を理解し、その威厳に尊敬の念を抱くようになった。
締結式の夜、宴が開かれた。東の大陸の豪華な大広間には、人々が集まり、賑やかな音楽と笑い声が響いていた。ラウルは緊張気味の出席者と談笑しながら、魔界と東の大陸の文化が交わる様子を微笑ましく見守っていた。そこには、魔族と人族が共に語り合い、食事を楽しむ光景が広がっていた。互いの違いを理解しようとするその姿勢には、確かな変化の兆しが見て取れた。
「ラウル、少し休んではどうだ?」
ふと、ラウルの背後からミカが声をかけた。彼女はワインのグラスを手に持ちながら、ラウルに優しく微笑みかけていた。ラウルは、肩に溜まった疲れをほぐすように深呼吸をし、彼女の提案に応じて大広間の端の静かな席に向かった。
「思ったよりも賑やかだね。まるで、どこかのお祭りみたいだ」
ラウルは、少し離れた席でミカと向かい合いながら呟いた。ミカは彼の言葉に頷き、周囲を見渡しながら返事をした。
「そうじゃな。皆が楽しんでおる姿を見るのは良いものじゃ。しかし、これが続くとは限らぬ。人々の心にはまだ多くの不安と恐れが残っておるからのう」
ミカの視線は、楽しげに踊る人々の間に見え隠れする、幾人かの険しい表情をした者たちに向けられていた。彼女の言葉には、和平が成立したとはいえ、まだ完全な理解には至っていない現実への深い憂慮が含まれていた。
ラウルはミカの手を取り、そっと引き寄せた。「そんなこと言わないで、ミカ。君がいるからこそ、ここまで来られたんだよ。君の力強さと優しさが、どれほど僕を支えてくれたことか」
ミカは少し顔を赤らめながら、ラウルを見つめ返した。「そなたは本当に…甘い言葉が上手いのう。だが、それが嘘でないことは感じておるよ」
ラウルは微笑みながらミカの手を握り直した。「僕の気持ちはいつだって本気だよ、ミカ。君と一緒なら、どんな困難だって乗り越えられるって信じてる」
ミカは彼の言葉に優しく微笑み、「そなたと共にいることで、わらわも未来に希望を持てるのじゃ。これからも、共に歩んでいこうな」と囁いた。
その時、近くにいた魔界の臣下たちが微妙に耳を傾けていたようで、ひそひそとささやき合うのが聞こえた。
「おい、ラウル殿と魔王さま、まさに新婚さんじゃないか?」
「いやあ、ミカさまがあんなに柔らかい笑顔を見せるなんて、ラウル殿はすごいな。ミカさまの優しさは本当に深いんだなぁ」
「本当にそうだな。ミカさまはいつも我々に対しても寛大で、まさに我々の誇りだよ。新婚パワーでさらに優しさが増しているのかもしれん!」
ミカはちらっとそちらに目を向け、軽くため息をついた。「そなたたち、余計な心配をせず、ただ楽しんでおればよいぞ」
臣下たちは慌てて姿勢を正し、「もちろんです、魔王さま!」と、まるで悪戯が見つかった子供のように答えた。
ラウルは笑いをこらえきれず、つい吹き出してしまった。「ミカ、君が彼らにとってどれだけ大切な存在か、分かってるかい?」
ミカは少し照れくさそうに眉をひそめながら、「そなたも、もっとわらわを敬ってくれると嬉しいのう…新婚でも魔王は魔王じゃぞ」と小さく呟いた。
ラウルはすかさず、「じゃあ、君の力強さを味わうのは今夜の稽古のときに…いや、やっぱり新婚らしく優しくお願いしたいかな!」と笑顔で言い、ミカの顔にも小さな笑みが浮かんだ。
宴はその後も続き、魔族も人族も互いに冗談を交わし、笑顔が広がっていった。互いに少しずつでも歩み寄る姿は、未来への小さな一歩であったが、それでも確かな希望の光であった。




